中国の巨匠チャン・イーモウが「新・世界七不思議」のひとつ万里の長城の謎へと迫る歴史超大作、ここに登場!……って嘘つけおい!これはお前、俺たちのための映画、つまりは底抜けボンクラ超大作じゃねーかよおい!
目次
『グレートウォール』感想とイラスト チャン・イーモウご乱心
作品データ
『グレートウォール』
The Great Wall/長城
- 2016年/中国、アメリカ/103分
- 監督:チャン・イーモウ
- 脚本:カルロ・バーナード/ダグ・ミロ/トニー・ギルロイ
- 撮影:スチュアート・ドライバーグ/チャオ・シャオティン
- 音楽:ラミン・ジャヴァディ
- 出演:マット・デイモン/ジン・ティエン/ペドロ・パスカル/ウィレム・デフォー/アンディ・ラウ
予告編動画
解説
60年に一度現れるという外敵の襲来に備えて建造された最終決戦兵器“グレートウォール”を舞台に、人類の存続をかけた戦いの火蓋がいま切って落とされる!という歴史ファンタジー・アクション超大作です。
監督は『紅いコーリャン』『紅夢』のチャン・イーモウ。主演は『オデッセイ』のマット・デイモン。共演に『キングコング:髑髏島の巨神』のジン・ティエン、『アンチクライスト』のウィレム・デフォー、『名探偵ゴッド・アイ 』のアンディ・ラウなど。
あらすじ
宗王朝時代。金と自分のためにしか戦わない傭兵のウィリアム(マット・デイモン)は、欧州にはまだ存在しない火薬を求めて仲間とともに中国へとやって来ていた。そこで謎の生物と接近遭遇したウィリアムは、からくもその腕を切り落として難を逃れる。
その後、万里の長城の警備隊によって拘束されたウィリアムたちだったが、彼が持っていた怪物の腕に興味を示した軍師ワン(アンディ・ラウ)の計らいでなんとか処刑だけは免れる。ホッと胸をなでおろしたのもつかの間、長城に向けて迫りくる敵の来襲が告げられた。
すぐさま臨戦態勢に入る禁軍。統制のとれた10万を超す兵士たちの動きに感銘を受けていたウィリアムの目に、驚愕の光景が飛び込んでくる。それは長城へと迫りくるおびただしいバケモノたちの姿。60年に一度目を覚ますという伝説の怪物“饕餮(とうてつ)”だった!
感想と評価/ネタバレ多少
日本人の鑑とも言える夢の社畜ライフの間隙を縫い、およそ3週間ぶりに映画館へと足を運んできました。身も心も忘れられた雑巾のようにガビガビのパキパキになった妄想上殺人鬼である今のボクを救うためには、やはりどれだけしんどくても映画を観る以外すべはありません。
しかしそんなときにかぎって目ぼしい新作をやっていないのですよね。仕方がないので予告でチラッと観ただけのチャン・イーモウの新作、『グレートウォール』を観てきました。近場のTOHOシネマズでは3D上映しかやっていなかったので、無駄な出費だぜまったくもう。
チャン・イーモウご乱心?
いまだ謎の多い「新・世界七不思議」のひとつにも選ばれている中国の万里の長城。8000キロを超える長大な人口壁はいったいなんのために造られたのか?その謎へと真面目に迫る歴史超大作で、『HERO』のような武侠映画的エッセンスも取り入れた戦争アクションなのかな?
数回観ただけの予告編映像と、チャン・イーモウ監督というイメージからそういう映画なのだろうと勝手に憶測していたのですけど、いやはやなんちゅうかもう、「チャン・イーモウご乱心!?」としか言いようのないバカみたいな底抜け超大作ではありませんかこれ!
『紅いコーリャン』や『紅夢』のときのような社会性や芸術性はどこいった!?『HERO』の映像オンリー中身スッカスカにガッカリし、祖国におもねった北京オリンピック開会式の演出で完全に見限り、長らくあなたの映画は観ていなかったが、そのあいだに何があった!?
中国第五世代を代表する巨匠であったはずのあなたが、まさかこんな底抜けご乱心クソバカ映画を撮ってしまうなんて、ボクはもう本当にうれしくてうれしくてたまりませんよ!あなたのまっとうなファンはお嘆きのことでしょうが、俺らボンクラはこの乱心を大歓迎しますぞ !
人類VS怪物の最終決戦映画
何が巨匠のご乱心だって、ボクはほとんどこの映画に対する予備知識を持たずに劇場へと足を運んだのですが、まさかチャン・イーモウがモンスター・パニック戦争アクションなんてジャンルを撮るとは夢にも思っていなかった!まさかまさかの怪獣映画だったのですよこれ!
人間の果てなき欲望への戒めとして、60年に一度現れてはすべてをむさぼり喰らおうとする伝説の怪物“饕餮(とうてつ)”。この饕餮の進撃を喰い止めるために造られた巨大な壁こそが万里の長城。つまりこの『グレートウォール』は人類VS怪物の最終決戦映画だったというわけ。
まさかこんな映画だとは思っていなかったボクは、『ワールド・ウォーZ』よろしく長城へと迫りくる饕餮の群れを観て、あまりのバカバカしさに歓喜で打ち震えましたよ。そして繰り広げられる人類VS饕餮の生き残りをかけた壮絶アクロバティックな死屍累々の一大決戦。
ブサイクな怪物に人間がむさぼり喰われるなんて『スターシップ・トゥルーパーズ』か!ヌンチャク太鼓隊で戦意高揚だなんて『マッドマックス 怒りのデス・ロード』か!やたらと音楽がアゲアゲだと思ってたら『パシフィック・リム』のラミン・ジャヴァディじゃねーか!
物語もドラマもほっぽり出して、謎の怪物との血みどろ決戦をひたすら熱く、カッコよく、バカバカしく、最高に描くなんてこれは『バトルシップ』か!チャン・イーモウにピーター・バーグが憑依しやがったのか?なんかよくわからんがようこそ!こっち側の世界へ!
アートな巨匠の底力
アートな巨匠がいきなり我らボンクラワールドへと電撃移籍を果たしたこの『グレートウォール』。物語やドラマはツッコミどころ満載のスッカスカですが、やるべきこと、魅せるべきところは巨匠の嗅覚できっちりとご理解なさっておられる。要はカッコよければすべて正義。
とりわけ目を引くのは、黄、赤、紫、灰、青に色分けされた禁軍の色鮮やかな甲冑。この色彩センスと美しさはチャン・イーモウならではで、こだわりのプロダクション・デザインにはジョン・ウーの『レッドクリフ』などとは比較にならない美意識が感じられます。
弔いの紙灯籠、華美に彩られた宮廷内、ステンドグラスなどでもその美意識は炸裂していましたし、群れとしての軍隊、集団戦闘シーンの描き方にもスケール感、動き、流れが活き活きと映し出されておりました。群としての人間を描けない監督って意外といますからね。
そんなアートな巨匠としての底力をしっかりと刻み込みながら、その芸術性が芸術的であればあるほどアホ臭くて笑えてくるという、世界三大映画祭の常連である巨匠が撮ったまさかまさかのモンスター・パニック・バトル映画。もういろんな意味で必見です!
ボンクラはとりあえず観とけ!
あまりに膨大なツッコミどころをチクチクするのは無意味なので棚の上に祀っておくとして、残念だったのはなんで出演しているのかわからないウィレム・デフォーと、『グレートウォール』と銘打っているのに最終決戦が長城ではなかったことかな。
まあほぼ自殺行為とも言える首都への気球移動作戦がバカバカしくて大好きだから、業火に焼かれて地上へと落下していく無数の犬死にに免じてこれは許してあげましょう。しっかしみんな死亡フラグ立てまくりでサクサク死んでいく光景はある意味眼福ですわな。
『キングコング:髑髏島の巨神』では終始なんにもしなかったジン・ティエン演じるリン隊長が、自身が率いる“鶴軍”の女戦士たちとともに長城から決死のバンジージャンプ攻撃をする姿なんて、「誰かちょっとやめさせなさいよ」ってぐらいの無謀な面白さ。
半分ぐらいはガブガブされちゃう見事なまでの片道切符。ああ~ホントなんか眼福だわ。無駄に美しい映像がさらにバカバカしさをあおっていてボンクラにはたまりません。サクサク死んでいく人間、暴れ回る怪物、大仰なギミックの数々、美しい映像、バカにはたまりません。
私欲のためだけに戦ってきた男が大義を知る、というもっともらしいテーマもあるにはありますが、これとて余計な代物でありどうせならなくてもよかった。中国で大義を知るなんて言われても説得力ありませんしね。中国資本に買収されたレジェンダリーだから仕方ないか。
『キングコング:髑髏島の巨神』に続いてジン・ティエンがゴリ押しされているのもそのせいでしょう。なんかそういうゴリ押し中国マネーを敏感に感じ取ったがゆえの北米興行成績大惨敗だったのではないでしょうか。その影響はここ日本でも大きいと思われます。
でもね、あの『バトルシップ』だってアメリカでは大コケしたのですよ。そんな『バトルシップ』と、『ワールド・ウォーZ』と、『スターシップ・トゥルーパーズ』とどこか似たような香りをフガフガさせている底抜けボンクラ超大作『グレートウォール』。
ボンクラを自認している人には文句なしにおすすめできる大バカ映画ですので、とりあえず観とかないと損ですよ!あの巨匠がこんなバカやってる!ってゲラゲラ笑えますから!
個人的評価:6/10点
THE GREAT WALL[グレートウォール] Commander Lin Mae [リン・メイ司令官] 1/6スケール ABS&PVC&POM製 塗装済み可動フィギュア