基礎が鉄筋コンクリート製の木造仮設住宅
“熊本型仮設”は、壁や床に地元産のヒノキや杉が使用されているほか、基礎は鉄筋コンクリートで作られています。一連の熊本地震で家を失った人のために、熊本県内におよそ680戸建設されました。従来の「プレハブ仮設」より居住性にすぐれている上、長く住むことができます。入居している人からは、「冬でも暖かく過ごせる」とか、「基礎がしっかりしているので小さな地震は感じない」などという声が聞かれました。
教訓にしたのは「九州北部豪雨」
熊本県がこの仮設住宅を作った背景には、過去の災害の教訓がありました。その1つが、平成24年7月の「九州北部豪雨」です。このときも家を失った人のために熊本県内には、およそ50戸の仮設住宅が建設されました。
通常、仮設住宅の基礎は木の“くい”。ところが…
この災害で作られた仮設住宅は、基礎がすべて木の“くい”でした。内閣府などによりますと、被災者に避難所からなるべく早く移ってもらうために仮設住宅はコストをかけず素早く作る必要があり、木の“くい”は、それに適しているということです。
また、仮設住宅の入居期限は、災害救助法で原則2年と決められていて、2年後に被災者が退去したあと、取り壊す際に作業しやすいこともあり、仮設住宅の基礎には、木の“くい”が使われるのが一般的だということです。
しかし、九州北部豪雨では、自宅をすぐに再建できず、2年以上、住み続けなければならない人が多くいました。このため、基礎を鉄筋コンクリートに変える工事が必要になり、およそ1800万円の追加費用がかかったのです。
仮設暮らしが長期化してきたこれまでの大規模災害
さらに熊本県は、過去の大震災も教訓にしました。阪神・淡路大震災では仮設住宅がすべてなくなるまで5年かかったことや、発生から6年が経過した東日本大震災でも、お年寄りなどを中心におよそ3万人が仮設住宅で生活を続けていることなど(ことし2月末時点)、大規模災害が起きるたびに仮設住宅での生活が長期化していることをふまえました。
最初から長期化を見据えた仮設住宅を建設
こうしたことから、熊本県は、今回、はじめから長期化を見据えて基礎を鉄筋コンクリートで作りました。
熊本県建築住宅局の田邉肇局長は、取材に対し、「あくまで仮設住宅なので、残すことを前提にするということは、本当は言ってはいけないのかもしれないが、被災者の立場になって考えると2年以上住み続けられるような仮設住宅があってもよいのではないかと考えた」と話していました。
熊本県によりますと、この“熊本型仮設”は、20年以上住み続けられるので、「災害公営住宅」に移行することも可能だということです。しかし、プレハブの仮設住宅に比べると、1戸当たりの建設コストは30万円から40万円ほど高くなるほか、工期も10日から最大で2週間程度長くなります。
このため熊本県ではこの“熊本型仮設”のほかに、プレハブの仮設住宅や賃貸住宅を利用した「みなし仮設」の中から、市町村が選べるようにしました。田邉局長は、「早く作ることを優先する場合は基礎が木のくいのプレハブ、しっかり作る場合は鉄筋コンクリートと、仮設住宅にもいろんな選択肢があるという提案も必要だと思う」と話していました。
長期化を想定していない今の仮設制度
しかし、この“熊本型仮設”は、熊本以外のほかの地域では、原則、作ることができません。災害救助法に基づく今の制度では、仮設住宅は、あくまで被災者が自宅を再建するまでの仮住まいで、入居期限は原則2年とされ、長く住み続けることは想定されていません。このため「熊本型仮設」も余震に備えるための特例として、国が認めたにすぎないからです。
これについて、仮設住宅をめぐる法制度に詳しい東北大学大学院の島田明夫教授は、「大規模な災害が相次ぐ中、最初から長期化を見据えた仮設住宅を作った熊本の取り組みは、過去の災害の教訓をうまく生かしていて高く評価できる。これを全国に広げることが重要だ」と話しています。
そのうえで、「そのためには災害救助法に基づく今の制度を見直し、災害直後の応急対策を仮設住宅で終わりにするのではなく、災害公営住宅までを見通した新しい制度を整備することが必要だ。また、全国の自治体も、熊本のように独自の取り組みを考え、国に提案していく必要がある」と指摘しています。
仮設暮らしの長期化にどう備えていくべきか
今回の取材で、災害救助法を所管する内閣府の担当者は、「はじめから仮設住宅の長期利用を想定してしまうと、被災者が再建意欲をなくしてしまう可能性がある」と話していました。
一方、熊本県建築住宅局の田邉局長は、「被災者の中には、お年寄りなど再建が難しい人たちもいるので被災者や市町村が求めるのであれば仮設住宅に住み続けることもあってよいと思う。大切なのは、被災者のニーズや地域の事情に合わせて、さまざまな選択肢を示すことではないか」と話していました。
これまで仮設住宅には、被災者が一刻も早く避難所から移ることができるよう“迅速かつ大量に作ること”が求められてきました。熊本地震でも多くの人がプライバシーを守れない避難所を避けて自宅の軒先に戻り、生活を送ったことを考えるとその重要性は変わりません。
しかし大規模災害のたびに、自力での再建が難しい人たちを中心に被災者の仮設住宅での生活が長期化している現状を踏まえると熊本のように仮設住宅から災害公営住宅に移行しやすい建物を導入するなど、新たな仕組み作りが必要になっていると感じました。
- 社会部
- 宮原豪一 記者