欧州とアジアの懸け橋に位置するトルコで、国のあり方が大きく変わろうとしている。

 16日の国民投票でわずかな差で憲法改正が認められ、議院内閣制をやめ大統領制に移ることになった。問題は、今は象徴的な国家元首と定められている大統領に強大な権力が集中し、立法府や司法府との三権分立が骨抜きになりかねないことだ。

 新しい制度では、大統領は国会の承認なしに副大統領や閣僚を任命し、予算案も作成する。非常事態を宣言し、国会を解散できる。裁判官や検察官の人事にも強い影響力を持つ。

 エルドアン大統領は、強い指導者のもとで意思決定が素早くなり、治安や経済が安定するとしている。しかし、野党や、トルコが加盟を求めている欧州連合(EU)は「民主主義が後退し、独裁への道を開く」と警戒する。大統領は、こうした批判に耳を傾けるべきだ。

 国論が二分するなかで強権をふるう手法をとれば、社会の亀裂が深まり、不安定になる。近年増えているテロの危険性はさらに強まるだろう。欧州との関係が悪化すれば、中東の過激派組織「イスラム国」(IS)対策や難民問題への国際的な取り組みにも支障が出かねない。

 エルドアン氏は「歴史上初めて国民の手で改革を実現した」と、正当な手続きで民意が示されたと強調した。だが、国民投票の内実には疑問も残る。

 トルコでは昨年7月のクーデター未遂事件の後、いまも非常事態宣言が出されたままだ。事件に関わったとして公職を追われた人は6万に及ぶという。150以上の新聞社、放送局などの報道機関が閉鎖された。野党の有力議員も拘束されている。

 そんな状況での国民投票である。政権与党が提案した改憲案に対し、国民は本当に自由な意思表示ができたのか。EUは報告書で「国際基準からみて自由で公正とは言い難い」と批判していた。それでも反対が49%にも上ったことを、大統領は重く受け止めなくてはならない。

 トルコには隣国シリアの難民が300万人近くいる。トルコとEUは昨年、難民や移民が欧州に不法に渡るのをトルコが抑える代わりに、EUが財政支援することで合意した。両者は、今後も難民対策で密接に協力する必要がある。

 トルコでは、日本を含む各国の援助団体が難民への人道支援をしている。親日国トルコと日本の外交関係は良好だ。民主的で安定した地域大国トルコこそが中東安定の要であると、日本政府もしっかり伝えるべきだ。