安倍政権は日銀の次期審議委員に、金融刺激策の支持者を含む2人を指名した。政策委員会で現行の金融緩和政策に反対していた最後のタカ派審議委員2人の後任で、金融刺激策の支持派が日銀を牛耳ることになる。
政府は、日銀政策委員会のメンバー9人のうち次期審議委員として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員の片岡剛士氏と三菱東京UFJ銀行取締役常勤監査等委員の鈴木人司氏の2人をあてる人事案を衆参両院に提示した。
人事案が国会で承認されれば、日銀政策委メンバー全員が安倍首相による選任になる。つまり、日本に2%のインフレ率を取り戻そうという、いわゆるアベノミクスを支える積極的金融刺激策の支持派が政策委員会を占めることになる。
そうなれば、日銀の黒田東彦総裁は一段の金融刺激策を提案しても強力な支持を得やすくなり、マイナス金利や大量の資産買い入れ政策から早期に退却する可能性を低減できそうだ。
木内登英氏と佐藤健裕氏の両委員は黒田氏の政策に反対を続けてきた。7月に両氏が退任すれば、金融緩和策の継続に9人全員が支持に回る可能性がある。
JPモルガン証券のエコノミスト、鵜飼博史氏は「最もタカ派の2人が退任し、新たにハト派1人と中道1人が加わるのだから、黒田総裁の金融緩和姿勢への反対はさらに少なくなるだろう」と言う。「日銀の全体的な姿勢は9月の政策決定会合以降、より積極緩和派(ハト派)のトーンに傾くかもしれない」
片岡氏は積極的金融政策を強く支持することで知られている。原田泰審議委員など、金融緩和に積極的な「リフレ派」と共著を出したり、昨年秋にはリフレ政策の「再起動」を呼びかけた。
鈴木氏の金融政策の立場はそれほど明らかではないが、マイナス金利に強く反対する日本の金融業界の立場を日銀の中で代弁することになりそうだ。とはいえ、退任する審議委員ほど強い立場にたちそうにはない。
仮に黒田氏が18年春の任期満了時に総裁に再任されなくても、金融刺激策維持派が多数を占める可能性が今回の人事からうかがえる。黒田氏はすれすれで再任されるとみられているが、任期開始時には73歳になっており、次の5年の任期を全うできないかもしれない。
日銀は2016年9月、10年国債の利回りをゼロ%に誘導する「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。短期政策金利である無担保コール翌日物金利はマイナス0.1%に維持し、長期国債の買い入れを年80兆円ペースに引き上げた。
トランプ政権誕生後の数カ月間に、米国の金利上昇が円安につながり、日銀は目標とする2%のインフレ率を達成できるのではとの期待が再び高まった。日本のインフレ率は、4年に及ぶ刺激策にもかかわらずゼロ%近傍を推移し続けている。
そのため、日銀の次期政策委員会は積極的な刺激策からの撤退を余儀なくされる可能性が高まった。アナリストの中には、リフレ派が支配する政策委員会では時宜を得た対応が困難なのではないかと懸念する声もある。
By Robin Harding(2017年4月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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