インド中部にあるサトプラ国立公園のトラ保護区で、トラよりずっと小さな新種生物が発見された。ヤモリだ。
手のひらサイズのこのヤモリを見つけるのは、簡単ではない。活動時間は夜、生息地は切り立った崖、そして外見は近縁種と実によく似ているからだ。
2014年、生物学者のジーシャン・A・ミルザ氏とデイビッド・ラジュ氏は、別のタイプのヤモリを探して、調査拠点に近い洞窟やうっそうとした森をゆっくりと歩いていた。「クマがたびたび出没する地域なので、夜間に出歩くのは怖かったです」と、ミルザ氏は言う。
そのとき道路脇の壁面を、背中に白とこげ茶の斑点がある爬虫類が、するするっと走り上がっていくのが目に入った。このヤモリの仲間の専門家だったミルザ氏には、それが新種のヤモリだとすぐにわかった。(参考記事:「まるで鶏肉、ウロコをはがす新種のヤモリを発見」)
「ヤモリは簡単には捕まえられません。脱出の名人ですから、細い隙間など手の届かないところに入り込み、暗闇の中に姿を消してしまいます」と、米ペンシルベニア州のビラノバ大学の生物学者アロン・バウアー氏はメールで教えてくれた。同氏は今回の研究に参加していない。
ミルザ氏は首尾よく、5匹を捕まえるのに成功、研究室に持ち帰ることができた。「ヤモリの目は懐中電灯に反射して光るので、遠くからでもどこにいるのかわかるんです」とミルザ氏は言う。今回の発見はオンライン学術誌「Amphibian & Reptile Conservation」に掲載された。(参考記事:「悪魔のヤモリ、世界の珍種」)
しぶとい爬虫類
ミルザ氏は研究室に戻ると、今回のヤモリに近いと考えられるブルークスナキヤモリ(Hemidactylus brookii)の近縁種から7種を選び出し、DNAを比較した。彼の予想通り、見つけたヤモリが遺伝学的に新種であることが確認され、Hemidactylus chipkaliと名付けられた。chipkaliは、ヒンディー語で「トカゲ」を意味する。(参考記事:「動物の不思議な疑問:トカゲは声をもつ?」)
H. chipkaliの特徴は、近縁種と比べ脚が細長く、ラメラ層の数が少ないことだ。ラメラとは、吸着性のある指先が備えている薄い層状の組織を指す。(参考記事:「ヤモリ、足裏の吸着と解除のしくみ解明」)
今のところ、このヤモリは同トラ保護区以外で発見されていないため、生息数は不明だ。
「人間の活動によってやがて危機が訪れる可能性はありますが、当面、この種に差し迫った危険はないでしょう」と、30年以上にわたり世界各地でヤモリを研究してきたバウアー氏は言う。
「たとえば孤島にすむヤモリのところへ新たな捕食者が入ってくればひとたまりもないでしょうが、そうでなければ、ある程度の脅威にさらされてもヤモリは生き延びていけるんです」と書いた後、こう付け加えている。なぜなら、体が小さいうえに夜行性で、隠れる能力が高いおかげだ、と。
とはいえ、インドにはもっと保護区が必要だと、今回の研究を率いたミルザ氏は語る。「そろそろ、西ガーツ山脈や東ガーツ山脈といった多様な生物がすむホットスポットだけでなく、ほかの地域に目を向ける研究者にも資金が行きわたってよいタイミングだと思います」(参考記事:「【動画】西ガーツ山脈で超ミニ新種カエル7種を発見、鳴き声も」)