3/7
3話 ベルサイユ宮殿の園遊会
新年の挨拶に訪れたデュ・バリー夫人に対し、あらかじめ用意された筋書きどおりに、
「本日のベルサイユは大層な人出ですこと。」
とマリー・アントワネットが声をかけることで表向きは終結した。
その後、マリーは、はアデライード王女らとは距離を置くようになった。
ベルサイユ宮殿で、大規模な園遊会が開かれた。
結婚してもなかなか子供ができないマリーが、寂しさ故に夫のルイ王太子に頼んで開催されたものだった。
各国から、高位の貴族達が集まって来た。
その中に、スペインのフェルセン伯爵もいた。
貴族社会では、もっぱらフェルゼン伯爵は長身のイケメンで、武勇にも優れているとの評判で各国の姫達が放っておかない男だった。
また、レオポルトも宮廷内で人気があり、ダンスを誘ってくれるのを待っている姫に囲まれていた。
ラフィエルは、背丈こそ男としては中背であったが、その美貌が中性的であるというので、また違った意味で人気を博していた。
王立管弦楽団が、ワルツの演奏を始めた。
ワイングラスを片手に談笑していた、フェルセン伯爵は、ワイングラスを近くのテーブルに置くと、先ずルイ王太子に向って、
「この度は、ご結婚おめでとうございます。早く世継ぎがみたいものですな。」
と社交辞令を言って、王太子妃のマリー・アントワネットとの踊りの許可を求めた。
「うむ。フェルセン殿も息災でなにより。まぁ、子は天からの授かりもの故、そのうちに出来るであろう。マリーと踊ってやっておくれ。あやつも退屈しているであろからな。」
王太子の許可が下りると、早速、フェルセンは、
「これは、王太子妃様。ご機嫌うるわしゅう。フランスでの生活は慣れましたかな?」
「ええ、慣れましたわ。」
と流暢なフランス語で答えた。
「おお、流石ですな。そこまで、フランス語を操れる様になるとは、流石は賢いハプスブルク家ご出身ですな。
是非、ご一曲お願いできませんか?」
フェルセン伯爵は、優雅な物腰で、マリー王太子妃に左手を差し出した。
マリー王太子妃は、ニッコリと微笑んでその手を取り、フェルセン伯爵のリードに任せてステップを踏み始めた。
「いやぁ、流石にダンスも超一流ですな。感服致しました。そのティアラは豪勢でとても妃にお似合いです。」
と言いながら、耳元に口を近づけて、囁いた。
「もし、王太子妃でなければ、私が貴女をさらっていたでしょう。」
「え、え!? まぁ、嬉しいこと。」
マリー王太子妃は、今の一言で、フェルセンに好意以上の物を抱いてしまった。
まずいわ。こんなことではいけないわ。
一曲が終わった。
フェルセン伯爵は、軽く、マリー王太子妃の頬に接吻をすると、一礼をして立ち去った。
マリー王太子妃は、暫く呆然と立ち尽くしていた。
フェルセン伯爵の次に目に留まったのは、ラフィエルだった。
ラフィエルに近づいて、
「一曲お願いできますかな?」
と言った。
ラフィエルは、つい、左手を差し出してしまった。
踊り出してから、はたと、気付き、
「私は、男で近衛隊に所属する子爵であるが……。」
と言うと、
フェルセン伯爵は、
「まぁ、綺麗なら男同士でもいいではありませぬか。私は、スペインのフェルセン伯爵と申します。」
ラフィエルは、一瞬自分が女に戻った様な錯覚を起こして、女のステップで踊った。
「ほう、男女どちらのステップでも踊れるのですな。素晴らしい。
男にしておくのは勿体ない。女であれば、私が攫って行くのに……。」
その言葉で、ラフィエルの心臓は早鐘の様に鳴った。
ドキンとした。
まずい。私としたことが……。
ラフィエルは、早々に礼をして、切り上げた。
そして、宮廷の姫達の中に入って行き、姫の一人を選んで踊りだした。
ラフィエルもまた、フェルセン伯爵に心を奪われた様に見えた。
その出来事を、踊りながら、一部始終見ていた者がいた。
レオポルトであった。
レオポルトは、悔しさに唇を噛みしめていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。