講堂や教室で大勢の学生を前に行われる大学の講義。そんな日常的な大学講義の風景が今後、変わっていくかもしれない。静岡大学(石井潔大学長)では2007年から反転授業支援システムの研究開発を進め、今春よりシステムの本格運用をスタートさせた。そこで講師役として指名されたのは人型ロボットのペッパー。しかし、そもそも反転授業とは一体どのようなものなのか?
デジタル化と少子化の波
反転授業の背景には「デジタル化」、そして「少子化」といった時代の波があるようだ。大学教育の場では教材などさまざまなものがデジタル化され、パソコンなどの電子機器も日常的に使用されている。かつては黒板を使った授業が当たり前だったが、今はマイクロソフト社製のプレゼンテーションソフト、パワーポイントを使用して講義が行われることも珍しいことではない。
反転授業はこうしたデジタル化がもたらす新たな学びの形。「内容が決まりきった授業は動画化して学生が個々に動画を利用して学び、実験やディスカッション、ゼミのような学校に来ないと出来ないことを学校でやる。従来の学習の仕方とは逆転するので反転授業という」と支援システムの研究開発を進めてきた静岡大学情報基盤センター長の井上春樹教授は説明する。
欧米ではフリップトラーニングと呼び、多くの学校が積極的な取り組みをしているという。また、講義の動画をインターネットで世界に配信し誰もが無償で受講できるMOOC(Massive open online course)への取り組みも活発で、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)によるオープンな教育プラットフォーム「edX(https://www.edx.org/)」などがよく知られている。
静岡大学の反転授業支援システム開発は、こうしたデジタル化の波を受けたものと考えられるが、一方で急速な少子化という国内事情も伺える。「東京から静岡まで通ってくる先生もいる。反転授業なら教員も大学にくることなく、その時間を研究に費やすことができる。学生にとっても、基礎的な学習は動画を使って何時でも学ぶことができるので特に留学生や社会人には有効なのです」と井上教授。少子化により大学進学者が2018年から減少に転じるとみられているという。
一方で大学の数、定員数は増加傾向にあり、このままでは2026年の時点で大学の学生数の定員不足は20%を超える見通しだという。定員不足分は、海外からの留学生や社会人の受け入れに頼らざるを得ず、従来のような決められた時間、場所に多くの学生を集めて講義をする一斉講義型の授業では、言語も学習の度合いも時間もバラバラな学生を十分に教育することが出来ず、大学教育しいては大学経営そのものが破たんするとの指摘もなされているという。