それにしても『ゲーム脳の恐怖』は本当に怖い本である。何しろ、テレビゲームに没頭していると脳波の出方が変わってきて、やがて痴呆症状の脳波と同じようになってしまうというのだから。ちょっとだけその変化の内容を紹介すると……。
脳波ではα(アルファ)波、β(ベータ)波、θ(シータ)波やδ(デルタ)波などが知られるが、森さんは脳の活動レベルを示すβ波に着目。
テレビゲームを始めると、被験者のかなりの割合ですぐにβ波が激減することを発見した。普通はゲームをやめれば元に戻るが、1日に何時間も毎日ゲームをやり続けてきたような人だと、ゲーム中もゲーム後もβ波がほとんど出ていない人もいた。
このほとんどβ波がα波よりも出にくいか、あるいは出ていない人の脳を、森さんは「ゲーム脳」と名づける。
また、α波とβ波が重なってしまうゲーム脳の初期段階を「半ゲーム脳」と位置づける。そしてこの脳波の形状は痴呆症の患者さんも同じだった。
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編集部:
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「ゲーム脳」という考え方は、森さん自身のゲーム体験から生まれてきたのですか?
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森 :
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いや、私はテレビゲームはほとんどやったことはありませんでした。今でも実験のために少しやってみるぐらいです。
発見のきっかけは高齢者の脳機能を調べようと、新しい脳波計を開発したことでした。「痴呆レベル」を定量化(数値などはっきり目に見える形で示すこと)したかったのですが、ファンクショナルMRI※とか光センサなどのハイテクを使ってもなかなか実現できない。
そこで脳波でできないかと、α波と、従来ほとんど研究されていなかったβ波を組み合わせて使うことを考え、そのための脳波計を作ったのです。
すると、痴呆症の患者さんでは、その脳波計で得られたβ波の割合が減少していた。健常者(痴呆症状のない人)の場合、圧倒的にβ波の割合が多いのですが、痴呆症の患者さんははっきりとβ波の出方が少なくなっていたのです。その結果、研究的には、「β波の割合」「α波の割合」を計算し、その数値が2.5以下だったら痴呆症状がかなり進んでいるということなどがわかりました。
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