イースター休暇明けの欧州株式市場は軟調に寄り付いています。その理由は、いよいよ週末に迫ったフランス大統領選挙第一回投票が「番狂わせ」になるリスクを織り込み始めているからです。

ここで「番狂わせシナリオ」とは、EU離脱を主張する極右、左翼の候補だけが決選投票に進むシナリオです。

フランスの大統領選挙は「二段構え」になっています。

まず4月23日の第一回投票では、いきなり51%以上を獲得する候補者が出るかどうかが試されます。現在首位の、極右、国民戦線(FN)のマリーヌ・ル・ペン候補は、有権者アンケート調査で上位をずっと走ってきましたが、支持率が30%を大きく超えたことは無く、どんなに頑張っても、いきなり「過半数→当選へ」というシナリオは考えにくいです。

どの候補者も51%に届かなかった場合、上位2名で決選投票することになります。

問題は、この部分です。

これまではマリーヌ・ル・ペンの向こうを張って5月7日の決選投票へ進む候補者は、当たり障りのない、穏健な候補になるだろうと見られていました。

その場合、「決選投票になると、とたんに保守的になる」フランスの有権者は、このNo.2の候補者に票を投ずれば良いわけです。そのような消極的で保守的な票がすべてNo.2の候補に集中するので、決選投票では穏健な候補が勝利する……というのが、これまでのメイン・シナリオだったのです。

しかし……

ここへきて泡沫候補だった左翼党(LFI)のジャン・リュック・メランション氏が、巧みなトークと有権者の心を掴む面白い選挙キャンペーンで支持率を伸ばしています。

彼が唯一の左派候補(というか社会主義者)ということも少なからず関係していると思います。

メランション氏は65歳ですが、ポップ・カルチャーを巧みに選挙戦に取り入れています。たとえば「財政コンバット」というビデオゲームをリリースし、その中でメランションのキャラが、IMFのクリスティーヌ・ラガルドからおカネを巻き上げるというような設定になっています。



また選挙集会で、スターウォーズを連想させる3Dホログラムにより同時に二箇所の集会場でスピーチするなど、若者と「つながる」力が強いです。

メランションはとてもトークが上手いので、政治に興味の薄い、「情弱」にもウケているわけですが、その本質は、キューバのフィデル・カストロ、ベネズエラを無茶苦茶にしたウゴ・チャベスなどの「南米型ポピュリズム」に強く影響を受けたポピュリズムだと思います。

一例として、「年間所得40万ドル以上の高額所得者には90%の所得税を課せ!」と主張しています。このような重税が経済をダメにするのは、むかしの「英国病」の例で既に証明されています。

さらにメランションは「EUとの間で、リスボン条約(=EU憲法)を再交渉する。EU離脱も可能性として残す」と主張、NATO、IMFなどからも脱退を主張しています。

メランション氏への支持率は18%前後で、現在は第4位ですが、投票日直前の勢いという点では他のどの候補よりモメンタムを持っているので、ひょっとすると第一回投票の上位二者は1)ルペン、2)メランション、という選択肢になるかも知れません。

その場合、有権者は(隠れナチスではないか?)と噂されるファッショ的なルペンと、「ベネズエラへの道」を邁進するかもしれないメランションという、サイアクな候補の間でどちらかを選ばなければいけなくなります。

ルペンは「自分が大統領になったらEU離脱の国民投票を行う」と公約しています。

欧州の市場参加者は、国民投票を最も恐れます。Brexitの例を引き合いに出すまでもなく、EU残留の是非を直接国民に問うのは、とてもリスキーな行為だからです。

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