ツイッター発ベストセラー『ニンジャスレイヤー』
—— 今日はご来社いただきありがとうございます。noteで運営されている継続マガジン「ニンジャスレイヤープラス」がすごい人気で、ダイハードテイルズさんのことがとても気になっていたんです。このアカウントは、おふたりで運営されているんですよね?
本兌有(ほんだゆう 以下、本兌) はい。僕と杉のふたりでやっています。
杉ライカ(以下、杉) 今日はよろしくお願いします。
—— まずは、この「ニンジャスレイヤー」という作品について、簡単に伺ってもいいですか? 本も出ていて、すごくたくさん売れているんですよね。
杉 そうですね、シリーズ累計150万部くらいです。小説では既に18冊出ており、漫画は3種類出版されています。2015年には、アニメ化もされていますね。
—— おおーすごい! 拝読させていただきましたけど、サイバーパンクでアメコミな感じのお話ですよね。
本兌 はい。舞台は「ネオサイタマ」という、サイバーパンク的な世界になった近未来の日本です。そこで、主人公を含めたニンジャたちが戦いを繰り広げるというお話ですね。「ブレードランナー」をイメージしてもらうと、近いかもしれません。
—— なるほど。おもしろいのが、日本のことを理解しているのか、誤解してるのかわからない描写があるところですね。東京湾にある「ネオサイタマ」という都市もそうですし、平安時代の鉄人戦士で「ミヤモトマサシ」というキャラクターがいたり、手裏剣も……。
本兌 「スリケン」になっていたり(笑)。
—— まさに、よくある「外国人から見た、ちょっと間違った日本」という感じですよね。
杉 ブレードランナーとか、今度やる攻殻機動隊とか、ベイマックスのサンフランソーキョーとか、非常に多くの作品を通して、我々の中に醸成されている「あの、ああいうもの」がありますよね。普通の007みたいな洋画であっても、日本人の名前がおかしかったりとか。そういう違和感を積極的に楽しめる作品だと思います。もともとは、ツイッターで連載したのが始まりで……。
—— そう。ツイッターなんですよね。小説をツイッターで連載するって、なかなか聞いたことがないんですけど。
本兌 こんなふうに、ツイッターに、「ニンジャスレイヤー(@NJSLYR)」というアカウントを作って、1センテンスずつつぶやいて連載しています。
本兌 一般的に「ツイッター小説」というと、140字以内で完結する、非常に短いお話を指すことが多いんです。でも「ニンジャスレイヤー」は連作短編で、ひとつひとつのエピソードが長い。だから、こうやっていくつもツイートすることで連載という形をとっています。
—— これは新しいですねえ。
杉 だいたいひとつの章を2〜3時間かけて、20〜30回に分けてつぶやいています。それを、週に3〜4回行う感じですね。
—— 順番がわかるよう、番号が振ってあったりもするんですね。すごいなあ。連載用のアカウント、フォロワーも6万5000人もいるんですね。この形での連載は、いつごろから始めたんですか?
杉 2010年からなので、もう7年目になります。最初は誰も反応してくれなくて、意地でやっていましたね(笑)。
本兌 内容はおもしろんだから、いずれウケるはずだ!と信じて続けていました。
—— 実際、長い時間をかけてツイッターから徐々に盛り上がり、書籍化、漫画化されるまでの大ヒットになったわけですよね。
本兌 ツイッターの連載を見た出版社から声がかかったんです。ツイッターを通して、これだけ読者がいるんだ、というプレゼンをできたことで、ようやく本にできました。
会社員からツイッター作家になるまで
—— おふたりは、もともとは会社員だったとお聞きしました。
杉 はい。普通の仕事をしながら、空いた時間で「ニンジャスレイヤー」をやっていました。
本兌 ぼくも作家業とは全く関係のない仕事をしていましたが、今はふたりとも独立して、作家一本になっています。
—— ツイッターでの連載から作家になるって、すごく新しい作家の形ですよね。
杉 そうですね。たぶん、ツイッター出身というのははじめてだと思います。
—— もともとおふたりは、どういうつながりだったんですか?
杉 はじめはオンラインゲームで知り合った仲でした。だからお互い顔も見たことがなく、ほとんど会うことのないまま一緒に小説を書いていましたね。
本兌 ツイッターでの連載を始める前から、実はウェブのテキストサイト的なところで、ちょこちょこはやっていたんです。でもウェブ2.0以降、そういうサイトがやりづらくなってしまった。それで一時期ネットから遠ざかっていたんですが、mixiが流行ったころにまた再開して、そうしたらその後、ツイッターが流行りはじめたんです。そのタイミングで僕らもツイッターに移ったら、そこでようやく話題になったという。
—— なるほど。ずーっとあった火種が、ツイッターによって大きな炎になったわけですね。
杉 ええ。やっぱりツイッターの爆発力がすごく強かったと思いますね。
本兌 われわれも、こんなふうにハッシュタグが盛り上がったり、みんなが実況してくれるようなコミュニティができるとは想像していなかったので、テクノロジーによって小説の形が変わっているのを最近実感しています。
ハッシュタグで生まれるファンの盛り上がり
—— いま、「ハッシュタグが盛り上がる」「実況してくれる」っておっしゃいましたが、説明していただいていいですか?
杉 「#njslyr」という、ニンジャスレイヤーのハッシュタグをつくったんです。連載時には、このハッシュタグをつけたリアルタイムの実況や、ファン目線での解説が盛り上がるんです。
本兌 実況は、あとからファンの方がトゥギャッターにまとめてくれていて、たとえばこんな感じですね。
—— なるほど、こうやってリアルタイムで連載を楽しんでいるんですね。リツイートやファボもかなりされていますね。
本兌 そうですね。特徴的なエピソードや、風刺的な内容を含んでいるときは、500〜1000リツイートまでいくときもあります。
—— 感想以外に、イラストも混じっていますね。
杉 それも、読者の方のツイートですね。「#ウキヨエ」というハッシュタグで、登場キャラクターを自由に描いてくれているんです。
—— ええ! ファンアートなんですか。#ウキヨエで投稿するんですね。それにしてもクオリティが高い。
杉 はい。公式デザインがないので、新しいキャラが出たら、みんなが思い思いに描いてくれています。
—— 公式デザインがないというのは、これから出るということですか?
杉 いえ、原作者のボンド&モーゼズ氏の意向として、公式絵はつくらないことにしているんです。一応、書籍に挿絵はあるんですが、あくまでもひとつの解釈、という位置づけにしています。これに縛られずに、自由に描いてもらいたいので。
本兌 書籍の挿絵を描いてくださっている「わらいなく」さんも、最初は「#ウキヨエ」を投稿してくれていた方でした。イラスト以外にも、音楽をつくる人もいるし、立体物をつくる人もいます。
—— まとめ数が多いから、カテゴリまで作られているんですね。本当にすごい反響です。
本兌 こうした反響を見ていると、読者はライブハウスのオーディエンスの人たちに似ているなあと思いますね。
ツイッターをライブハウスにする方法
—— あーそうか。これは作家のライブみたいなものですね。なるほどなあ。
本兌 はい、ひとりでただ読むだけではなく、ツイッターという場所にみんなが寄ってきて一緒に楽しんでいるのが、ライブハウスっぽいなと。
杉 ぼくたち、「物理書籍の同時読書会」っていうのもやっているんです。
—— 「物理書籍の同時読書会」……? いったいどんなことをするんですか?
本兌 「物理書籍」っていうのは、つまり、紙の本のことですね。本が発売されたら、日程を決めて、買ってもらってPCの前に決められた時間にスタンバイしてもらうんです。そして、公式アカウントがたとえば「15ページ16ページを開いてください」というツイートをするので、そこをみんなで同時に読む。そして、リアルタイムで感想などをツイッターに書き込むんです。
—— なるほど、それで「同時読書会」になるんですね。
杉 はい。本を読むことを一つのイベントにできたらいいなと思って始めました。
—— 本は、普通はひとりで勝手に買って、勝手に読んで終わりですもんね。
本兌 そうです。でも、読んだ後の感想がいろいろなところに散らばっているのはもったいないし、出版されている紙の本も、ツイッターの連載と同じように、みんなで盛り上がって感想を共有できる場があったらすごくいいと思ったんです。
—— 時間を設定して、人を集める、本当にライブみたいですね。
杉 ええ。音楽にたとえて言えば、ツイッターでの連載は「ライブ」で、書籍は「CD等の音源」に相当すると思っています。でも、読書会を開くことによって、書籍も「音源」から「ライブ」として楽しむことが可能になります。ただ読んでもらうだけではなく、その後のコミュニケーションも重視したいと考えているんです。
—— おー。おもしろいなあ。コミュニケーションの場をつくる。なるほどです。次回、もうすこし教えてください。
後編「SNS時代に、ベストセラー小説を生み出す秘訣」は4月26日(水)更新予定
構成:笠原里穂
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