2014年に吉祥寺のバウスシアターが閉館し吉祥寺にミニシアターがなくなり、映画ファンが待望していた新しい映画館『ココロヲ・動かす・映画館◯』がプレオープンするというので行って見た。以前、webDICEでは総支配人の樋口義男さんにインタビューを行った際、3フロアのうち、1階を映画館、2階をカフェシアター、3階をVRシネマや映画関連の展示場というコンセプトを話してもらった。
当初2階も4月15日にオープンする予定だったようだが、プレオープン数日前に2階が興行場として許可が下りなかったので映画上映ができなくなったという報告がアップリンクにあった。アップリンクの配給作品も特集「Remember BAUS 〜リメンバーバウス〜」で上映する予定だったからだ。
さて、4月15日プレオープンということで取材に行こうと当日ホームページを見ると「2階 3階の運営について」と「上映延期」のお知らせがアップされていた。
上映延期は事前に知っていたことだが、2階のカフェシアターは、現在もホームページに謳われている「美味しい食事をとりながら、感動映画見てみませんか」という場を実現するのではなかったのか。そこは今後予告編を上映するが飲食を中心に行うとプレオープンの4月15日前日の14日付で発表された。
10時にシークレット上映開始前の9時頃なら取材OKということでかなりの不安を抱えて「行って見た!」。
先に発表されていた外観完成イメージ
9時15分くらいに到着するとシャッターが降りており、外観はイメージ図の色調にはなりかかっているが、まだ看板が取り付けられていない。さらに入り口のガラス戸にはこのビルの前のお店「パティスリー吉祥寺」の名が残っている。
開場前に映画館内を見せてもらったが、あっと驚く状態で、全くの工事中の状態だ。言葉が浮かばない。絶句。
1Fの完成イメージ図
1F劇場の様子
1F劇場の様子
1F劇場の客席
1F劇場の客席
天井はまだ張られておらず、電気の配線はむき出しのままぶら下がっている。床もむき出しのコンパネが貼られたままだ。
1F階段前
1F劇場内に垂れ下がっている配線
1F劇場のDCPサーバー
1F劇場スクリーン
上映チェック中の場内に入ると、プロジェクターは、BARCO社製のものが天吊で取り付けられ、消音ボックスがないのでプロジェクターの熱排気のファンの音が座席の最後部だと気になる。椅子は、広島の序破急が運営していたシネツインが閉館した際に譲り受けたという、フランスのキネット社の椅子が26席配置されている。スクリーンも同じくシネツインで使用されていたサウンドスクリーンをハサミで切って持ってきたというものが貼られている。カットマスクが上と左右に一応黒幕で貼られているが、下はハサミで切られた跡をそのまま残している。ココマルのスタッフが自分たちでスクリーンを設置したらしいが、四方からテンションがかけられていないため、スクリーンにはうねりができている。スピーカーはこの劇場には充分すぎるJBLのシネマ用のスピーカーがフロントにLCRそしてサブウーハーが設置されているが、客席サイドのサラウンドスピーカーが1つも設置されていない。そして外部とつながる吸排気口と天井と壁の隙間から外光が場内に入ってくる。さらに映写のためのDCPサーバーとそれを操作するためのパソコンは入り口を入ってすぐのお客さんが歩く通路上にむき出しで置かれている。
2階の完成イメージ図
工事中の2Fフロア
工事中の2Fフロアに置かれた映写機材
工事中の3Fフロア
以前のインタビューでも、樋口さんは、できるだけ手作りで映画館を作りたいということを話しており、ボランティアを募り、映画館内の壁や本棚を作ったり、外壁を塗装したりしたという。樋口さんのFacebookでも手作りで作業中の様子がアップされている。
樋口さんのFacebookより「今日は夜中にゆっくり一人映画館作りしています。なんか静けさの中で作業してると映画のスターが出てきそうです!つくってると面白くて癖になりそうです!」
樋口さんのFacebookより「今日は吉祥寺に作る劇場の雛壇出来ました!少しづつ形になってきて感動です!今後の空調と電気工事はまだ未知の世界です!勉強しないと!」
ココロヲ・動かす・映画社 ◯ Twitterより、ボランティアが外壁を塗っている様子
この状態で消防署と保健所の許可は下りたのですかと樋口さんに現場で聞くと「改善をするという前提で一応許可はおりました」という。
10時前になったので外に出てみるとオープンを期待してきたお客さんが並んでいた。5分前に開場になるとガラス戸の向こうの黒幕をめくって場内に入ることになる。入り口すぐのところに、受付のテーブルがあり、そこで自由席のチケットを購入するようになっている。
入り口入ってすぐのチケット受付
1回目の上映は何が上映されるかわからないけど「朝から感動は保証する」というシークレット上映。上映前に総支配人の樋口さんの挨拶が始まった。
「ほんとうにまだまだ準備中の段階で、どのようなかたちでオープンするか考えるなかで、一刻も早く皆様へお届けしたいということで、本日のプレオープンとなりました。今後2階、3階もオープンして、一刻も早く改善していきたいと思います」
挨拶に立つ樋口さん
始まったのは、ココロヲ・動かす・映画社〇の初配給作品『私の少女時代』だった。上映が始まって数分後、一人のお客さんが席を立ち、外に出て行った。そのお客さんに話を聞くと、クラウドファンドの出資者の一人だという。
「スクリーンが波打っている、工事中なのはまだ我慢できるが、なぜピンと張れないのか、客をバカにしている」とかなりのご立腹で立ち去って行った。
新しくできる映画館は全面的にwebDICEでも応援したい。また配給会社アップリンクとしても作品の提供で応援したい。
そして、これは樋口さんがいくつかの取材に答えているが、彼はアップリンクの「配給サポート」「ムービー制作」そして「未来の映画館を作る」という3つのワークショップの参加者だ。僕は、ワークショップを通してアップリンクで培った映画館運営、配給や宣伝の方法は伝えてきた。
彼の会社の規模はアップリンクの比ではなくゲーム製作会社としてだが全然大きい。
なので、僕は、従来の映画業界にはない新しいことをやってほしいと期待し、自分の好きなようにやればいいのではと相談された際にはアドバイスをしてきた。
しかし、今日のプレオープンを取材してここは敢えて苦言を呈するが、途中で退出したお客さんと同じ気持ちになった。
観客、配給会社、映画製作者、クラウドファンドで寄付をした人、吉祥寺に映画館ができることを楽しみしていた人、全ての人を「バカにしないでほしい」という言葉しか思い浮かばない。
外の光が入るカフェで観る映画鑑賞を否定はしない。音声がステレオの自主上映も致し方ないだろう。しかし、かつてのバウスシアターの意思を継ぐというなら言葉やイメージだけでなく、実際にきちんとした真っ当な映画館を作ってほしい。
映画館を作るにはその道のプロの英知と技術を結集しなければできない。
設計、内装、音響、防音、空調、照明、映写、チケットシステム、看板、宣伝、飲食、運営などどれ一つとっても素人ができるものではない。それぞれ専門のプロがいる。地方の古民家を借りてブルーレイで自主上映をするスペースなら手作りでできるかもしれない。しかし、配給会社から新作を借り受けて上映するなら、現在は上映環境の基準が定められているDCI準拠にのっとった、DCPプロジェクターで上映するしかなく、映写環境を整えるのは映画に関わる全ての人に対しての義務でそれはプロにしかできないことだ。
個人の夢を追うのは素晴らしいことだ。ただ夢を形にする、特に映画館という複雑な要素が絡み合った空間と映写環境とサービスを作り上げるには繰り返しになるがプロの力を結集せずして成しえない。
グランド・オープンは4月29日らしいが、そこまでに改善できるのか不安だが、多くの人が期待している映画館を、映画芸術を最後に完成させる場を作るのだという自覚を持って、そして観客に安全な形できちんと完成させて欲しい。
【23:50 加筆】記事をアップした後、夜にココマルシアターのサイトで、16日以降の上映中止が発表された。万全を期して再オープンするという。この記事では観客の安全面には営業妨害になると思い、写真は掲載したがテキストでは指摘しなかった。一旦映画館を閉館するというのは苦渋の決断だったろうが、お客さんの安全を考えると工事現場での上映、しかも映画館は真っ暗になるのでより危険度が増すので、正しい判断だと思います。完璧な状態での再オープンを期待します。
(取材・写真・文:浅井隆)
『ココロヲ・動かす・映画館◯』
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-15
03-5308-3222