第1週から最終週(第26週)までの台本を、本棚に並べてみました。その景色を見て、やりきったなぁ、と感じました。
改めて見ると、週が進むにつれて、台本がボロボロだったんです。いちばん背表紙がくたびれていたのは、第25週でした。読めない文字や折り目もたくさんあって、お風呂で覚えたからかパリッパリになったページがあったり。この週は、キアリスの世代交代に向けてちゃんと渡せる人間でありたいと思ったし、紀夫さんとの時間を丁寧に見せたかったんです。
すみれの「しんが強くて意地っ張りなところ」は、私と一緒。だけど年齢が上がるにつれて、どんどん先に走っていくようで、分からなくなることも正直ありました。
思春期のさくらと向き合う時間は、特に苦しかったです。
「芳根京子」と「すみれ」の境目がどこにあったのか、実は分かりません。だけど、撮影を終えてスタジオを出て、衣装を脱いで、帰りのエレベーターを待っている時に、どっと体が重くなりました。その時、“あ、オフになったな”って。だけど、オンになる瞬間はよく分からなくて、いつの間にかすみれになっていました。
この約10か月、本名よりもたくさん名前を呼ばれた「坂東すみれ」の人生を、毎日歩んできたんだなぁと思います。
最終週(第26週)で、すみれは59歳になりました。お仕事を離れて、おうちで紀夫さんと過ごす一週間が、もう楽しくって。演出の方からも「イキイキしてるね」って言われました(笑)。
50代のすみれは、メガネをかけたり、白髪が交じって、話し方もゆったり。孫の藍ちゃんがかわいくて、優しさのかたまりみたいなおばあちゃんになりたいと思いました。いつもニコニコと話を聞いていたいなって。
30代、40代を演じる前はあんなに緊張していたのに、50代をこんなに楽しめたのは、年を重ねた紀夫さんとすみれが大好きだからだと思うんです。
気づけば、紀夫さんと結婚して41年。永山さんとは「結婚指輪をつけたいね」って話をしたんです。演出の方に相談したら、「じゃあ結婚40年記念に贈られたことにしようか」って。
これも役を生きてきたから出てきたことだし、晩年はお互いがすごく自由になりました。本番に生まれるアドリブも心地よくて、特に紀夫さんが喜ぶお弁当のくだりが好きですね(笑)。お芝居でありながら、心の底から笑う瞬間もあって、すてきな時間だったなと思います。
そして、キアリスのみんなとは、最後までチクチクとお裁縫。「一生の友達でいてくれてありがとう」というはなさんの言葉、本当にそう思いました。みんな年を取ったけれど、いつまでたっても手芸倶楽部で、青春が戻るというか。最高の仲間と出会えるって幸せだなぁと思います。
永山さんに、「すみれがいなかったら、紀夫ってダメな人間だよね」って言われたんです。でも逆にすみれもそうだと思うし、お互いにそう思える夫婦っていいなと思います。
そう思わせてくれたのは、永山さんのおかげです。いちばん多くの時間を過ごさせてもらって、現場にいるだけでその世界に引っ張ってくれました。
第7週の復員のシーンで見えないのにふんどしを締めて復員兵の気持ちに近づこうとしていたとか、最終週(第26週)で生え際の髪を抜いて老けさせたとか、そういうことは私に一切おっしゃらないんですけど、現場でのたたずまいがいつも私を支えてくれました。永山さんが紀夫さんでいてくれて、本当によかったと思います。
おじいちゃんになった紀夫さんが、かわいらしくて、いとおしくて。家族を思ってくれる気持ちに、本当に幸せを感じました。たくさん愛情をいただきました。