Financial Times

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

[FT]EUは対トルコ関係の根本的見直しを(社説)

2017/4/18 19:07
共有
保存
印刷
その他

Financial Times

 16日のトルコ国民投票で有権者に渡された投票用紙に質問事項は印刷されておらず、ただ賛成か反対かを選ばせる書式だった。だが、エルドアン大統領にとって苦戦の末の辛勝となった投票結果は、トルコの歴史の転換点となる。新憲法により同氏は現代のスルタン(イスラム王朝の君主)となり、ほぼ縛りのない行政権を握る。エルドアン氏がトルコの政治機構を完全に従えることにも十分な可能性が生まれる。

17日、前日の国民投票の結果を受けてアンカラで演説するエルドアン・トルコ大統領=AP
画像の拡大

17日、前日の国民投票の結果を受けてアンカラで演説するエルドアン・トルコ大統領=AP

 とはいえ、エルドアン氏が求めた圧倒的な支持は得られなかった。暫定の開票結果で賛成は51%と、辛うじて半数を超えるにとどまった。首都アンカラとイスタンブールでは反対票が過半を占め、与党・公正発展党(AKP)の牙城でも反対が上回ったところがある。紛争地帯の南東部でも、避難民となった人々の一部が投票できなかったにもかかわらず、少数民族のクルド人が改憲案を拒否した。

色あせた国民投票

 公式の押印のない投票用紙を有効と認めるという高等選挙委員会の決定が怒りを呼び、野党側は票の数え直しを要求している。政府の任命による高等選挙委員会の委員が結果を覆すことは想像しがたい。だが、非常事態宣言下で実施された国民投票は、明らかに不公平な選挙運動により色あせたものになった。メディアは抑え込まれ、反対派の主張に放送時間が割かれることはほとんどなかった。

 結果が僅差の勝利にとどまったことで、エルドアン氏が融和的な現実主義の構えを取る可能性はほとんどついえた。反政府勢力に対する粛清が終わることも、クルド人反体制派との協議が再開し、放置されたままの経済改革が始まることも、まず期待できない。

 エルドアン氏は、分断を引き起こす戦術とナショナリズムへの訴えかけが奏功したと総括するだろう。昨年のクーデター未遂事件後から続いてきた非常事態宣言を延長するとした16日の動きが、それを示唆している。エルドアン氏が新たな権限を完全に握るには、2019年までに行われる選挙で勝たなければならない。エルドアン氏は融和でなく戦いに勝算があるとみるだろう。

深まるEUのジレンマ

 トルコのパートナーである欧州諸国にとっては、ジレンマが先鋭化することになる。欧州連合(EU)はトルコ政府に対して控えめな反応を示しており、歩を進める前に国民的合意をまとめ上げるよう求めた。だが、このような内容の憲法はEU加盟の基準と相いれない。トルコのEU加盟交渉は長年、現実味の薄いフィクションだった。それが今、茶番になった。

 エルドアン氏は死刑制度の復活という威嚇を実行に移し、自ら幕引きをするかもしれない。そうなれば、もうEU加盟交渉は終わりだ。そうならない場合には、欧州側が早々に動かざるを得なくなるかもしれない。しかし、欧州側は貿易、安全保障、移民に関するトルコとの必要不可欠な取引を再構築する方法を見いださなければならない。反対票を投じた半数近いトルコ国民を見捨てることはできない。彼らは圧力や情報不足にもかかわらず反対の意思を表し、自分たちの権利の保護と民主主義の原則の擁護を欧州に頼ろうとしている。

 EUはトルコとの関税同盟の強化で経済関係を深められるかもしれない。これは取引に関する取り決めだが、やはり政治的統合に関わる措置も必要になる。トルコの司法制度は捕らわれの身であり、EU機関がトルコ政府に人権侵害に関する説明責任の履行を求める努力を続けることは必須だ。だがそれでも、かつてトルコの人々が希望を抱いた完全かつ対等な欧州内でのパートナーシップには遠く及ばない。トルコの西洋への道のりは常に険しく、数十年にわたる後退がありながらも、希望は消えていなかった。その希望も今、断たれてしまった。

 これはトルコにとって悲劇だ。エルドアン氏は、改革でも発展でもなく不和をもたらしている。これは、イスラム教徒が多数を占める国々の民主主義に対する打撃であると同時に、国民の投票によって独裁制へ向かう世界的な行進のさらなる一歩でもある。

(2017年4月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


人気記事をまとめてチェック

「ビジネスリーダー」の週刊メールマガジン無料配信中
「ビジネスリーダー」のツイッターアカウントを開設しました。
GlobalEnglish日経版

GlobalEnglish 日経版

世界を目指す、全てのビジネスパーソンに。 ビジネス英語をレベルごとに学べるオンライン学習プログラム。日経新聞と英FT紙の最新の記事を教材に活用、時事英語もバランス良く学べます。

詳しくはこちらから

Financial TimesをMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

共有
保存
印刷
その他

電子版トップビジネスリーダートップ

関連キーワードで検索

エルドアントルコアンカライスタンブール

【PR】

Financial Times 一覧

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

プーチン氏は米キリスト教保守派にとって、思想的な同著者にみえる発言をしてきた=ロイター

ロイター

[FT]プーチン氏に友を見いだす米保守派

 トランプ政権のロシアとの関係は流動的かもしれないが、ロシアのプーチン大統領はまだ、米国社会の一部から強い支持を得ていると自慢できる。保守運動がそれだ。
 トランプ米大統領は先週、米ロ関係は「史上最低か…続き (4/19)

17日、前日の国民投票の結果を受けてアンカラで演説するエルドアン・トルコ大統領=AP

AP

[FT]EUは対トルコ関係の根本的見直しを(社説)

 16日のトルコ国民投票で有権者に渡された投票用紙に質問事項は印刷されておらず、ただ賛成か反対かを選ばせる書式だった。だが、エルドアン大統領にとって苦戦の末の辛勝となった投票結果は、トルコの歴史の転換…続き (4/18)

トランプ政権の入国制限策は観光業へのダメージになりつつある(ニューヨークの自由の女神像を背に写真を撮る日本人観光客)=ロイター

ロイター

[FT]ホテル最大手、入国制限は米観光業に打撃

 ホテル世界最大手、米マリオット・インターナショナルのアーン・ソレンソン最高経営責任者(CEO)は、トランプ米大統領の移民政策が米国の観光産業に悪影響を与えていると注意を促し、海外旅行者が米国を避けて…続き (4/18)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

今週の予定 (日付クリックでスケジュール表示)

<4/17の予定>
  • 【国内】
  • 4月のQUICK外為月次調査(11:00)
  • 3月の首都圏・近畿圏のマンション市場動向(不動産経済研究所、13:00)
  • 黒田日銀総裁が信託大会であいさつ(15:15ごろ)
  • 榊原経団連会長の記者会見(15:30)
  • 【海外】
  • 4月のニューヨーク連銀製造業景況指数(21:30)
  • 4月の全米住宅建設業協会(NAHB)住宅市場指数(23:00)
  • 2月の対米証券投資(18日5:00)
  • 1~3月期の中国国内総生産(GDP、11:00)
  • 3月の中国工業生産高(11:00)
  • 3月の中国小売売上高(11:00)
  • 1~3月の中国固定資産投資(11:00)
  • 1~3月の中国不動産開発投資(11:00)
  • 海外1~3月期決算=ネットフリックス
  • 香港、オーストラリア、ニュージーランド、英国、ドイツ市場など休場
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<4/18の予定>
  • 【国内】
  • 閣議
  • 日米経済対話(19日まで)
  • 4月のQUICK短観(8:30)
  • 1年物国庫短期証券の入札(財務省、10:20)
  • 5年物国債の入札(財務省、10:30)
  • 東証マザーズ上場=旅工房
  • 【海外】
  • 2月の対米証券投資(5:00)
  • フィッシャー米連邦準備理事会(FRB)副議長が講演(6:00)
  • 3月の中国主要70都市の新築住宅価格動向(10:30)
  • 豪中銀理事会の議事録公表(4日開催分、10:30)
  • 3月の米住宅着工件数(21:30)
  • 3月の米鉱工業生産(22:15)
  • 3月の米設備稼働率(22:15)
  • 1~3月期決算=IBM、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ユナイテッドヘルス・グループ
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<4/19の予定>
  • 【国内】
  • 稲野日証協会長の記者会見(14:30)
  • 3月の訪日外国人客数(日本政府観光局、16:00)
  • 1~3月の訪日外国人消費動向調査(観光庁、16:00)
  • 【海外】
  • 3月のマレーシア消費者物価指数(CPI)
  • 2月のユーロ圏貿易収支(18:00)
  • 米エネルギー省の石油在庫統計(週間、23:30)
  • 米地区連銀経済報告(ベージュブック、20日3:00)
  • 1~3月期決算=アメリカン・エキスプレス、モルガン・スタンレー、クアルコム、ブラックロック、イーベイ
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<4/20の予定>
  • 対外・対内証券売買契約(週間、財務省、8:50)
  • 3月の貿易統計(財務省、8:50)
  • 2月の毎月勤労統計確報(厚労省、9:00)
  • 3月の白物家電出荷額(JEMA、10:00)
  • 3カ月物国庫短期証券の入札(財務省、10:20)
  • 20年物国債の入札(財務省、10:30)
  • Jフロントなどの商業施設「GINZA SIX」開業
  • 三村日商会頭の記者会見(14:30)
  • 3月の全国百貨店売上高(日本百貨店協会、14:30)
  • 3月期決算=安川電
  • 3月の主要コンビニエンスストア売上高(日本フランチャイズチェーン協会、16:00)
  • 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議(米ワシントン、21日まで)
  • 4月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数(21:30)
  • 米新規失業保険申請件数(週間)(21:30)
  • 3月の米景気先行指標総合指数(23:00)
  • インドネシア中央銀行が政策金利を発表
  • 海外1~3月期決算=ベライゾン・コミュニケーションズ、ビザ、トラベラーズ
  • 麻生財務相とラガルドIMF専務理事が会談(21日4:10)
  • 麻生財務相とムニューシン米財務長官が会談(21日5:00)
  • G20財務相・中央銀行総裁会議ワーキングディナー(21日8:45)
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

<4/21の予定>
  • 閣議
  • 4月の主要銀行貸出動向アンケート調査(日銀、8:50)
  • 3月の食品スーパー売上高(日本スーパーマーケット協会など、13:00)
  • 2月の第3次産業活動指数(経産省、13:30)
  • 根岸生保協会長が記者会見(15:00)
  • 3月期決算=東京製鉄、ジャフコ、光世
  • 4月の仏PMI速報値(16:00)
  • 4月の独PMI速報値(16:30)
  • 4月のユーロ圏PMI速報値(17:00)
  • 4月の米製造業PMI速報値(IHSマークイット調べ、21:45)
  • 3月の米中古住宅販売件数(23:00)
  • 海外1~3月期決算=ゼネラル・エレクトリック(GE)、ハネウェル・インターナショナル
  • G20財務相・中央銀行総裁会議(23:00)
  • (注)時間は日本時間

〔日経QUICKニュース(NQN)〕

[PR]