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行動で愛を証明しよう

藤沢数希「恋愛工学」問題特設ブログ。性暴力・デートDV反対!主に書物の中の性差別表現について考えています。

女性搾取的アニメと草食系男子との関連(2)

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VHSデッキの普及とともに大人がアニメを見るようになった

それまで子どもが見るものであったアニメを、大人にも見せていこうとし始めたのが『ナウシカ』であり『エヴァンゲリオン』だったと思います。

簡単なことで、子ども相手であれば玩具や菓子程度しか売り上げが見込めませんが、当時家庭に普及し始めたVHSビデオで視聴するOVAを販売すれば、客単価が上がります。

そこでシナリオも大人向けになり始めた。冒頭の「『エヴァンゲリオン』のエンディングテーマの『Fly me the moon』はジャズの定番」というのは、まさに作り手側がしかけた、成人男性に対してのマーケティング戦略に森岡さんがひっかかっているというだけです。

森岡さんは『ナウシカ』が大好きで、『男は世界を救えるか』で『ナウシカ』への偏愛を語っていますが、あの物語も歪な物語です。

というのは、ナウシカの同世代の男性で、働き手になる人物が不在なのです。おそらく戦争で同世代の男性が出兵してしまっているか、戦死したのだと思います。ユパ様では老いすぎています。一方アスベルでは若すぎるのです。そこでナウシカのところに外交・研究・育児・介護・戦争と、たくさんの仕事が集まっています。ブラック企業状態です。

しかしナウシカも、生理があるはずなんです。あんなに超人的に働けるわけがないのです。

私たち女性は、翌年の『ウテナ』を見て、「男はいつまでたってもピーターパン・シンドロームの夢の中、一生学園の中で暮らすつもりらしい。あいつらは使えないから置き去りにして、女だけでやっていこう」と見切り発車して社会に出ています。にもかかわらず、男の方は十年経っても『エヴァンゲリオン』。この手のオッサンの酒飲み話は同窓会の席だけにしてほしいです。

これは森岡さんだけではなく、大学で教えながらサブカル評論をやっている男性言論人全般に対する異議申し立てなんですけど、もう自分のモラトリアムを伸ばすために仕事するのはやめてほしいのです。国益に反します。

大人向けのアニメの作り手側も、現代思想を勉強した上で脚本制作をしています。例えば『エルゴ・プラクシー』というアニメが2006年頃に作られていますが、ずばりドゥルーズやガダリという名前の登場人物が出てきます。評論家や哲学者受けを狙って制作されています。ですので、ポップカルチャーに世相の手がかりを求めて評論しても、ネタ元が同じなので時間の無駄です。

そもそも学者やアニメ制作者のような職業を選択するのは優男であり、男らしい男は大学の学部選択の時点でちがいます。偏った価値観が偏った層の人々の間でぐるぐる回って、現状追認されたような錯覚を感じ、そこで停滞してきたのだと思います。

景気悪化が深刻化し、コンテンツ産業の制作現場のブラック化が深刻化した。作家の育成に時間がかかる教養小説ビルドゥングスロマン)の算出が減る。別の価値観が登場してこないというところに時代の悲劇があったのではないかと思います。

私はむしろ、健全な価値観の豊かな教養小説がなぜ出てこないのかというほうに問題があると思っています。デュマやジュール・ヴェルヌみたいな、男の子が大冒険をして健全に育っていく物語(日本では歴史的に『ジャンプ』が役目を担ってきたのですが)がほとんど出てこない。『ワンピース』ぐらいではないでしょうか。ちょっと斜に構えたような、思考実験的な作品が多いです。