コンビニ大手ファミリーマートで発揮した優れた経営手腕のみならず、料理、読書、麻雀、釣り、ゴルフと、多彩な趣味を持つ上田準二さん。ユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長を退任し、取締役相談役となった今だから語れる秘蔵の経験や体験を基に、上田さんが若者からシニアまで、どんな悩みにも答えます。上田さんの波乱万丈の人生を聞けば、誰もがきっと“元気”になる。
連載8回目は、29歳の女性(会社員)からの相談。上司や同僚が優秀な人ばかりで周囲に追い付けず、それでも頑張って前向きに仕事に取り組もうとするあまり、心身共に疲弊してしまっています。そんな女性への上田さんからのアドバイスは?
私は今年、入社4年目なのですが、この職場で働き続けるべきか悩んでいます。きっかけは昨年体調を崩し半年間入院した時に、心身共に疲弊していた自分に気づき、その原因は仕事が自分の身の丈に合っていないんじゃないかと思い始めたことです。
一緒に働く上司や先輩、同僚はとても優秀で良い人たちばかりで、自分は恵まれた環境にいると思っています。しかし、私は仕事の内容に興味が持てず、仕事のためと本を読んで勉強しても内容が頭に入って来ません。そんな状態なのでお客様の前でも自信を持って話せず、何か課題が浮上した時は、専門知識ではなく対人関係で乗り切ってきました。
先日、ヒルティの『幸福論』を読んでいると「どんな仕事も一生懸命になれば興味が沸いてくる、興味がない仕事も打いいち込めば必ず楽しくなってくる」という一文を目にしました。これは普遍的な考え方で、正論だと理解できます。ただ、どうしても私には合っていないなと思うんです。
私は、目の前の仕事から逃げているだけなのでしょうか。どうしたら目の前の仕事がこわい、と思わず、興味を持って自分から動けるようになるのでしょうか。
29歳 女性(会社員)
大竹剛(日経ビジネス編集): 前回は、「周囲がアホな人ばかり」という職場で働いている男性からの悩みでしたが、今回は「周囲がデキる人とばかり」という女性からの悩みです。頑張りすぎて、体調も崩してしまったようです。前回の相談(上司と同僚がアホなほど仕事は楽しくなる)と、まったく逆ですね。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス取締役相談役): 周りが優秀だから、彼女は必死に残業をして体を壊すほど仕事しなきゃいけなくなったのか。
大竹:そのようです。
上田:もう、前回悩みをよこした彼氏に聞かせてやりたい。周りが優秀な人ばかりと思ってしまうと、精神的に追い詰められて体調も崩し、会社に行きたくなくなってしまうものなんだと。
大竹:前回の男性は、「アホばかりで会社に行きたくない」と言っていました。「行きたくない」という結果は一緒ですが。
ちなみに、この女性はヒルティの『幸福論』を読んで、さらに悩んでしまったようです。
上田:まあ、そんな本を読まなくても、だいたいみんな同じことを言うよね。
大竹:どんな仕事も一生懸命になれば興味がわいてくる。
上田:うん。
大竹:優秀な周囲の人に必死に付いていこうと努力する姿が目に浮かびます。彼女はかなり前向きで、きっと頑張り屋さんなんでしょう。ただ、かなり深夜残業もしているようで、過労で倒れてしまわないかとちょっと心配です。
上田:心配だよね。バリバリ仕事をやって優秀な人の輪の中に自分も入っていかなきゃいけない。それが深夜残業につながってしまっている。
確かに、どんな仕事も一生懸命になれば興味がわいてくるというのは、まあ、正論でしょう。ただね、一生懸命になるやり方を、周りの人と同じにする必要は全くないんだよ。周りと同じように専門知識を持たなきゃいけないと思う必要は全くない。
彼女自身も、人間関係で乗り切ってきた、と言っているでしょう。それがダメなように思っているみたいだけど、それは非常に重要なことなんだよね。僕なんか49年の会社人生、まあ波乱の人生だったけど、専門知識で勝負したことなんて一度もないから。周りは専門知識を持っている人ばっかりだったですよ、大商社でエリート社員がいて。
それでも、僕がある程度、周りの人たちから認めてもらえたのは、専門知識じゃないんですよね。やっぱり対人関係なんですよ。商売を取りに行くときは、どんな仕事でも、専門知識ではなくて対人関係なんです。だから既に、あなたは非常にいい才能、利点を持っている。専門知識ではなく対人関係で乗り切ってきた経験は、これからも必ず生きてくるよ。
だから、専門知識をつけようと、毎日毎日、深夜残業するようなことは、今すぐやめなさい。上司もそこまでは期待していないから。それなのに、ついつい、明日までにはこれを片付けておかなければと、自分で自分を追い込んでいる。そうやって常態化した残業で仕上げた仕事というのは、結局は出来栄えが決してよくない。
自分がどこまでやれるか、一日でやれる範囲を決めて、きっちりと帰ること。上司から、「あれはいつできるの?」と聞かれたら、「1週間ぐらいかかります」とか、はっきり言うこと。それを言わないと、どんどん追い込まれちゃうよ。
上司も、彼女は残業してでも何とかそれなりのものを作ってくるだろうと考えるようになってしまう。ところが、出来栄えがよくないとまたやり直しになっちゃうから、残業がぐるぐるぐるぐる尾を引いちゃう。自分でその一日一日やれる仕事をきっちりと朝の間に、今日はここまでやるというのを決めたらそれ以上やらない。前の日でもいいですよ。夜寝る前、朝起きたとき、今日はここまでやると。
大竹:自分のできる範囲と、計画をきちっと上司にも伝えておくんですね。
上田:うん。その計画通りにいかなくなってしまったときは、残業やむなしだけれども、それはまたその次の計画に反映する。最初から今日は何をやるか、明日は何をやるかと決めないでやっていると、毎日残業になっちゃうから。
大竹:上田さんの若かりし頃は、どうだったんですか。かなりのモーレツ社員だったと聞いていますが。
上田:見方によればそう言えるかもしれないけれど、何であいつはサボってるんだと思っていた人もいると思うよ。あきれていた上司もいたでしょうね。
大竹:どういうことですか。