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死神皇帝のバイト妃 作者:カホ

第1部 ~死神皇帝のバイト妃~

4/5

妄想癖は伝染するもの?

ざまぁ第一段階のプロローグ的なお話になっているといいなぁ……
その前にまずちゃんとざまぁになってるのか?作者不安
「フォルビヤーノ。お前は自分がしでかしたことの重さがわかっているのか?」

エルイヴァラ・ロディアによる一方的な断罪卒業パーティの翌日、トパーズ・ローゼンクロイツ公爵は王太子側に立った息子フォルビヤーノを書斎に呼び出した。トパーズは体が丈夫ではなく、昨日も体調を崩してしぶしぶ愛娘の卒業パーティを欠席していた。

まさかそのタイミングでこんなことが起きるとは。こうなるとわかっていたら這ってでも行ったのに。

「いいえ、俺のやったことは決して間違いではありません。姉は公爵令嬢の身分を笠に着て、リリーニャ・ディルス男爵令嬢に悪質ないじめを繰り返していました。エル殿下の寵愛を受けるリリーニャへの嫉妬に狂っていたのです」

父の問いに対して、フォルビヤーノは悪びれもなく言い切った。まるで自分の行動が絶対に正しいというように。トパーズはひどい頭痛に襲われ、眉間を抑えた。ここまで愚かだとは思わなかった。学園に入る前まではかろうじてわがまま息子にとどまっていたのに、あのバカ王太子と男爵令嬢に毒されてどうしようもない愚か者に成り下がったか。

フォルビヤーノの言う男爵令嬢のことは、トパーズも息子からうざいほど聞かされていた。しかし腑に落ちないことがあったから調べてみたことがある。

リリーニャ・ディルス男爵令嬢。ディルス男爵に学園入学直前に庶子として引き取られた娘だが、その出生には多くの疑問がある。まず、彼女の母親は男爵が抱いた娼婦と言われているが、ここ20年の間男爵は正妻を失って一度も屋敷から出たことがないらしく、女性客が出入りしてたという記録もない。つまり彼女は男爵の子ではない可能性が極めて高い。

次に、リリーニャは男爵領第4区の出身だとされているが、4区の出生記録をいくらさかのぼってもリリーニャの特徴と一致する子供を見つけられない。それどころか男爵領第1区から第5区までの記録を全部探したが、どこにもなかった。出生届を出さなかった可能性もあるが、なんらかの目的でセラルーシにもぐりこんだ密偵のたぐいであるとも考えられる。

だからこそリリーニャが学園に入学し、有力貴族の令息を囲い込むようになったときから、トパーズや国王は警戒していた。結局、アクアマリンの婚約破棄は行われてしまったが。あの子には本当に何から何まで屈辱的な思いをさせてしまった。

「姉は醜い嫉妬心に駆られ、自分よりも美しい天使のリリーニャを亡き者にしようとしていました。私はただあの悪魔からリリーニャを救っただけです」
「……とんだ阿呆だな」

呆れてものも言えないとはまさにこういうことだ。トパーズは吐き捨てる。兄である国王にせがまれて婚約を許可したが、アクアマリンがエルイヴァラを最初から嫌っていたのは周知の事実だった。あれだけ周囲がわかりやすい反応を見せていたのに気付かないとか、アホの極みだ。

そもそもあの男爵令嬢は中の下にも及ばない普通顔だ。それをどう美化したら天使になるのかも意味不明だし、ましてや神々の愛し子とまで言われるほどの美貌を持つアクアマリンを超えるなど、冗談でも笑えない。節穴と評するのも失礼である。節穴という言葉に対して。

フォルビヤーノは、7年前に再婚した後妻の連れ子である。子爵位のくせしてわがままで浪費癖のひどい妻との関係は最悪だった。その子であるフォルビヤーノも似たような性格で、屋敷では誰からも嫌われたいたが、コレはアクアマリンによくなつき、姉弟仲も非常に良かったから使用人たちにも見逃されていた。それが何がどうなって、あれだけ慕っていた姉を貶める手伝いをしたのか。疑問しかない。

こいつは、姉という後ろ盾があったからこそ敵だらけの公爵家で次男としての地位を得ることができていたことをわかっているのだろうか?……いや、わかっていないだろうな。わかっていたらこんな阿呆な真似はしないか。

「マリンをどこにやった。昨夜、マリンの帰還の馬車を手配したのはお前だったな」
「知りませんよ。姉は未来の王太子妃に非礼を働いたのです。それに宰相様や騎士団長様の令息、公爵家嫡男である俺にも暴言を吐いたのです。神によって罰せられてもおかしくありません」
「………」

もはや呆れを通り越してばかばかしく思えてきた。アクアマリンがそんなことをする娘じゃないのは、長年娘を愛してきたトパーズにはよくわかる。アクアマリンは、愚かな父の息子と救いようのない王太子と以下略に貶められた、れっきとした被害者だ。

それに、フォルビヤーノが嫡男?そんなことがあり得るわけがない。学園在学中にも、次代の公爵家をよく支えるよう諭したというのに、このアホはいったいどこからそんな妄想を抱いてきたのか。

「あり得ない。お前のような恥さらしを嫡男にするなど、末代までの恥だ」
「何を言いますか、父上!お前こそ嫡男にふさわしいと言ってくださっていたではありませんか!」
「言っていないな。お前の耳は腐ったのか。むしろ、お前のようなアホ以上に優秀な人材がいるのに、なぜわざわざお前のようなアホを嫡男に据えなければならない?寝言は寝てから言え」
「え…?俺は父上の一人息子ですよね?」

どこまでもバカに身を堕としたか。直接会ったことがないにしろ、コレには今まで何度も紹介してきたのに。公爵家の長男を。

「どうやらお前も救いようのないところまで堕ちたようですね、フォルビヤーノ」

ふと、書斎入口からやわらかい声色が響いてきた。フォルビヤーノが振り向いた先には、プラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳の青年が立っている。ローゼンクロイツ公爵家長男、エメラルド・ローゼンクロイツである。

「だ、誰だ!なぜ勝手に公爵家に立ち入っている!」
「ひどいですね。僕は一応お前の兄なのに忘れるなんて。それに、ここは僕が継ぐ家なのですよ?帰宅にいちいちお前に許可をもらう必要なんてないでしょう」

口元に笑みは浮かべているが、フォルビヤーノを見るエメラルドの目線は氷点下だ。そのつららのように鋭い視線に、フォルビヤーノは小さく悲鳴をあげる。本当に残念だ。妹がかわいがっていたから子爵の子でも見逃していたのに、身の程知らずは身を滅ぼすとはよく言ったものだ。

「ラルドか。来年まで隣国の大学で留学してるんじゃなかったのか?」
「今は長期休暇中です、父上。それに、大事な妹が冤罪で国外追放されたとなると、学校なんてどうでも良いですよ」

書斎の机に座る父の言葉に、エメラルドはにこやかに微笑んで返答する。3年ぶりに見る父は、病弱体質は多少マシになったように思えるが、今の顔色は良くない。これ以上このアホの相手を父にはさせられないな。父がストレスで倒れてしまう。

「さて、愚かな僕の弟君。いや、君のような愚か者を弟と認めるのも胸糞悪いね。フォルビヤーノ、僕が誰かはわからない?」
「誰だ貴様!?俺はお前など見たことないぞ!」
「それは当然だよ。なんせ僕はお前が学園に入るずっと前から隣国に留学していたのだから。国家の代表としてね」
「嘘だ!」
「嘘なものか。それよりも、お前は今自分が置かれている状況がわかっているかい?」

こいつの阿呆な発言に付き合ってられる程、エメラルドも暇ではない。さっさと片をつけよう。

「なんのことだ?俺の生活はいつも通りだぞ!」
「へえ、いつも通りね。屋敷のお前に対する対応や空気が変わっていんじゃないの?例えば、食事が一気に乾パンと薄いスープになったとか」
「な、何の…ことだ…!」
「無理は良くないよ。もうわかってるんだろ?使用人たちの態度が変わったこと、日常生活の質が落ちたこと、肩身が狭くなったこと。お前の屋敷でのすべてが失われつつあることをさ」
「!!」

思い当る節があったのか、フォルビヤーノの顔色がみるみる蒼くなっていく。この様子だと、自分が姉にかばわれていたことも知らなかったのだろう。こいつは母親と同じようにわがままで自分勝手で浪費癖もある。屋敷の誰からも嫌われていた。ただでさえ身分の低い母から生まれる子供は疎まれるのに、こいつはその上嫌われ者。普通であれば徹底的に冷遇されても誰にも同情されない。

「お前が今まで大手を振って屋敷を歩けたのは、全て慈悲深いマリンがお前をかばっていたからだ。それのおかげで何とか生きながらえられていたお前が、姉の庇護を失った今どうなるか、妄想が大好きなお前には軽々と想像できるよね?」
「っ!!」

確実に袋叩きコースだろう。デカい顔をする息子をダシにうまい汁をすすってきた後妻も同様の末路をたどるだろう。恩を仇で返す阿呆など、もっと苦しめばいい。

エメラルドとしては、最愛の妹が味わった苦労と屈辱を思えばこの愚か者を再起不能になるくらいに打ちのめさなければ気が済まないが、それは父が許さないだろう。現ライガー王の実弟である父は、とても心優しい人だ。心から嫌悪している後妻も、彼女の実家の家計が火の車だからと離婚せずに家にとめおいているくらいなのだから。父がいることに免じて、今日はこの辺にしておいてやろう。

その代わり、この屋敷でこいつに安寧の日々はもう来ないだろうが。
プロローグのつもりが、二分してしまいました(え
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