花見がてら東京・上野の国立科学博物館に立ち寄った。大英自然史博物館の膨大な収蔵標本からえりすぐった約三百七十点を展示している。本邦初公開との触れ込みである。
 
 興味をひかれたのは、科学史上最悪の捏造(ねつぞう)事件と呼ばれたピルトダウン人のニセ化石。一九一二年、大英自然史博物館の地質学者アーサー・ウッドワードは、アマチュア考古学者チャールズ・ドーソンが英南部のピルトダウン村で発掘したという化石を、類人猿とヒトを結ぶ五十万年前の人骨と宣言した。
 
 大英帝国の権威が発信したこのフェイク・ニュースは、フッ素による年代測定などで、頭はヒト、下あごはオランウータンの骨と判明する五三年まで約四十年間、世界を欺き続けた。でっち上げの真犯人はドーソンだったと特定されたのは、最近のことという。
 
 進化論のダーウィンを生んだ覇権国家にとって、人類史を書き換えるような化石の出土は大きな夢だったらしい。ドイツでは一八五六年にネアンデルタール人が、フランスでは六八年にクロマニヨン人が、九一年にはインドネシアでジャワ原人が発見されていた。
 
 ナショナリズムの高揚につけ込んだアマチュアの欲望と引きずられたエリート。事件の背景にそんな構図を思い浮かべるのは大げさか。フェイク・ニュースが簡単に拡散する現代。誰かを利するための情報ではないかとまず疑ってみることが大切だろう。(大西隆)
 
 
この記事を印刷する