読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「貴族探偵」とコメディの相性が良すぎる問題

テレビ ミステリ

togetter.com
このTogetterまとめ通り、確かに原作を読んでいても映像化はキチンとされてる。
綾辻氏の悲劇と比べればなんぼのものかと。
ただ個人的には貴族探偵とコメディドラマの相性の良さが気になった。
相性が良すぎるのもそれはそれで問題。



【スポンサーリンク】



コメディの問題

元々、「貴族探偵」はアンチミステリとして書かれた作品。

アンチミステリとは、普通のミステリのお決まりごと(コード)に対して懐疑的な視点で疑問視したり、否定したりする作品を指す。
「貴族探偵」でいうなら探偵という唯一無二で「正しい解答」を出す存在のはずが推理をせず、しかも「〜女探偵」の映像化なので、今回は探偵が二人いる。
毎回狂言回しが変わるのは連ドラでは避けられる傾向があるので、女探偵メインで話を回せる「〜対女探偵」を選んだのは自然。

ところがこれを映像化するのにコメディドラマのフォーマットを選んだ。
ここが引っかかる。


元々、コメディというのは普通のシリアスなドラマを否定してるわけです。
人が死んでるのにそこで笑いを産むコメディをやるわけですから。
普通の世界で普通じゃないことをやるのがコメディ。

アンチミステリ→普通(お決まり)の否定
コメディ→普通(シリアス)の否定

これは、相性が良すぎる。
コメディと貴族探偵は相性が良すぎて、アンチミステリのはずが「普通のコメディミステリ」になった。

ミステリに対して「否定」するはずのアンチとコメディの相性が良すぎ、否定が意味をなさない。
アンチミステリとして生きないから視聴者に伝わらない。
なんでもありのコメディドラマで探偵が推理しなくても当たり前。
シリアスな世界観で「探偵が貴族」「探偵なのに推理しない」これらが揃って貴族探偵は成立する。

予備知識なく観ている一般視聴者からすれば「推理も人任せなブルジョアな探偵ってだけなのかー」普通のコメディとしか受け取らないことになる。

もっとコメディ向きのライトミステリでも映像化する方が良かったんじゃないだろうか?
なんでわざわざアンチミステリの貴族探偵を選んでアンチミステリらしさを削ってしまったのか?
ミステリ好きとしては疑問に感じる。

演技力の問題

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

いやー、あの演技力はすごい。
「IQ246」で織田裕二が演じた貴族(というか杉下右京みたいなやつ)もすごかったですが、これはこれですごい。

ただ今回の映像化は「貴族探偵対女探偵」なので、主人公は女探偵なんですよね。ライバル 女探偵を演じる武井咲が主人公であり狂言回し。

リアルタイムのツイートで「武井咲ウザい」というのが多くて、これは女探偵の存在としてはかなり正解。
あれは本来、ウザい役。
キャスティングも合ってたかもしれない。

なので相葉雅紀の演技が「え?」というクオリティでも、看板はメインでも出演はサブ。
だからそれなりに観れてしまう。
ずっと相葉雅紀メインで、相葉雅紀が推理を披露してたら……。

あと周囲に演技達者な面子を揃えているのもポイントが高い。
執事やメイドが推理するわけですから。
だから中山美穂の演技は厳しい。
目立ってしまう。
本来、貴族探偵の演技を補填するはずの役が、これまたモヤってしまうレベルだというのは苦しい。
それこそ仲間由紀恵をメイドにキャスティングして「まるっと……いえ、失礼いたしました」とかなんとか言ってれば面白いかったのに。

相葉雅紀が演じるのは、基本遊んでる有閑貴族。
演じるってほどの何かがあるわけではないと思うんですが……。

映像化に向かない

なんやかんやこのままだと爆死しそうですが、麻耶雄嵩作品をシリアスなドラマで映像化するのは難しいし(メルカトル鮎がタキシードで登場して、それを真面目にやってたらライトな視聴者は混乱するしかないわけで)コメディになるのは仕方ないのでしょう。
そもそもスペシャルでもなく、アクションもないような純粋推理のシリアスな本格ミステリでドラマをやることは、ど深夜かCS/BSでもなければまずない。

視聴者はじっくり論理的推理より、派手なアクションとか急展開の恋愛ドラマとかそーいうのじゃないと耐えられない……格闘技でもグランドよりスタンディングの殴り合いが見たいわけで。

今シーズン、こっそり連ドラ化してる貫井徳郎氏の方はどうでしょうね……。


コメディなので「富豪刑事」と大差ないというのがなんとも……(キャラクターとしての話)。
こんな感じですが、ドラマとしてはキチンと撮られてるので、アンチミステリを気にしなければ、普通にTRICKの下位互換みたいな作品。

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)