韓国は今、政治や経済、人々の暮らし方にいたるまであらゆる面で大きな岐路に立つ。あまたの困難をいかに克服してゆくのか。新たな政治指導者を決める選挙戦が隣国で始まった。

 選挙戦は、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)氏と、野党第2党「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)氏という、非保守系候補による事実上の一騎打ちの様相だ。

 5年前の大統領選では野党統一候補の座を競いあいながら、その後は離合を繰り返してきたいわく付きの2人である。

 主な政策では2人に大きな違いはない。だが、それぞれ支持基盤が異なる上、文氏は若年層の、安氏は50代以上の支持が厚い。互いに「改革を完遂できるのは自分だ」と訴えている。

 「争点なき選挙」などと言われる中で、問われるのはまさに改革を実践に移せるかどうかの政治手腕である。

 17日に収賄罪などで起訴された朴槿恵(パククネ)・前大統領による公私を混同したような疑惑は、世論の厳しい批判を浴びた。保守勢力はそのあおりを食って、支持が伸びない。

 しかし、多くの有権者が新指導者に求めるのは、単に朴政権の過ちの是正にとどまらない。数十年にわたって、積もり続けてきた宿痾(しゅくあ)の一掃である。

 なぜ歴代大統領や周辺には、金銭がらみの事件が絶えないのか。特別な恩恵を受けた財閥だけに経済の牽引(けんいん)役を任せていいか。競争に敗れし者は絶望するしかないのか――。

 列挙してみれば、「韓国的」とされる悪弊ばかりだが、そんな既得権益層を優遇するような仕組みを変えられるのは、政治の力以外にない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、米朝間に緊張感が漂う中での選挙戦である。

 言うまでもなく、韓国は朝鮮半島問題の一方の当事者だ。

 軍事的衝突の回避を最優先にしつつ、いかに対話と圧力のさじ加減をこらして北朝鮮の暴挙を抑えるのか。両氏には明確な構想を示してほしい。

 北朝鮮問題を含め多くの懸案の解消には日本との連携が必要だ。2人とも日韓の慰安婦合意に難色を示すが、両政府が知恵を絞って交わした約束であり、履行すべきだ。首脳会談もできなかった朴政権前半のような関係を繰り返してはならない。

 選挙では、とかく世論を意識し、内向きな発言が飛び出しがちだが、当選後、自らの言葉にしばられるなら意味がない。

 韓国をとりまく現実を冷静にみすえ、建設的な新しい国造りを競うべきだ。