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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

織田奈那(欅坂46)個人PV 松本壮史『コールミー』

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欅坂46の織田奈那。彼女の愛称である”オダナナ”はあだ名ではなく、紛れもないフルネームである。オダナナ、オダナナ、オダナナ。思わず名前を3回唱えたくなるほどに素晴らしい響き、収まり。Enjoy Music Clubの誇る映像ファンタジスタ松本壮史は、彼女に宿るそのチャームに目をつけ、「名前を呼んで」という素晴らしい短編ドラマを作り上げてしまった。欅坂46の4thシングル『不協和音』の初回限定D盤に収録された個人PVの一作。贔屓目抜きにしても、ぶっちぎりNo.1の出来栄え。松本壮史は、乃木坂46ハルジオンが咲く頃』において、桜井玲香の個人PV『アイラブユー』という大傑作を提出済み。そして、この『コールミー』という作品もまた、欅坂46個人PV史に刻まれることとなるでしょう。ここには、少女が踊り出さずにはいられない理由みたいなものが完璧に映像に焼き付いている。恋する乙女の心情を指先の先まで表出させてしまう島田桃子(ロロ)の振付。織田奈那が口ずさむ劇中歌は江本祐介(Enjoy Music Club)のペンだ。この楽曲がまた素晴らしい。

席順あいうえお 名前を呼んで
あと何回かな
春が来ちゃう その前に
いつものように 名前を呼んで

出欠確認で先生に名前を呼んでもらう。そんな小さなドラマに秘められた女生徒の恋心が切なく爆発するナイアガラなアイドル歌謡。かつての歌謡界を席巻した大瀧詠一松本隆松田聖子の幸せな関係性のようなものが、アイドル界の地トップランカー欅坂46とEnjoy Music Clubとの間で結ばれてしまっている。この胸のすくような革命を、全てのポップミュージックファンが発見するべきである。更に、江本祐介は役者としても今作に出演を果たしているのだけども、意外や意外(と言っては失礼だが)、好演を見せているのだ。

先生:織田?今・・踊ってた?
織田:踊って・・ました
先生:いいねぇ

この「いいねぇ」が良いのだ。こういう台詞が書けること、ああいう発話ができること、そういったことを”センス”と呼びたい。松本壮史の書く脚本は何気ないようでいて、その全てが心憎い。ラストに織田が心の中で叫ぶ

振り向いて 5秒以内
5、4、3、2、1
後3秒
3、2、1
後5秒だけあげる

ここなんて本当に抜群だ。ときに、今作に名前だけ登場する「学校に来ない山田」とは、あの『アイラブユー』に登場した告白マニアの山田なのだろうか。



オダナナと言えば、欅坂46のバラエティ担当のムードメイカー。松本壮史は、そんな彼女のコミカルさの中から秘めたる叙情性をたっぷり引き出してしまう。彼女のパーソナリティのようなものをきちんと把握した上で脚本が書かれているのであろう、と確信できるような作り手の”愛”がここにはある。事実、松本演出と織田の相性は抜群だ。

織田ぁ、廊下走るの危ないぞ(先生の真似で)
危ないぞじゃなくて
ちゃんと怒んなきゃダメだよ!
ぶっちゃげセンセイ、みんなにナメられてるからね
坊ちゃんってあだ名はずかしくないの?
あぁ、もうすっごいむかつく
はぁ?てか、そこがいいんじゃんね!
はぁ、なんちって

この役柄と感情が複雑に入り混じった一人芝居、相当難易度が高い。少しでも間違えれば、相当おサムいことになってしまう。実際に、そういった作品は個人PVには多く見受けられる。しかし、織田の演技は「それしかない」という見事なレベルで、この本に応えている。少しだけハスキーがかった声質もいい。そして、最も素晴らしいのが表情だろう。想いが零れ出す直前のような顔。なんでこんな顔を引き出せるのか。1つの要素として、風が挙げられやしないか。この短編において終始吹き荒れている風は、今作の隠れた主役と言えよう。風は絶えず織田の髪を揺らし、顔に圧をかける。その事が、憂いと色気を帯びた表情を引き出しているように思う。そして、織田の秘めた恋心はポップソングとして”風”に乗って、思いがけずその人の耳に届いてしまう。更に、この風は少女を、”名前を呼んで”というささやかな受け身から、彼へと駆け寄る能動的なダッシュへと後押しするのである。美しい。風立ちぬ、乙女よいざ生きめやも、である。
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欅坂46ファン以外の方にもぜひとも目撃して頂きたい1作だ。



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