トランプ政権の米国と、日本はどんな経済関係を築いていくのか。その道筋を描く日米経済対話は、貿易についての考え方で、両国の間に深い溝があることを浮き彫りにした。

 麻生副総理が「アジア太平洋において地域の貿易ルールづくりを日米主導でやることが大事だ」と多国間の枠組みを強調したのに対し、ペンス米副大統領は「二国間の交渉が米国にとって国益になる」。会合では麻生氏が環太平洋経済連携協定(TPP)の意義を説明したが、ペンス氏は会見で「米国にとって(離脱した)TPPは過去のもの」と言い切った。

 世界一の経済力と軍事力を背景に、二国間協議で自国の利益を追求するトランプ政権の「米国第一」はゆるがないようだ。

 米国が「結果の平等」を求め、数値目標を掲げて市場開放を迫る、1980年代のような通商交渉を想定しているならば、まずはその非をきちんと指摘しなければならない。貿易収支は通商政策で決まるのではなく、それぞれの国の景気の状況や産業構造などに左右される。「黒字・赤字」はそもそも「勝ち・負け」ではない。

 トランプ政権は、保護主義的なふるまいに拍車がかかっている。貿易赤字削減に向けた大統領令に署名し、自国の利益のためなら国際ルールに縛られる必要はないという考えも示す。国際会議の共同声明からは、これまで定番だった「保護主義に対抗する」という一文が、米国の主張で削られた。

 自由貿易を推進することで各国の消費者の利益は増し、経済のパイを拡大していける。保護主義は得策ではない。その大原則を守るよう、米国にクギを刺すことが最優先の課題だ。

 二国間交渉へと走る超大国の目を、どうやって多国間の枠組みに向けさせるか。経済対話はその難しさを示したが、現実の世界を見れば、米国、カナダ、メキシコでも、北東アジアや東南アジアでも、産業のサプライチェーンはいくつもの国々にまたがっている。二国間主義へのこだわりはそうしたつながりを分断しかねない。

 米国は日米間の自由貿易協定(FTA)交渉も視野に入れており、厳しい局面も予想される。ただ、経済対話は貿易だけでなく、マクロ経済政策やインフラ投資、エネルギーといった分野での協力も話し合う。

 経済全体で互いが利益を得ることができるような日米関係を構想するためにも、冷静に粘り強く、米国と対話を重ねていくしかない。