この記事は元弁護士である福谷陽子先生に書いていただきました。クラウドソーシングなどの外注ライターを利用する場合には知っておきたい「著作権と損害賠償」という法律に関するテーマです。
最近はクラウドワークスやランサーズなどのクラウドソーシングを利用して、記事を外注するアフィリエイターが増加しています。アフィリエイターは記事を外注することで、記事を書く時間を別の作業に当てることができるというメリットがあります。その一方で、外注したライターが他人の著作物を無断で転載し、著作権侵害を行うトラブルが続出しています。
発注者であるアフィリエイターはWEB上で公開前に納品された記事のコピーチェックなどを行う必要がありますが、それでも他サイトからの転載や盗用を100%見抜けるわけではありません。著作権侵害している記事だと気づかずにWEB上で公開してしまった場合、アフィリエイターは著作権元から損害賠償を受ける可能性があります。発注したアフィリエイター側からすれば、著作権侵害をしたのはライターなので損害賠償と言われても納得することはできませんよね。
このような場合にアフィリエイターは、著作権侵害をした外注ライターに対して損害賠償請求をすることができるのでしょうか?今回は外注ライターが著作権法違反をして、著作権元から損害賠償を受けた場合の賠償金請求の可否について解説します。
目次
記事の転載は著作権法違反となる
アフィリエイターが外注ライターにオリジナル記事の作成をしてもらった場合、ライターが著作権法違反のコピー記事を提出してきたら、どのような問題が起こるのでしょうか?
この場合、アフィリエイターは元々の記事掲載者(転載元の筆者)の著作権を侵害することになるため、著作権者から損害賠償を請求されるおそれがあります。著作権侵害による損害賠償が発生するには、故意過失が必要ですが、記事の掲載者(アフィリエイター)が著作権侵害に十分注意を尽くしていなかった場合には、過失があると判断されます。
著作権侵害をしたライターへ損害賠償請求できる
それではアフィリエイターがもともとの著作権者に損害賠償金を支払った場合、その金額を外注ライターに賠償請求することは可能なのでしょうか?
この場合、アフィリエイターと外注ライターとの間の契約内容が問題となります。アフィリエイターは外注ライターに対し、オリジナルの記事を制作することを依頼しているのですから、コピー記事の提出は債務不履行になります。また契約書内に「著作権法侵害をしない」ことを定めている場合もあります。
そこでアフィリエイターは債務不履行に基づき、外注ライターに対して損害賠償請求をすることが考えられます。また著作権法違反の行為は不法行為ですが、これによって外注ライターがアフィリエイターに損害を与えているので、不法行為も成立する余地があります。
全額請求できるとは限らない
アフィリエイターが外注ライターに損害賠償請求ができるとは言っても、アフィリエイターが著作権者に支払った金額の全額をライターに請求できるとは限らないので、注意が必要です。アフィリエイターにも損害発生についての責任があるため、そのすべてをライターに課すことが妥当とは言えないケースが多いためです。どちらにどれだけの過失があるかということにより、損害の負担を分担することになるでしょう。
著作権侵害になる基準は?
たとえば、コピー率50%以上だったら著作権法違反など明確に決まっているのかが問題です。これについては、はっきり「何%以上なら著作権侵害になる」という基準はありません。コピー率を測定するコピーチェックツール自体が不正確なものですし、その性能もツールによってさまざまです。
また記事のジャンルや内容、ボリュームなどによっても著作権侵害の判断基準は変わります。たとえば、オリジナル性の高い小説などならコピー率が低くても著作権侵害になりやすいでしょうし、法律制度などの解説なら、誰が説明しても同じになるのでコピー率が高くても著作権侵害になりにくいです。
外注ライター募集時の注意書きについて
ランサーズやクラウドワークスなどで外注ライターを募集するとき「著作権侵害行為は禁止です」などの注意書きを入れている発注者も多いですが、この注意書きは十分なものなのでしょうか?
確かにこれでも著作権侵害が禁止されていることは分かりますが、実際に著作権侵害を行った記事を納品した場合に損害賠償が行われるかどうかまでは明らかでありません。そこで「著作権侵害があったことにより、クライアントが損害を受けたときには受注者に対して損害賠償することがあります。」ということを確認的に規定しておいても良いでしょう。このことによってのちに損害賠償を行うとき「ライター側も、当初から著作権侵害によって損害賠償されることを認識していた」と主張しやすくなります。
著作権法違反の刑罰
最後に著作権法違反をしたときの刑罰も確認しておきましょう。著作権侵害は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金という非常に重い刑罰が科される可能性があり、それらが併科(両方同時に科されること)される可能性もあります。法人の場合、3億円以下の罰金となります。
ただ、著作権法違反の刑罰は親告罪であるため、被害者が告訴しないと処罰されることがありません。なお今後は著作権法違反を非親告罪とする予定があります。著作権侵害をした記事をWEB上に公開した場合、アフィリエイターは著作権者に著作権侵害で刑事告訴される可能性があります。アフィリエイターは著作権侵害の被害者ではないので、外注ライターを著作権侵害で刑事告訴することはできません。しかし、オリジナル記事を納品しなかった外注ライターに対して債務不履行の民事告訴で損害賠償することはできます。
外注ライターに損害賠償できる可能性があるとは言っても全額請求できるとは限りませんし、いったん落ちた信用を取り戻すことはできません。またアフィリエイター自身が著作権法違反を問われることも事実ですし、刑罰が適用されるおそれもあります。記事を外注ライターに依頼する場合には外注ライターの管理もしっかり行うことが重要です。依頼前に著作権違反をしないように注意を促し、納品された記事についても著作権侵害をしていないか、きちんとチェックするように心がけましょう。
この記事の監修者:元弁護士 福谷陽子(ふくたに ようこ)
2001年司法試験合格
1年間は司法修習に行かず、自分の見聞を広げるため、世界の国々を訪問。
2002年京都大学法学部卒業
2003年司法修習(第57期)
2004年弁護士登録
弁護士として勤務
2007年 独立開業し「陽花法律事務所(はるかほうりつじむしょ)」を設立。
2013年 体調を崩し、事務所を閉鎖。
現在は、法律の知識を生かして在宅でも出来る法律系の記事の執筆業など行う。