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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外324 温泉と交流と

「ああ。これは……また深い味わいで……! こっちの料理はどうでしょうか……?」

 と、休憩所では、コウギョクが食事を口にして感嘆の声を漏らしていた。
 コウギョクは後学のためにか、色々な料理を少しずつ貰って、口に運んでは分析している様子だ。食材や調理法の研究に余念がないのだろう。

 コマチとしては、そんなコウギョクの向上心旺盛なところに感銘を受ける部分があるのか、コウギョクに色々話題を振ったりして仲良くなっている様子だ。
 コマチと一緒にいるツバキも料理に興味があるのか。コウギョクから話を聞いて「それなら里の皆にも作ってやれるかも知れんな」などと言ってた。

 休憩所に用意されているのはカツカレー、ロブスターのチーズ焼き、鳥の香草詰め、から揚げ、きのこと野菜のスープ、海草サラダ……等々。
 見た目には普通の料理でも、迷宮産の魔物の食材を使える場合は、大体それらの素材を調達してきている。

 カツは例によってマンモスソルジャーだし、ロブスターは魔光水脈産のバレットロブスターと言われる種だ。プロテクションを自身に用いてハサミを突き出して特攻してくる連中である。
 倒すと魔法が解けて、殻の堅さも普通のロブスターぐらいになるのが食材向きで良いと思う。

 鳥は幻影渓谷の魔物だし、から揚げはスプリントバードだ。スープやサラダもキノコや植物系の魔物であったり海草系の魔物であったりする。

 とまあ、そんな感じで迷宮産の食材が多いためにコウギョクのテンションは大分高まっている。

 今回はデザートとしてバニラエッセンスで香り付けをしたアイスクリームも用意したが、そちらも好評である。アウリアとシュウゲツ達、冒険者ギルドの面々も一緒なので――。

「おお……! これは甘くて冷たくて絶品じゃな!」
「ああ。これは……美味しいですね」
「何だか不思議な香りもするね、アウリアちゃん!」
「うむうむ」
「病みつきになる……」

 と、アイスクリームをスプーンで口に運んでは、シオン達や小蜘蛛達と一緒ににこにことしているギルド長がいるわけだ。
 シュウゲツも大分アウリアの性格を掴めてきたようで、苦笑いをしているような微笑ましく見ているような……。まあ、面倒見がいいというのは分かっていたが。

「美味しいですね、テオドール様」

 と、にこにこしているのはアウリア達だけではなく、アシュレイやマルレーン達もなのだが。

「これから夏場だし、かき氷と一緒に人気が出そうですね」
「ん。私もこれは好き」

 グレイスが微笑み、シーラもアイスクリームを口に運んでお代わりを貰いに行っている。

「これもあちらの氷菓子なのよね」
「何にしても甘味が増えるの嬉しいわね」

 味わって感心したような反応を見せるローズマリーと楽しそうな様子のステファニアである。
 作り方としてはそう難しいものでもない。牛乳に砂糖、卵とバニラエッセンスがあればいける。
 細かな部分までしっかりと食感や味を調えられるかが課題であったが、冷やした時の柔らかさ、口に入れた時の滑らかさ、甘さとバニラの風味の加減、口の中で溶けた後の食感や後味等々、それなりに納得のいくものが作れたと思う。

「喜んで貰えて嬉しいよ。今度は果汁を混ぜて色々な風味にして見ようかと思ってる」
「ん。期待してる」

 シーラがサムズアップで答える。中々好評なようで良かった。
 そんなわけでベリーネ達は食後にアイスクリームを食べながらギルドに関する相談を進めているようだが……冒険者ギルドのホウ国支部に関してはシュンカイ帝やレアンドル王も交えて色々と具体的な話が進行している様子だ。

「ほうほう。では、現地の職人達が支部の建物を作ってくれると」
「そうですね。ショウエンが統治していた頃に色々なものに目を瞑って、力になれなかった事を悔やんでいると仰っていました。だから、その罪滅ぼしなのだと……」

 ベリーネの問いかけに、シュウゲツが少し感じ入るように目を閉じる。

「テオドール殿の魔法建築に強い刺激を受けたようで、負けていられないと随分気合が入っていた様子だったな。随分な熱意だったので、建設用の資金は援助させてもらうことにした」
「それはまた……。それはそれですごい事になりそうですが」

 シュンカイ帝がそう言うとヘザーが苦笑した。
 冒険者ギルドの支部については現地の職人達が建物を作ってくれる、とのことだ。転移門設備を作った時に色々と刺激を受けていたようだからな。これはこれで一つの交流の形かも知れないな。

 他の場所にも目を向けてみると……遊泳所は使い魔達と妖怪達が遊んでいて中々にカオスな雰囲気ではあるのだが、あれはあれで楽しそうだ。特にシャルロッテはティールの背中に乗って非常に満足そうにしていた。アカネも鎌鼬達に誘われたのか、ウォータースライダーで一緒に滑っていたりする。

 休憩所には魔法楽器も持ち込まれていて、ゴーレム楽団が演奏することもできるし交流の一環としても活用できる。

「その楽器は前に見せて頂きましたが、随分と色々な音色が出るのですね」
「キーボードというのよ」

 ユラの質問にクラウディアが答える。

「慣れると色々な曲を演奏できて楽しいですよね、クラウディア様」
「そうね。私もこの楽器は気に入っているわ」

 クラウディアやイルムヒルトも、最近は魔力キーボードを演奏できるようになったそうで。連弾したりそれに合わせてドミニクとユスティア、セラフィナが一緒に歌ったりと、随分と楽しそうな様子であった。肩にセラフィナを乗せてクラウディアの近くで様子を見ているヘルヴォルテも……表情は変わらないが小さくリズムを取っていたりして、割と内心ではこの時間を楽しんでいることが窺える。

「この際だから覚えてみる?」
「良いのですか?」
「ええ、勿論。ここに指を置いて、そう――」

 と、魔力キーボードの演奏の仕方をユラやリン王女に教えたりもしていて、休憩所は終始和やかな雰囲気であった。



 食後に一休みしてからはフォレスタニア観光である。フォレスタニアの夜景に驚くホウ国の面々や同行者達と共に、街中を見て回る。
 滞在中にアンゼルフ王の3部作の上映会ができるようにと予定を組んであるので、街中を一通り回ったら続いて幻影劇場に案内したのであった。

 上映は好評で、初めて見る者達は興奮冷めやらぬ、という印象。再度上映を見た面々も新しい発見があったようで、楽しんでもらえたようで何よりである。

「いやはや。何とも凄まじい技術が注ぎこまれておったが……前に言っておったのはこれかの?」

 と、上映が終わって劇場から出たところでゲンライが尋ねてくる。

「そうですね。草原の王と聖王について、幻影劇にすることで情報を周知することもできるかな、と。勿論、明かせない部分については伏せて、ということになりますが」
「確かに、作品として語る分には伝えられない情報を伏せる事も可能か。幻影劇を見せてもらって改めて考えてみれば……彼の者に向ける目を正しいものとし、鎮魂と慰霊を願うという意味では有効かも知れんのう」

 ゲンライは中々乗り気な様子である。情報を周知することで、高位の邪精霊が発生することを抑止するという意味合いがある。草原の王については誤解されているイメージも多いからな。

「まあ、問題としては幻影劇場に足を運んで貰わないといけないというのがあるのですが。もう少し小規模に抑え、魔道具で他の場所でも上映可能にするという手もあるかも知れませんね」

 要は幻影をその場に映し出せればいいのだから、劇場程の規模と臨場感は無理だとしても、幻影を投影するのに丁度良い落ち着ける空間と魔道具だけがあれば何とかなるというわけだ。
 これからまた少し忙しくなるから、工房の仕事としてはやや後回しになってしまうのは否めないが。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

お陰様で境界迷宮と異界の魔術師のポイントも何と14万を突破することができました!
これもひとえに皆様の応援のお陰です!
これからもウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願い致します!

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