総合電機メーカーの富士通は、日本で10年ぶりの敵対的買収合戦となった騒動でマイナーな乗っ取り屋と対立した後、会社の考えを投資家に説明することを余儀なくされている。
クラウドコンピューティングで世界的な有力企業になることを目指す富士通は、対抗提案が相次いだことで、小さな標的企業に160%のプレミアムが上乗せされた買収合戦に巻き込まれている。買収標的は、ジャスダックに上場している赤字の半導体商社ソレキアだ。
安倍晋三首相の下で4年間、投資家のための改革が進められたにもかかわらず、今回の争いによって、いまだに戦略的な論理や株主の利益よりも歴史的になれ合いの企業間関係を重視する日本の大企業の統治文化が露呈したとアナリストらは話している。
現状維持と経営陣の慢心に対する予想外の挑戦は、ログハウスを設計するフリージア・マクロスの会長、佐々木ベジ氏(61)から出てきた。実業家としての同氏の実績には、数々の不良資産買収、個人的に出願した特許・実用新案の莫大なコレクション、最近立ち上げた着物ファッションブランドなどがある。
企業を刺激して株主還元を改善させることを狙ったコーポレート・ガバナンスコード(企業統治指針)の導入から2年たった今も、経営陣はなお、最低のバリュエーション(価値評価)で会社を経営してもとがめられずに済んでいると佐々木氏は言う。
同氏が2月初旬に買収提案に動く前、ソレキア株は会社が保有する自社株(金庫株)調整後の株式時価総額がわずか16億8000万円程度の水準で売買されていた。これはソレキアの純資産の3分の1足らず、34億1000万円ある手元現金の半分に満たない。
ソレキアだけではない。2013年以降続く市場の高騰にもかかわらず、東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄の約45%で株式時価総額は純資産を下回っており、何十社もネットキャッシュ(手元流動性から有利子負債を引いた正味の手元資金)を下回る水準で売買されている。これに対し、米S&P1500種株価指数で純資産を下回って売買されている企業は約5.9%、英FTSE全株指数では15.2%だ。
「いつか、日本の資本市場を変える必要がある」。次の一手を検討し、自分が正しい戦いを仕掛けたことを投資家に納得させたいと思っている佐々木氏は、本紙フィナンシャル・タイムズにこう語った。
「もし私が勝てば、日本の資本市場が変わり、新しい時代を切り開くかもしれない。これは(1868年の)明治維新以来、誰にもできなかったことだ。もしかしたらできないかもしれないが、いずれ誰かが変化をもたらさなければならない」
佐々木氏は1980年代の日本の悪名高いバブル時代の終盤にかけて、米国の化粧品大手エイボン・プロダクツの日本子会社に対し、結局失敗に終わる4億5000万ドルの買収を仕掛けたことで一躍有名になった。そんな彼は今、ソレキアの経営刷新を目指している。
「会社の自己資本利益率(ROE)が15年間も0.5%の状態が続いていても、経営陣は黙り込んでいた。ソレキアを今のまま放っておけば、会社はだめになるだろう」と同氏は言う。
昨年3月末時点でマイナス3.6%だったROEの向上を求める佐々木氏の要求に対し、ソレキアは、短期的な利益の追求は長期的な顧客関係を損なう恐れがあると述べた。
ソレキアの取締役会は株主に、佐々木氏からの買収提案に反対するよう推奨している。同社は、会社の事業を理解していないように見えることから、佐々木氏は「適切なビジネスパートナー」ではないと考えている。ソレキアとの対立のさなか、一風変わった装いの佐々木氏――同氏は1990年代後半に自己破産している――は、「バンクーバー・ファッションウィーク」に参加し、自身の洋服ブランド「WASSO VEGE‘S」を舞台で披露する時間を見つけた。
富士通は60年以上にわたり、ソレキアと緊密に協力してきた。ソレキア取締役会には元富士通幹部を4人送り込んでおり、ソレキアは富士通の「デジタル移行」にとって欠かせないと述べている。
一方、アナリストと投資家は、富士通の対抗提案の経済的、戦略的根拠を「最小限」と評し、富士通自身の株主に対する配慮の小ささを露呈する、メンツを守る行為の一環だとみている。今でこそ佐々木氏からの買収提案の阻止を重視しているものの、富士通はソレキア株を2.7%しか保有しておらず、ソレキアを買収から守らねばならない可能性を検討したことは一度もなかったと認めている。
ソレキア以外に上場企業4社の株式を保有する佐々木氏にとって、この力学は日本株式会社の問題すべてを象徴する。
「人々は、長い伝統を持つ日本の大企業がやることは何でも正しいと考える傾向がある。そして日本の少数株主は、部外者が突然入ってきて、力づくで統治するとしたら、それは悪いことだと考える」(佐々木氏)
同氏がソレキアに対する初のTOB宣言をしたとき、ソレキア株は1942円で取引されていた。一方的な買収提案は、ソレキアの企業価値を約30億円と評価し、TOB(株式公開買い付け)価格を1株2800円としていた。4月5日までには、佐々木氏と富士通の双方が2度ずつ買い付け価格を引き上げており、株主は1株5000円での買い取りを提示されていた。10日時点で株価が5100円だったことから、市場は佐々木氏が再度、TOB価格を引き上げるとみている。
「富士通にとって問題は、買収合戦から降りたとみられる余裕があるかどうかだ」。日本に特化した専門調査会社を経営するペラム・スミザーズ氏はこう話す。「もし買収価格の引き上げがここで止まれば、富士通の経営陣は恐らく、弾丸をかわせたと考えるだろう。だが、もし止まらなければ、この先、試練に見舞われる可能性がある」
By Leo Lewis and Kana Inagaki in Tokyo
(2017年4月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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