波か、粒子か? その運命は,時をさかのぼって決まるのか──。
量子力学の世界は遠く離れた粒子がテレパシーで連絡し合ったり,未来に起こる出来事が遡って過去に影響しているかのように見える奇妙な現象にあふれている。それは宇宙の始まりや巨大加速器の中といった遠い世界の出来事ではなく,ごく普通の実験室で,机の上に組み立てた装置で見ることができる。
理科の授業で,2つのスリットを通った光が干渉縞を作る実験をした人もいるだろう。あの実験が、基礎研究の進展と実験技術の向上によって、様々に進化した。そうしたダブルスリット実験の進化型によれば、光子はいったん測定されても、その測定の記憶が消されれば、いつでも干渉縞を回復する。その様子はまるで、未来の測定が過去に影響するように見える。
光子の運命はいつ決まるのか。そして因果律は破れるのか。ダブルスリット実験の新たなヴァリエーションが、現代物理学の深淵を照らし出す。
*この実験を新たな角度から考える姉妹編 谷村省吾「不確定性原理で『光子の逆説』は解けるか」
2012年4月号(2012年2月25日発売)に掲載決定
著者
谷村省吾(たにむら・しょうご)
名古屋大学大学院情報科学研究科教授。子どものころは漫画家志望だったが,小学6年生のときに相対論を知って感動し,科学者志望に転じた。専門は理論物理,特に量子論。猫の宙返りをゲージ理論を使って分析したり,その結果を量子コンピューターの最適制御に応用したり,量子力学と古典力学を対決させる新しい実験方法を考えたり「風変わりな研究ばかりしている」(本人談)が,「物理の本質的な課題に取り組んでいるつもり」(同)。
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