【イスタンブール=佐野彰洋】16日のトルコ国民投票はエルドアン大統領の悲願である大統領権限を大幅に強化する憲法改正を僅差で承認した。同氏は政権を握る強みから自らに有利なキャンペーンを繰り広げた。過激な発言で欧州との対立をあおることで愛国的な保守層の票を掘り起こし、薄氷の勝利を手繰り寄せた。
「2015年の初めに(強力な)大統領制度への支持率は25~30%にすぎなかった」。エルドアン氏は16日の記者会見で感慨深げに振り返った。
国民投票は過半数獲得に失敗すれば、個人の信任に傷がつく恐れもあるもろ刃の剣だった。それでも実施に踏み切ったきっかけは16年7月に起きたクーデター未遂事件だ。事件後、愛国機運が一気に高まり、エルドアン氏個人の支持率も跳ね上がった。
エルドアン政権は在米イスラム教指導者のギュレン師を事件の黒幕と断定。非常事態宣言を発令し、軍や司法に浸透した同師支持勢力の一掃に乗り出した。大規模な弾圧の矛先は事件とは無関係の学者やクルド人中心の野党など政権の意に沿わない人々にも向かった。
強権で異論を封じ込めたエルドアン氏は多額の公費をつぎ込んで全国を遊説。野党の主張をほとんど報じない主要テレビは遊説の様子を連日中継し、エルドアン氏はインフラ整備や福祉改善の実績を繰り返し訴えた。
「外敵」も巧みに作り出した。トルコ閣僚が参加する改憲支持集会の開催を禁じたドイツやオランダを「ナチスの行い」などとこき下ろし、激しい非難合戦を展開した。
改憲への賛成票を投じたイスタンブールの理髪師男性(40歳代)は「大統領の欧州に立ち向かう姿を誇りに思う」と喜んだ。態度を決めかねていた愛国的な保守票の取り込みに成功し、50%超えに必要な数ポイントの上積みにつながったとみられる。
エルドアン氏は大統領への権限集中による迅速な意思決定が、トルコの経済成長に必要な「安定と信頼をもたらす」と主張してきた。ただ、野党は三権分立を形骸化させ、「個人支配」を招くと反発している。
改憲賛成派の勝利で早期選挙の懸念が後退したことを市場は好感。トルコの通貨リラは17日、一時1ドル=3.62リラ台と14日終値に比べて約2.8%上昇した。