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番外322 境界都市の首脳会談
そうして転移港に各国から王達が集まってくる。エベルバート王、ファリード王、エルドレーネ女王とオーレリア女王だ。
アドリアーナ姫やシャルロッテ、七家の長老……そしてエルハーム姫、ロヴィーサ、エスティータ達と……各国から来ている面々も揃い踏みである
「おお、テオドール……! 奥方達も息災そうで何よりであるな」
「ご無沙汰しております、陛下」
エベルバート王と顔を合わせると抱擁されてしまった。肩をぽんぽんと軽く叩かれ、満足げに笑う。
「うむ。前よりも背が伸びておるようだな」
と、エベルバート王が笑う。
何というか、七家とシルヴァトリア王家も親戚関係なので、エベルバート王にしてみると俺も親戚の子供という位置付けなのだろう。
「通信機の連絡を見るのが最近は楽しみでな。相変わらずの活躍のようで何よりだ」
ファリード王がそう言って笑う。
「ファリード陛下もお元気そうで」
「ああ。問題も諸々片付いて国内情勢が上向いているからな。あの土地の者達の助力も大きい」
なるほど。バハルザードは今まで大変だったからな。具体的な名前は出さなかったが、あの土地――つまりハルバロニスについても、バハルザードに欠かせない力になっているようで何よりである。
「父上、お久しぶりです」
「うむ。エルハームも元気そうだな」
それから、ファリード王はエルハーム姫と再会の挨拶をしたり、レアンドル王からイグナード王を、イグナード王からはイングウェイやレイメイを引き合わせてもらって談笑していた。中々話題が合いそうな顔触れであるが。
「ふうむ。賑やかで結構なことだな」
「地上は明るくて良いですね。再会を楽しみにしていたのよ」
転移港にエルドレーネ女王と、オーレリア女王も、にこにことしながら再会の挨拶をしてくる。
「お久しぶりです、お二方とも」
と、こちらも挨拶を返す。転移港には東国の面々も来ているので、初対面の面々を紹介する流れとなった。
エルドレーネ女王と御前は――水の気質を持っている事をお互い感じ取れるのか、すぐに打ち解けている様子だ。性格的にも通じる部分があるのかも知れない。その繋がりでオーレリア女王とユラ、アカネやオリエも挨拶を交わしていた。
そうして初対面の顔ぶれの自己紹介が終わったところで転移港の迎賓館に場所を移して本題となる。ホウ国の同盟への加入や歓迎という予定での集まりであったが、それに加えてベシュメルクに関する懸念を各国で共有しておこうというわけだ。
「今回も気軽な集まりとできれば良かったのだがな」
「いや、元々同盟の目的としては、問題が起これば話し合い、国家間の平和を持続的なものとしていくためでもある」
メルヴィン王の言葉にエベルバート王が答える。
「そうだな。交流して絆を深めるというのも有意義ではあるが、本来危惧していたことへの集まりとなれば、こうして顔を合わせて話をすることは重要なことだ。そこに否やがあろうはずもない」
と、ファリード王。ファリード王は質実剛健というか、問題が起これば即解決に向かって自分で動く、という気質だからな。そんなファリード王の言葉にみんなも同意する。
各国の王が一堂に会して緊張している様子のエレナであったが、エルドレーネ女王は柔らかい笑みを向ける。
「そう固くなる必要はない。妾達とてテオドールと共に戦った身。そなたを責める者など、ここにはおらぬよ」
「そうです。打ち明けるにしてもそれほどの大きな事件です。怖かったでしょうに、よく勇気を持って告白してくれました。月の女王の名にかけて、貴女の味方であると伝えておきましょう」
オーレリア女王が静かに微笑む。
「――ありがとう、ございます」
そんな女王達の言葉にエレナが少し感極まったような表情をする。
「そうですね――」
そんな言葉が会議室の一角に響いて、みんなの視線が集まった。その場にティエーラが顕現してくる。
高位精霊の面々にもエレナは既に紹介済みだ。やはり恐縮していたが、先程のエルドレーネ女王達のように自分達の味方だと迎え入れてもらっている。
「精霊達としてもエレナとは良い友人でいられると思っていると伝えに参りました。そもそも……私が力を御しきれていれば、あのような事も、起こりませんでした」
精霊の代表として見解を王達に伝えに来てくれたというわけだ。ティエーラが真剣な表情で言う。
「悲劇はありましたが……それでも今日、僕達がここに集まったのも、これまでの積み重ねが、歴史があったからです。何かが違っていればこの日、この時のような状況もなかったでしょう」
俺の言葉にみんなの視線が集まる。ティエーラを見て言う。
「だから……誰もティエーラを責められるはずもない。人から裏切られて、それでも尚、俺達がこの星の上に生きる事を受け入れてくれた。許してもらったのは、俺達の方だ」
ティエーラにしてみれば、自分に危害を加える種を許容する理由はない。だけれど、その慈愛の性質故に、自分を二つに切り離してでも力を抑え込み――そう。それは矛を収めてくれたに等しい。だから、この星に生きて恩恵に与っている者達は、誰もそれを責める謂れはないだろう。
ティエーラは静かに俺に顔を向ける。傍らに浮かぶコルティエーラも静かに、ぼんやりと光っているばかりだ。ティエーラは何も言わないけれど、親愛を示すような、暖かな感覚の魔力が仄かに伝わってくる。
少しの間を置いて、メルヴィン王が言葉を続ける。
「余も……テオドールの考えに同意する。ベシュメルクの民もまた、咎はあるまい。……しかし、過去の出来事を知り得る立場にあり、その知識と遺産……そして悔恨の記憶に触れても尚、それを悪用しようという者がいるとすれば、その者は邪悪と誹りを受けても致し方ない」
メルヴィン王の言葉に、一同頷いた。ベシュメルク王の事を指しての言葉だな。
というわけで、各国の王達ともエレナに関しては味方、ベシュメルク王は打倒すべき相手ということで共通認識が作れたと見て良さそうだ。
「ふむ。後は具体的にどうするかであろうな。最終的な落としどころを見極め、作戦を練る必要がある」
と、エルドレーネ女王が腕組みしながら言う。
「最低限……は決まっています。魔界の悪用が不可能なように、門の管理を人ではなく不変の精霊に委ねるというのが良いでしょう。それ以上の事は向こうの出方次第……かしら」
オーレリア女王の言葉に、みんなの視線がティエーラとコルティエーラに集まる。ティエーラは承った、というように、静かに頷いた。それを目標にみんなで作戦を練っていくというわけだ。
「対策という話なら……とりあえずは判明している敵の手札や目的から、予想される術式に対抗術式を組みあげ、魔道具化するなどして事前に致命的な懸念を潰しておこうかと」
オリハルコンに事前に施す契約魔法で呪法による変質を防ぐとか、高位精霊への干渉を弾くとか。
「しれっと言っておるが……いやはや凄まじい話じゃな。誇張ではないというのがまた」
ゲンライが俺の言葉に苦笑する。
「実際にそれらしき術式を目にする機会が何度かありましたからね。エレナさんもベシュメルク式の呪法を習得しておられるので、それも参考にさせてもらおうかと」
迷宮核のウイルスもそうだし、ドラフデニアの黒い悪霊もベシュメルクの流れを汲む、と仮定して、というわけだ。術系統の基本から根幹が分かればそこから専用の対抗術式を組むのは何とかなるだろう。
「魔道具に落とし込む方はいつも通りに、かな」
と、アルフレッドがにっこりと笑う。そうだな。
こちらに向かって手を上げるアルフレッドにハイタッチを合わせるとやや緊迫していた空気も和み、居並ぶ面々から笑いが漏れていた。
「ふむ。それらの対策を進める間に、過去と現在の情報収集をしていく必要がありそうですね」
顎のあたりに手をやってオーレリア女王が言う。通信機での連絡によると過去の記録については、もう月でも調べ始めてくれているらしい。
イシュトルムの動乱などによって失われた資料もあるそうだが、それでも魔力嵐の被害が出た地上よりは期待できそうな部分がある。
というわけでベシュメルク対策についてはこれから詰めていくということで……元々の集まる理由であった、ホウ国の同盟加入についての話にシフトする。
シュンカイ帝達を歓迎し、エレナも交えて信頼関係を深めるというという方針に変更はない。ベシュメルクという問題はあれど、気持ちを切り替えて歓待させてもらうとしよう。
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