どうも。シャイニングマンです。今回は「サイエンス/バイオテクノロジー」のお話をば。
皆さん「ゲノム編集」って聞いた事ありますか?
簡単に言うと植物とか動物の「品種改良(遺伝子組み換え)」の一種なんですが
2013年ごろからこのゲノム編集は急速な発展を見せ、遂には
「万物の創造主たる“神”の領域にとうとう人間無勢が踏み込んじゃったよ」なんて言われてまして…
今までの品種改良の場合、そのほとんどは「偶然起こった遺伝子の変化」に頼って来た部分が多かったんです。
一つの生物の中に何万とある遺伝子のどれに何をしたらどんな変化を起こすのか…?それはこっちが「狙って出来る」事ではありませんでした。
「偶然」という不確定要素と、「気の遠くなるような時間」を費やしてやっと結果を手にして来た、というのがこれまでの遺伝子工学の歴史です。
しかし近年確立されつつある「ゲノム編集」は
・何万とある遺伝子の任意の場所を「ピンポイント」で狙えて
・その遺伝子を「自在に改変する」事が出来て
・かつそれは基礎的な遺伝子の知識がある研究者なら「誰でも簡単」に出来て
・更に「時間もこれまでより全然掛からず」に
・そしてそれは「どんな生命にも」使える
という、驚くべき技術なんです。
そして何より恐ろしいのは僕ら「人間」にもこの技術が使えちゃう、という事…
(注意:なるだけ解り易く書いたつもりですが、長くなってしまいました…)
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ゲノム編集とは
まず、遺伝子工学(生物の遺伝子をどうこうする研究)の歴史は1972年に始まったと言われていますが、あまりさかのぼると長くなるので、ここは「1996年」まで早送りしますねぇっ!(ブーーーン)
で、1996年。
色々な壁にぶつかりながらも「狙ったDNA配列を切断する技術」というのが確立されました。これだけでも当時は凄い事だったのですが、この技術はとても難しいもので、誰でも出来るとまではいかず、更に時間も掛かる為に当時は世界の研究者の間でもそこまで広がりませんでした。
しかしそれから時を経て2012年~2013年。アメリカ・カリフォルニア大学とスウェーデンのウメオ大学の研究チームによって「超簡単な方法」が発見されました。
「CRISPR/Cas9」の登場(=応用)
その超簡単な方法ってのが「CRISPR/Cas9(クリスパー/キャスナイン)」という遺伝子編集ツール(システム)で、これがゲノム編集を飛躍的に発展させたと言われてます。
難しい話をしてもアレなので、簡潔に言いますと
この技術によって「DNA配列の中の任意の遺伝子を削除したり、置換したり、挿入したり出来るようになった」という事です。
因みにこのシステム自体は1987年に日本の研究者である「石野良純さん(石原じゃないよ)」という方とその研究チームが別件(大腸菌の研究)で発見したシステムで、本来遺伝子工学の分野では使われていなかったのですが
前項で紹介したアメリカとスウェーデンの研究チームによって「CRISRRをゲノム編集に応用出来るという事が解った」という経緯となります。
どんな分野でもある事ですが、「違う分野の技術を応用する事でとんでもないブレイクスルーが起こる」という事は珍しい事ではありませんが、こういうのって面白いですよね。
ノーベル賞を取った山中伸弥さんも絶賛
皆さんもまだ記憶に新しいかと思いますが「iPS細胞」でノーベル賞を受賞した山中伸弥さん(現・京都大学iPS細胞研究所所長)もこのゲノム編集に関しては
私自身が基礎研究を始めてもう25年くらいになりますけれども、その中で出会った技術の中でも、恐らく一番画期的といいますか、一番すごい技術じゃないかなと思っています。
と太鼓判を押すほど。現在、山中さんは自身が開発した「iPS細胞」を使った細胞移植療法と、この「ゲノム編集」を組み合わせた治療法の実現に注力しているそうです。
引用元「クローズアップ現代 “いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集 最前線~」
倫理的な問題からヒトではやらない
こうして近年目覚ましい発展を遂げたゲノム編集ですが、当然ながらこれは「人間(のDNA)にも使える」技術でもある訳です。正に神の領域を侵略せし所業…。
人間の容姿、体型、性格、得意、不得意、頭の良さ、先天的な病気、髪や目の色…といったようなありとあらゆる特徴は「DNAに刻まれた情報に依存」していますので
本気で人間の受精卵に対して高度なゲノム編集を行えば「どんな人間でも作り出せちゃう(デザイナーベイビー)」ってのが一番の問題とされている訳です。
世界の研究者の中でも多くが「ヒトの“受精卵”ではやめとこう」というのが一般的な今の考え方となっています。(中国はやっちゃったけどね…)
因みに我が国「日本」のガイドラインでも「生殖細胞と受精卵の遺伝子改変を着床の是非に関わらず全面的に禁止」としています。
しかしながらこの技術を「医療」に応用しようという動きはアメリカや中国なんかでは積極的に行われていましてですね。例えば…
HIV・エイズの治療
はい。ご存知の方も多いと思いますが、人類の歴史において最も脅威と言われるウイルスの一つに「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」というウイルスがあります。
これに感染してしまうと体内の免疫力の源泉となる様々な細胞が減り、その結果免疫力が大きく低下→普段なら感染しないような病原体に感染→様々な病気を発症してしまいます。そしてそういった病気が発症してしまった状態の事を「エイズ」と言います。
現時点でHIVに感染した患者さんに対する(エイズを発症させない為の)治療法として有効なのは「抗HIV薬」の投与です。
これはHIVウイルスの活動を抑制してくれる非常にありがたいお薬なのですが、ウイルスをやっつける薬ではない為、飲むのを止めるとまたウイルスが増えちゃうんです。つまり
一度飲み始めたら最後、永遠に飲み続けなければならない
という事。そしてその薬にはめまいや下痢という副作用もあり、更に言えば「それでも免疫力は徐々に下がって行く」というものです。
しかし、近年アメリカではこの「CRISPR/Cas9」を応用したアプローチによってHIVウイルスを減らすといった成果を上げていたり、実際にゲノム編集の臨床研究が行われたりしています。
サンガモバイオサイエンス社が臨床研究
アメリカ在住でHIVの治療に苦しむ「マット・シャープさん」というHIV患者さんに対し、アメリカの企業である「サンガモバイオサイエンス社」がゲノム編集による臨床実験を行いました。
話が難しくなるので具体的な方法論は割愛しますが、端的に言うと
①シャープさんの体からHIVに感染した細胞を採取
↓
②それをゲノム編集でイジってシャープさんの体内に戻す
↓
③シャープさんの免疫力が爆アガり
↓
④薬飲まなくて良くなったンゴ♪
って感じです。
シャープさんはその後のインタビューでこう語りました
HIVはもはや治療可能な時代になろうとしています。
感染したときには思いもしませんでしたけどね。
引用元「クローズアップ現代 “いのち”を変える新技術 ~ゲノム編集 最前線~」
中国も肺がんで臨床研究
そして2016年には中国(四川大学のチーム)が肺がん治療の臨床研究を開始しました。
対象者は10名で、これも↑のケースと似たような感じ
「がん細胞」というのは人間の体にある「T細胞(がんを攻撃してくれる細胞)」の働きを抑制し、免疫力(がんに対する攻撃力)を弱める事で知られています。
そこで、このチームは患者さんから採取したT細胞をゲノム編集でイジって「がん細胞への攻撃力を強化したT細胞」にパワーアップさせました。
更にそれを培養して増やし、患者さんの体内に戻します。
これをやる事によって「がん細胞によって免疫力を落とされる事なく、T細胞が常に攻撃し続けられる」ようになりました。チームによると、その後の経過も順調との事。
※出典「日本経済新聞」
す、すげぇ…。ゲノム編集…無敵じゃん…。
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まとめ
人間の遺伝子に対するゲノム編集ってのは今もまだ世界中で議論の的になっているのですが、こうして医療の面でその効果を発揮し続ける事によって、今後はどんどん規制なんかも緩和されていくんじゃないでしょうか。
しかし、懸念されてる通りこの技術がもっと進歩すれば
「どんな人間でも作り出せる」訳ですし
「意図的に免疫力を下げて特定の病気を自在に発現させたり」とかも出来る訳ですから
悪意のある人間がこれを悪用しないとも限りません。
なんてったってこのゲノム編集はこれまでの技術とは違って「誰でも簡単に短時間で出来る」のが売りでもあるからです…。
というか…
もうどっかの誰かや国や機関が秘密裏にそういう事をやってても全然おかしくありません…。
もしかしたら何十年後かにとんでもないスペックを備えた「人間(?)」が突然僕らの目の前に現れるやもしれません…。