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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 その部屋にいる子供たちは寒さで震え、汚れた顔には幾筋もの涙の痕がついていた。シリア内戦で廃虚となったアレッポ。砲弾が落ちる音が響き、電気もガスも水道も止まった部屋で母親はこうつぶやく

▼「夜に子供たちが目を覚ますと、一杯の水を欲しがります。でも子供たちにはあげられません」「子供が夜に目を覚ましてトイレに行きたがっても、行かれません。子供が夜に目を覚まして、爆弾の音を止めてと頼んできても、それもできません」

▼米国生まれのジャーナリスト、ジャニーン・ディ・ジョヴァンニさんによる迫真のルポ『シリアからの叫び』(亜紀書房)が描き出す内戦の日常だ

▼そんな恐怖の夜が明ける日は来るのか。シリア北西部のイドリブ県の人々が、化学兵器を使ったとみられる空爆に襲われたのは、火曜日の夜明けごろのことだったという

▼死者は八十人余とも百人以上ともされる。犠牲者の中には、二十人もの子供が含まれるとの情報もある。呼吸困難などに苦しむ人たちが運び込まれた病院が数時間後に空爆されたという、耳を疑うような報道もある

▼英国の作家H・G・ウェルズの近未来小説『来るべき世界』に、こういう一節がある。<私たちが戦争を終わらせねば、戦争が私たちを終わらせることになる>。シリアでは、この言葉の不気味な響きが、爆撃の音とともに高まっているのだ。

 

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