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5話 衛兵隊
マリー王妃は、4人子供を産んだが2人は夭逝してしまい、女1人、男1人の母親となっていた。
長女マリー・テレーズ、次男ルイ・シャルルである。
そんな矢先に、“首飾り事件”が起きた。
詐欺事件であった。
ヴァロワ家の血を引くと称するジャンヌ・ド・ラ・モット伯爵夫人が、王室御用達の宝石商ベーマーから160万リーブル(金塊1t程度に相当する)の首飾りをロアン枢機卿に買わせた。
それを王妃マリー・アントワネットに渡すと偽って騙し取ったのである。
真相を知らない者達には、王妃の公費乱用としか受け取られなかった。
マリーに取っては、さらに民衆の怒りの矛先が向けられるようになった事件であった。
ルイ16世は、即位直後から慢性的な財政難に悩まされ続けた。
それにも関わらず、イギリスの勢力拡大に対抗してアメリカ独立戦争に関わり、アメリカを支援するなどしたため、財政はさらに困窮を極めた。
また、海軍力の整備に力を入れ、シェルブールに軍港を建設した。
一方でローヌ男爵にして学者ジャック・テュルゴーや銀行家ジャック・ネッケルなど、経済に詳しい者を登用して改革を推進しようとしていた。
また、拷問の廃止を王令で布告するなど、人権思想にも一定の理解を示していたのである。
そして、名士会の開催と三部会招集の布告を行なった。
ルイ16世は政治に積極的に関わり、フランスの変革に努力を注いでいたのである。
しかし「高等法院なしに国王はない」とのモールパ伯の進言により、
ルイ15世が弱体化させた高等法院を1774年に復活させたことにより常にその抵抗に遭い、改革は妥協を強いられ抜本的な変革には至らず、また財政の決定的な建て直しには及ばなかったのも事実であった。
保守派貴族は国王の改革案をことごとく潰し、結局改革は挫折した。
一方、アメリカ独立戦争を支援したことから、「アメリカ建国の父」たちにはルイ16世に崇敬の念を抱く者が多かったのだが……。
貴族層に対抗する窮余の策として招集した三部会は思わぬ展開を見せ、平民層を大きく政治参加へ駆り立ててしまった。
「レオポルト、一緒に衛兵隊をちょっと覗きに行って見ないか?」
ラフィエルが持ちかけると、一もなく、
「それは、いいことだ。行って見るか。」
ということで、衛兵隊を二人して覗きに行った。
二人が見た光景は、悲惨だった。
髭は伸び放題、髪も同じ。昼間から、安酒のワインを飲んでいる。
稽古をしている者は皆無だった。
「お前達、稽古しないで、いざという時に役に立つのか!?」
二人が揃って聞くと。
「おやおや、どこかのお嬢様かと思ったら、あの浪費家の王妃にくっついて来た腰巾着か。
俺たちは、剣の稽古なぞせずとも、十分に近衛隊より強いわ。」
「なんだと! この前舞踏会に乱入事件まで起こしておいてなんていう言い草だ!」
ラフィエルが目を剥けると、
「ほぉう。それなら、勝負してみるか。お前らの様なひよっことは違うところを見せてくれるわ。」
と親分とその右腕らしき3人が一斉に剣を抜いて構えた。
「不味いことになったな。流血騒ぎはご法度だ。」
小声でレオポルトに囁くと、
「峰打ちにすればよい。」
と囁き返して来た。
「行くぞ!」
一の子分が襲って来た。
難なく、レオポルトは相手の剣を払い、宙に浮かせた。
そして、喉元にレイピアの切っ先を突きつけた。
「ま、待ってくれ!」
子分が懇願する。
「親分が土下座するなら、許してやろう。」
レオポルトが言い放つ。
それを聞いた、親分は、いきなり、ラフィエル目掛けて飛び掛って来た。
ラフィエルも難なく、その剣を払って宙に飛ばした。
そして、心臓5㎜で寸止めした。
親分は、真っ赤になり、
子分に目配せした。
全員が、ラフィエルとレオポルトに土下座をして許しを乞った。
「うむ、解ればよし。因みにまともな食事にありつけてないのか?」
「ああ、そうだとも。近衛隊はご馳走食べてるがな。我が衛兵隊は、ご覧の様に貧乏そのものだ。
市民達もそうだよ。近いうちに暴動が起きる。
もう我慢の限界だ。」
「それは、いつごろ、どこを襲うのだ?」
「恐らく、一週間以内に、バスティーユが襲撃されるだろうて。」
「確かか?」
「ああ、市民義勇兵が言ってたからな。確かだべさ。」
「そうか、ありがとう。」
ラフィエルとレオポルトは、事態はかなり深刻な状態に来ていることを思い知らされた。
そして、二人が声にこそ出さなかったが、心底心配したのは、マリーのことだった。
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