外交とはゲームだ。ゲームには戦略がある。強攻は、相手の恐怖心を刺激し、譲歩を誘う戦略だ。空母機動部隊の配置や北爆説も、これに当たるのだろう。少し前に米国は、シリアを実際に爆撃した。「妥協、さもなくば爆撃」という明確なシグナルを北朝鮮に送りたかったのだろう。10年前にイスラエルがイラン爆撃の意思を示すためにたたいた場所も、シリアだった。その時は、世間が信じた。しかし今は確信が持てない。北爆説が出たら北朝鮮よりも大きな恐怖を感じて動揺し、反対するのは韓国だからだ。敵国を脅したのに同盟国の方が先に震えだしてしまったら、どんな強攻も通用しない。
今から24年前、西海(黄海)のある島を取材した。米国の北爆説が広がり、ソウルで買いだめ騒ぎが起きていたころだった。その島は、戦争が起こったら孤立が避けられない。避難先がない島だった。駐屯する軍人はもちろん住民も、爆撃を避けるのは難しい。島で暮らす以上、覚悟はしているようだった。会った人はいずれも淡々としていた。島の住民の話を記事にして送稿したが、掲載はされなかった。カーター元大統領が北朝鮮に行って、突然雰囲気が変わったからだ。長きにわたった北朝鮮との妥協は、結局のところ失敗だった。あの時、ソウルが西海の島のようにたくましかったら、結果は違っていただろうか。少なくとも、今のようなありさまにはなっていなかったと思う。