2017年2月に刊行された横尾宣政氏の『野村證券第2事業法人部』は8万部突破、2016年の10月に刊行された國重惇史氏の『住友銀行秘史』も13万部と、大きな反響を呼んでいる。いずれもバブル期の金融機関の内実を当事者が実名で綴った話題作だ。
あのとき何があったのか。いま記憶にとどめるべき「バブルの教訓」とは何か。横尾氏と國重氏に本音を語ってもらった。
――金融関係者の間では、「あれ、読みました?」と、両書を読んだかどうかが挨拶代わりになっていると聞きます。どちらもバブル期の金融機関の内実を当事者が実名で綴ったものですが、なぜ今、あの時代に関心が高まっていると思いますか。
横尾 國重さんの本も、私の本もそうですが、バブルがはじけたばかりの頃ではとても書けなかったと思います。バブルを煽った当事者たちに、どこかやましい気持ちもあって、なるべく真相を隠そうとしていたんです。
しかしバブル崩壊から25年以上が経ち、亡くなられた方やリタイアされた方も増えてきた。それでようやく、あの時、何が起こっていたのかを正直に話せる時期が来たということでしょう。
國重 確かに、時間が経ったことは大きいでしょうね。私はもうひとつ、2020年の東京オリンピックに向けて、今の日本経済にバブルが生まれつつあることも背景にあると思う。
金融機関の関係者をはじめ、現代の多くのビジネスマンは、東京五輪が終わればバブルは弾けてしまうと懸念している。その時が来たらどうなるのかを、過去の歴史から学ぼうとしているのではないでしょうか。
――お互いの著書を読んでの感想は?
國重 証券業界というのは大変な世界だな、とあらためて思いました。時にはお客さんが損をするとわかっていても、株を売らなきゃいけないんですから。
横尾 私は就職する際、住友銀行の内定ももらっていたので、もし入社したらどうなっていただろうと想像しながら國重さんの本を読みました。やっぱり私には向いていない業界ですね(笑)。
國重 本を読んでよくわかったのは、ひとくちに金融業といっても、銀行と証券では違いが大きいということ。
私たち銀行マンは「減点主義」ですから、ひたすらお行儀よく、波風立てずに仕事をしなければいけない。対して証券業界、特に野村證券の場合は「とにかくカネを稼いできた奴が一番偉い」というカルチャーがあったのではないかと思います。
横尾 そうかもしれません。銀行マンのように慎重な人は野村にはひとりもいなかった。みんな気が短くて、アイディアを思いついたら即、行動に移す人間ばかりでした。
國重 銀行は、相手の将来性や担保など、会社が決めた規定に基づいてカネを貸せばいい。でも証券マンは株を売るために、自分でいろんな理屈を考えなければいけないんですね。
横尾 むしろ証券マンは、利回りが決まっている商品を売るのは苦手なんですよ。たとえば昔、「中期国債ファンド」という商品がありました。国債を中心に運用するので安全性が高く、元本割れしないというのが売りですが、そのかわり大きく儲かることもない。こういう「夢のない」商品は売りにくかったですね。
普通の株なら、「これからの日本の経済はこの分野が伸びる。だからこの銘柄がお勧めです」という具合に、ストーリーを自分で組み立てて売ることができるんですが。
國重 そんなこと言って、また損をさせるんじゃないですか(笑)。営業マン時代のえげつない話を読んで、「どれだけギラギラした人なんだろう」と思っていたんですが、本を読んで描いていたイメージとは違うのでホッとしました。
横尾 その言葉、そのままお返しします(笑)。
――それにしても、銀行と証券では同じ金融業と言っても、だいぶ違う。
國重 もうひとつ驚いたのは、かつての野村證券では上司が部下に暴力を振るうのが当たり前だった、ということです。横尾さんもずいぶん殴られたとか。
横尾 拳で思い切り殴られるのは日常茶飯事でした。怒った上司が電話機を部下に投げつけたり、ガラス製のテーブルマットをたたき割る、なんてこともありました。課長が部下の奥さんを呼びつけて「奥さん、こいつのせいでみんな迷惑してるんです。なんとかしてください」と怒鳴っているのを見たこともあります。
國重 当時はパワハラなんていう言葉もなく、住友銀行にも部下から「暴力部長」と呼ばれている人がいました。私はその部長が部下にマッチ箱を投げつけているのを見たことがあります。それで「暴力部長」ですから、野村に比べればかわいいものです。
横尾 部下のほうも黙って殴られているだけじゃなく、反撃するんですよ。
私も若いころ、一番怖いと言われていた常務に胸ぐらをつかまれて「お前、ぶち殺してやろうか」と凄まれたので「殺す勇気もないくせに、何言ってやがる」とやりかえし、4時間くらい口論したことがあります。
最後になぜか常務が大盛りのざるそばとかつ丼を注文して、「偉そうなことを言いやがって。これ食ってみろ」と言われて終わった。
國重 飯を食わせて和解するわけですか(笑)。