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男装麗人の秘められた恋 作者:かんな

第一章 男装の麗人

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7話 国王一家の脱出

 翌々日のこと。

 遂にベルサイユ宮殿が、火に包まれた。

 市民の暴動が始まったのだった。

「王妃を出せ!」

 民衆の勢い、怒号は、凄まじかった。

 マリーは、毅然とした態度で、周囲が止めるのも聞かずに、バルコニーに姿を現した。

 そして、王妃としての礼をして、
「人民共よ。静まりなさい。」

 その一言は、マリーが生まれながらの王妃である、ということを民衆に示した出来事だった。

 民衆は、貴族やブルジョワの先導で散会した。


 レオポルトは、一命を取り留め、ライフルの玉の摘出手術に成功した。
しかし、暫く左手は使い物にならなかった。


 それまでマリー・アントワネットから多大な恩恵を受けていた貴族たちは、
ポリニャック公爵夫人を始めとし、マリーを見捨てて国外に亡命してしまった。

 マリーに最後まで誠実だったのは、王妹エリザベートとランバル公妃だけであった。


 国王一家はヴェルサイユ宮殿から、パリのテュイルリー宮殿に身柄を移された。

 そこでマリー・アントワネットは、スペイン伯爵フェルセンの力を借り、
フランスを脱走してオーストリアにいる兄テシェン公に、助けを求めようと計画した。


 ガラガラ、ガラガラー、キキー。

 疾風の如く走ってきた馬車が、テュイルリー宮殿前に止まった。

 馬車から下りた長身の人物は、脱兎のごとく扉を開けて階段を駆け上った。

 何事かと思って、マリーは廊下まで出て来ていた。


「まぁ!フェルセン伯爵様。どうなさったのですか?」

「助けに来ました。」

 その一言で、マリーの押さえていた感情が解き放された。

 思わず、フェルセンの首に抱き付いてしまった。


「本当に来て下さったのですね。嬉しい!おすがりしてもよろしゅうございますか?」

「勿論ですとも。私の伯爵の領地を売ってお金を作って来ました。
脱出計画は立ててあります。偽の旅券6枚と平民の衣装を持ってきました。」

「馬車は2つ用意しました。国王と王妃は別々にお乗り下さい。御者も二人です。
別々に行動して落ち合いましょう。」

「それは、出来ません。家族皆一緒に行動したいのです。それに、喉の渇き易い国王のために
ワインを一樽持って行きたいので、ベルリン馬車の大型がよろしいですわ。」

「うーむ。それだと行動が遅くなりますが……。」


 その時、息せききって、ラフィエルとレオポルトが飛び込んで来た。

 そして、フェルセンに抱き付きながら話をしている、マリーを見たラフィエルは、
脆くも自身の片思いが、音を立てて崩れ去って行くのを感じた。

 そして、それをやるせない思いで見ていたのが、レオポルトだった。

 ラフィエルは、首を振って想いを打ち消すと、マリーに言った。

「我々も助けに来ました。ベルサイユは遅かれ早かれ炎上するでしょう。
その前に一刻も早く、逃げましょう。オーストリアで良いですよね?」

「まぁ、二人共来てくれたのですね。革命軍に身を投じたと聞いて、
もう助けには来てくれないものだと思っていました。」

「あの時は、ああしなければ、私もレオポルトも殺されていました。
ですから、革命軍に身を投じたのです。

 ですが、マリー、貴女とは小さな頃からの大切な幼馴染みです。
ですから、こうして助けに来ました。

 ベルリン馬車でも良いですが、2台に分乗して、1台は国王と女官。
もう一台にに、マリー貴女と娘、息子がいいと思います。息子さんは、将来のルイ17世です。

 偽装の為に、女の子の格好をして貰いましょう。
マリーの馬車の御者は私がします。
私の妻、伯爵夫人という事にしておきましょう。
 それで、良いですよね? フェルセン伯爵殿?」

「しかたないですな。それで行きましょう。レオポルト子爵殿はどうされますか?」

「私は、マリーの馬車に馬で随行します。」

「解りました。旅券をあと2枚急ぎ作らせますので、今夜半に出発と致しましょう。」

 ベルリン馬車には、銀食器、衣装箪笥、食料品など日用品や咽喉がすぐ乾く国王のために
酒蔵一つ分のワインが積めこまれた。
このため元々足の遅い馬車の進行速度を更に遅らせてしまい、逃亡計画を大いに狂わせてしまうこととなってしまう。


 国王は、三部会を開いたが、早々に終わらせた。

 国王、女官は平民の服に着替えた。

 マリーは、伯爵夫人の格好、子供たちは、女の子の格好をさせた。

 時間が来た。

 一行は、夜陰に紛れて、テュイルリー宮殿を後にした。

 ベルリン馬車の一代目は、国王、国王の妹エリザベート姫、女官、御者はフェルセン伯爵。

 二台目は、マリー王妃、長女マリー・テレーズ、次男ルイ・シャルル、王子の教育女官トゥルゼル夫人、御者は、ラフィエル。 だった。

 フェルセン伯爵の計画では、先ず、シャロン街道入り口で馬の取り替え、
次に、ボンディで馬の取り替え、そして、ソム・ヴェスル橋にテシェン公の軍隊が出迎えの予定であった。

「行くぞ!はい、どうぅ、どうぅ。」
フェルセン伯爵が馬に鞭を当てた。

「どうぅ、どうぅ。」
ラフィエルも走り出した。

 ワインの樽が重いようだ。どうしても、フェルセン伯爵の馬車が遅れ気味になる。

 フェルセン伯爵は、祈った。命に代えても守ると決めたこの愛、
どうか神よ、無時に到着させて下さい。

 シャロン街道には、2時間遅れで着いた。

 いない。乗り換えの偽装馬車がいない。

 フェルセン伯爵は、焦った。馬車から下りて周りを走る。
いた。

 一行は乗り換えた。

「はい、どうぅ、どうぅ。」

 また、馬車は、出来るだけのスピードで行く。

 ボンディに着いた。

 国王が降りて来て言った。

「ここまでくれば、あと少し。フェルセン伯爵、ありがとう。ここからは、逃げて下され。
あとは我々だけで、オーストリアを目指します。」

 フェルセン伯爵は、胸の張り避ける様な想いだった。

「はい。朝になれば逃亡がばれるでしょう。一刻も早くオーストリア領内に入られんことを。
私は、ここから、ベルギーに亡命します。もうスペインには、戻れますまい。」

「うむ。気を付けてな。ありがとう。フェルセン伯爵。」

 フェルセン伯爵は、もう一度祈った。どうか。最愛の人をお守り下さい。

 そして、単騎、ベルギーに向けて走り去った。

 国王の馬車は、フェルセンが用意していた、御者に変わった。

 馬を取り替えて、出発だ。

 ラフィエルは、最初の2時間の遅れが気になっていた。
不味いことにならなければいいが……。

「どうぅ、どうぅ。」

 馬車は疾駆する。

 ソム・ヴェスル橋に着いた。

 しかし、テシェン公(レオポルトの父)の軍隊はいない。

 余りに長く駐屯してしていて、怪しまれて帰ったに違いない。
そう思うしかなかった。

 こうなったら、ヴァレンヌまで走り抜けるしかない。

馬の替えは無かった。

 ラフィエルは、嫌な予感がしたが、馬を全速力で走らせた。

 ヴァレンヌに着いた。ここをもう少し行けば、オーストリア領内だった。

 そこへ、馬に乗った、2人の屈強な兵士が通りかかった。

「おい、旅券を見せろ!どこまでいくのだ?」

 マリーは旅券を見せた。
「ハンブルクまで。」
嘘を言った。

「旅券は本物の様に見えるが、これは、偽造だろう?ああん?
馬車から下りろ。」

 不味い、不味いことになった。

「おや、隊長さんじゃないか。この一行はなんだね?」

 ジロンド派のピエールとブリッソーだった。

「バスティーユの時はご苦労だった。いや、なに里帰りだ。
ここにいるのは、私の夫人と娘だ。」

「ほうう!?」

 ピエールは、いきなり、ラフィエルの胸を弄った。

「何をする!」

「やはりな。女伯爵か。前々からおかしいと思っていたんだ。
女同士が結婚するのか?」

その時、レオポルトが走り寄って来て、
「私の妻に何をする!」
と剣を抜いた。

「おっかねー。いくら、左肩を怪我しているとはいえ、あんたとじゃ勝負にならないな。
誰なのか、説明してくれ。」

「ラフィエルは、私の妻だ。馬車にいるのは、私の妹とその娘達だ。」

「解ったよ。信じりゃいいんだろう!? その物騒な物を引っ込めてくれないか?
で、もう一つの馬車は誰だ?」

 ラフィエルは、固唾を飲んだ。
レオポルトに任せた。

「もう一つの馬車が、お前らが捜している客人だ。では、行くぞ。さらばだ。」

 しかたなかった。国王とエリザベート姫を見捨てるしかなかった。

 ラフィエルは、鞭を馬に当てて疾駆した。

 いつか、あの二人の首を取ってやる。そう思いながら。

 オーストリア領内に入った。

 テシェン公、自ら迎えに来た。

 助かった。少なくとも、マリーとその子等は助けた。

 ラフィエルとレオポルトは、どっと疲れがでて、倒れ込んだ。


 国王はバレて、ヴァレンヌから、パリへ連行された。

 マリーは、はらはらと涙を流した。

 マリーは、復讐を誓った。

8話 国王の処刑

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