脳の中には「快感回路(報酬系)」と呼ばれる神経系がある。
買い物、オーガズム、学習、高カロリー食、ギャンブル、祈り、ダンスなどなど、ありとあらゆる快感は内側前脳快感回路と呼ばれる脳領域を活性化して人間に快楽を感じさせる。
この本はその「快感回路」について書かれた本である。
快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか (河出文庫)
- 作者: デイヴィッド・J・リンデン,岩坂彰
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/08/06
- メディア: 文庫
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最初に一つ言っておきたいことがある。それは快感が関わる内容なので時にエロい話もあれば、倫理を吹き飛ばしたような話もあるということ。
まずは快感回路が見つかった時の話から始まる。ネズミの脳みそに電極ぶっさして、特定の場所に行くと電気刺激してやる装置を作った。
そうしたら、その場所に何度も何度も訪れる。
なので今度は別の場所に行くと電気刺激を行うようにしたら、今度は学習してそこに行くようになった。
そして、レバーを操作すると自分で自分の脳に電気刺激を与えられる装置を作ったところ、ネズミは1時間に7000回もレバーを操作した。
この時電極をぶっさしていた領域が快感回路だったのだ。
発情期のメスが近くにいても無視してレバーを操作し続けるマウス。
子供を産んだばかりなのに無視してレバーを操作し続けるメスのマウス。
1時間に2000回のペースでレバーを操作する。それを24時間続けるマウス。
放っておくと餓死してしまうので、仕方なく装置から外す研究者。
これだけでも十分快感回路のヤバさが伝わるだろう。
倫理観をふっ飛ばした実験は同性愛者の男性に電極ぶっさして、異性愛行動を実行させてしまう実験だろう。
B-19と呼ばれる患者は24歳で平均的な知能を持つ同性愛者の男性。うつ病を患い強迫性障害の傾向をみせていた。
もちろん、快感回路を刺激することに成功し、電気刺激の装置を渡すとずっといじり続けたのは言うまでもない。
異性愛者になるかどうかの実験の話に移ろう。
まずは脳に刺激を与えない状態で男女のポルノビデオを15分見せた。
もちろん、性的興奮などしないB-19。むしろ少々腹をたてたそうだ。
脳に電気刺激を与えると再度ビデオを見ることを簡単に了承し性的興奮、勃起、自慰行為からのオーガズムまで達成した。
次に行ったのは実際に女性と性行為できるかどうかだった。
B-19は電極に繋がれたまま大学の研究室で売春婦と交わることになった。
2時間に及んだ性行為は論文に詳細に記録され、最後の一文には「女性の膣に射精した」と書かれてあった。
その後のB-19であるが、退院後既婚女性と数カ月に渡り肉体関係を持ったらしい。
同性愛行動は減少したが完全にはなくならず、金を稼ぐために男性客をとっていたとのこと。
道徳や倫理がどこかにいってしまっている実験である。
個人的に思ったことだが、同性愛者に異性愛行動をさせられるのならば、逆に異性愛者に同性愛行動をさせるのも可能なはずだ。
結局快楽回路を刺激すれば性の対象などなんでもいいのではないだろうか。
食べたいと思うのはレプチンというホルモンが関係している。
このレプチンは脂肪細胞からのみ放出される。
レプチンの放出量が減れば食う量増えるし、レプチンの放出量が増えれば食う量が減る。
この機構はヒトだけでなく犬やマウスも同じなのだ。レプチンが減れば腹は減るし、レプチンが増えれば食いたくなくなる。
当然、この食う行為にも快感回路が関わっている。薬物を使った時や電極で刺激してやると快感を感じる部位が、食べ物を食べても同じように活性化する。
そして、高カロリー食を食べ続けると、そのうち快感回路が麻痺してきて食べても物足りない感じになってくる。薬物依存と同じように慣れてしまうようだ。
食べて感じる快感は薬物で感じる快感と同じ部位で発生しているし、食べ続けていればそのうち慣れちゃって快感感じにくくなる。
ダイエットがつらいのはもちろん、食っても満足しないようになるのはつらいねぇ。
NHKためしてガッテン やせるスイッチ 太るスイッチ女性のための成功ダイエット
- 作者: NHK科学・環境番組部専任ディレクター北折一
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2009/11/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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初めてこの本を読んだ時「性的な脳」の章があまりにも衝撃的だったのでTumblrに引用をのせたことがある。
http://tsukenosuke.tumblr.com/post/26207856219
動物達の性行動の多様さときたら、それはそれは半端ない。
オスのバンドウイルカはうなぎをペニスにまとわりつかせるマスターベーションを行い、アマゾンカワイルカはオス同士で互いの噴気孔にペニスを挿入する「鼻セックス」を行うというのだ。
マスターベーションに他の生物を使うのは人間でもかなり変態度が高い行為といえるだろう。
それをイルカはやっているというのだから「変態すぎて近づきたくない」というのが個人的な気持ちで、「頭がいいから殺しちゃだめ」はあいつらの本性を見ていないとしか言い様がない。
「イルカってやつはオス同士で鼻にペニス入れ合うんだよ、頭いいね!」と言ったらどういう反応が帰ってくるのだろうか。
このあとは恋愛の話になっていき、強迫性障害と恋愛には似ている面があるという話や、脳にとって恋愛と性的興奮は一部共通する部分があるが、まったくの別物であると言えること。
オキシトシンを鼻にスプレーすると、相手への信用が増す。
時に相手に何度も裏切られてもどうしても信用した行動をとってしまうのだという。
これを使えば、詐欺なんて簡単だ。信用を得たいならとりあえず、鼻にオキシトシンスプレーをぶっこもう。
ギャンブル依存症について書かれた章では、どうやら脳には不確実性に快感を感じる機能があると書かれている。
サルの実験なのだが、青い光が光ると1.8秒後にシロップが五分五分の確率でもらえる装置を作る。
その時のサルの脳の反応は、青い光が光ってから1.8秒間徐々にドーパミン・ニューロンの発火が高まっていき、青い光が消える瞬間に最大値となる。
ギャンブルに置き換えると、スロットマシンが回っているときに快感が最大になるということだ。
結果がどうなるかわからない、期待が膨らんでいる時に快楽を感じる。脳にはそういう機能が備わっている。
薬物依存や食べ物依存、ギャンブル依存は共に、ドーパミン機能が鈍くなっているらしい。
快感を感じにくいが故に依存症におちいるのだ。
ほかにも、ランナーズハイ、瞑想、慈悲による快感、社会的評価の快感、隣人との比較が快感回路に影響など。
なかでも、情報そのものが快感を導くという話には、個人的に納得せざるを得なかった。
私がなぜ本を読むのかといえば、情報が欲しいからである。
日々ニュースをみるのは情報がほしいからだ。しかもいますぐに欲しいからだ。
はてぶを見渡し、tumblrを眺め、本を読み、やりもしないゲームの情報を仕入れ、どうでもいいゴシップをみずにはいられない。
パソコンの前に座りなにもやることがないとき、気がついたらはてぶのページを無意識に開いていたことが何度もあった。
なぜそんな行動をとってしまうのかといえば、人間の脳にはもともと情報そのものから快感を得る機能がついているからなのだ。
いや、そうじゃないかもしれない。
脳はなんでも快感にしてしまえるのだろう。SMによる痛みで快感を感じる人がいる。放置プレイで快感を感じる人もいる。
そう考えれば、脳の柔軟性には感服せずにはいられない。
そして、その柔軟性故に依存症も起こるのだ。
なんでも快感にできてしまうが故に、なんにでも依存症がおこるのだ。