B2B Startup Blog: ホワイトカラーの働き方を変革するRobotic Process Automation

https://urbantimes.co/2013/07/the-future-of-slums-on-the-line-between-hope-despair/

人材不足、高騰する人件費など、先進国を中心に”労働”にまつわる課題は枚挙にいとまがない。こと日本は、高齢化率が21%を超える超高齢社会に突入し、労働人口が減少する一方、労働生産性は低空飛行し続け、企業では積年の課題になっている。これを背景に、海外の安い人件費をアービトラージする、BPO(Business Process Outsourcing)市場は、2020年までに4兆円に達し、拡大が見込まれている。

スタートアップでもクラウドソーシングや、最近ではBotや人工知能(AI)のような、業務の切出しや生産性向上を謳うサービスは多く出現している。その注目領域の1つとして、RPA - Robotic Process Automationという言葉が欧米を中心にバズワードになっている。事実、2013年では市場規模が200億円弱しかないが、年率+約40-60%で急成長しており、2020年には5,000億円に達すると見込まれている。

今回は、日本ではまだあまり馴染みのないRPA-Robotic Process Automationの概要について簡単にご紹介させて頂く。


Robotic Process Automation(RPA)とは何か?

Thoughtonomy社資料より抜粋

Robotic Process Automation(RPA)とは、ざっくり言うと、ホワイトカラーの単純な間接業務を自動化するテクノロジーであり、海外ではデジタル・ワークフォースとも呼ばれている。RPAでは、上記の図のように、構造化されたデータを収集・統合し、システムへ入力するといった、どの企業のフロント/バックオフィス業務にある単純な業務を自動化する。特に以下の特長がある業務は、RPAと相性が良いとされている。

・一定のルールに従って繰り返し行われる

・構造化されたデータを扱う

・ウィンドウズやクラウドサービス等のアプリケーションを使う

・業務プロセスが標準化されている

・プロセス実行に3人以上のリソースが求められる

・ヒューマンエラーが起こりやすい

では、具体的にどのような業務にRPAは使えるのか?

上記で判る通り、どの企業でも発生する財務/経理、人事等のバックオフィス業務に加え、審査業務が多い金融、保険、政府関連や、顧客の情報をシステムをまたがって処理する通信やヘルスケア、小売など、幅広い領域で活用が進んでいる。

ちなみに、どのような企業でRPAは導入されているのか?

下図に代表的な例を示しているが、豪州金融最大手のANZ社やBig 3の一角であるGMのようなオールドエコノミーの企業のみならず、GoogleやUberのようなハイテク系の超優良企業が名前を連ねる。ここで面白いのが、従来BPOを提供していたアクセンチュアやキャップジェミニでも導入しており、BPOサービスの約30%がRPAとセットで提供されているとみられる。

まとめると、欧米ではRPAのテクノロジー自体は、既にキャズムを超え、現在early majorityに浸透しており、今後さらに拡大すると見られている。


RPAを導入するメリットは何か?

RPAはヒトから機械(ソフトウェア)にすることで、顧客企業にとって様々なメリットが存在する。その中で、特筆すべき5つのメリットについて説明する。

  1. 人件費のコストダウン
    一般にRPAのコストは1人当り人件費の1/10~1/3と言われており、圧倒的に安い。(下図のバックオフィスの例では、フィリピンやインドの人件費より安い。)
  2. 業務処理のスピードアップ
    ソフトウェアなので、ヒトのように休憩も必要なく、24時間365日休まず働くことができる
  3. アウトプットの正確さ
    データのコピペ等では、人為的なミスが発生しやすいが、ソフトウェアなのでミスは最小限にできる
  4. 高付加価値業務へのリソース増強
    セールスや経営企画業務等の場合、販売活動に充てられる時間や戦略を練る時間に集中することができる
  5. リソース追加の簡便さ
    BPOや人材派遣等のように、リソース追加のリードタイムが無い

RPAはなぜ広がってきたのか?

RPAがこのように急速に広がってきたことには、顧客にとって上記のようなメリットだけではなく、4つの背景があると私は考える。

#1. ブルーカラー(工場)の生産性向上での成功体験

単純作業の多い製造ラインでは古くから、GEのsix sigmaやトヨタのカンバン方式など、メーカーでは長年、ブルーカラーの生産性改善に弛まぬ努力を続け、企業の競争力の源泉になってきた。ホワイトカラーでもオペレーションが整備され、システム化が進む中で、業務が”ライン化”している。そこで、企業経営者は、ブルーカラー同様にホワイトカラーも生産性改善ができるのでは、という機運が高まり、RPAの導入が進んだ。

#2. アウトソーシング(BPO)の活用拡大(=業務のパッケージ化)

もう1つ大きな流れとして、企業でのアウトソーシングの活用拡大がある。日本でもアクセンチュアやトランス・コスモスのようなBPO提供者が増え、一般的になってきた。このBPOを実行する上では、業務自体をパッケージ化が求められる。結果、RPAで対応できるような単純作業が、企業内でパッケージ化されるようになったと考えられる。

#3 ERP、SaaSの乱立/拡大

ホワイトカラーの業務は、ERPによりオペレーションごとシステム化され、SaaSの勃興により更に加速化している。しかしながら、業務毎に異なるシステムが乱立したため、システムとシステムの間をヒトが繋がなければならない非効率が生じた。結果、その間を埋めてくれる、RPAへのニーズが高まってきた。

#4 Big Dataの戦略的利用の拡大

上記と関連するが、デジタル化/IT化が進む中で、上流の製造から下流の販売/CSに至るまで、勘に頼らない、data-drivenな企業経営への志向が高まってきた。その文脈の中で、BigDataやAI活用(下図Level 3/4)へ取り組む企業が増えてきている。しかし、実際大企業の多くは下図で言うとLevel 1のステージにあるのが実態だと考える。その中で、AI活用の前段階として、RPAによるデータ取得・蓄積を自動化するニーズが高まってきた。

Kinetic Consulting Service社資料よりGV独自作成

RPAを提供するプレイヤーはどんな企業なのか?

最後に、現在RPAを提供するプレイヤーについて紹介させて頂く。欧米ではRPAを提供する企業は、BPO系の企業を含めて、70社以上あると言われており、既に活況を呈している。その中で、業務タイプ(ビジネス/IT ×Front/Back)別での主なプレイヤーを下図に示す。

Thoutonomy社資料よりGV独自作成

RPA市場全体では、よりビジネスサイドの業務向けプレイヤーが多く、ITよりではMicrosoft社やAtlassian社などの巨大プレイヤーが提供している。
(以下、ビジネスサイドを中心に企業を紹介する。)

現在のRPA市場のマーケットリーダーと言えば、Automation Anywhere(AA)社だ。同社は、資材調達を含む財務管理や人事管理のバックオフィス系業務が主力(全体の約90%)で、一部カスタマーサポート系業務のRPA(同10%)を提供している。全世界に1万人以上の導入実行リソースを抱え、開発者も150人を超える巨大なエコシステムを構築している。

AA社に追随するRPAのリーダー企業は、2001年創業のBlue Prism社だ。同社はビジネス×バックオフィス系業務に特化しており、特に金融やヘルスケア等の規制産業のニーズにマッチしたRPAの提供を強みとしている。また強力なパートナーとの戦略的な連携に注力しており、売上の約80%はライセンスフィーになっている。

上記の2社を追いかけるRPA系スタートアップとして注目が集まっているのが、UiPath社とWorkFusion社だ。

UiPath社はルーマニア発のスタートアップで、元々はSDK開発を行っていたが、RPAが収益の柱になっている。同社は、自社システムとMicrosoft Workflow等の他のシステム提供者との連携をする”オープン戦略”を取り、直近では売上を4倍に伸ばし、約2M USDにまで達している。

最後にRPA市場で注目を集め、個人的にも注目しているのが、MIT Computer Science&AI Lab発のスタートアップ Work Fusion社だ。同社は2010年の創業当初は、金融向けのFraud Detectionの機械学習ソフトを開発していた延長線で、RPAと人工知能を組み合わせたアプローチで、金融、EC、農業に至るまで幅広い産業に提供している。ちなみに、直近までに約70M USD以上の資金調達を行っている。

日本ではまだまだ浸透していないRPAだが、一つ先の人工知能(AI)領域に注目が集まる中、バズワードになる日も近いかもしれない。