13日の東京外国為替市場で円相場は一時、約5カ月ぶりの円高・ドル安水準となる1ドル=108円台後半に上昇した。トランプ米大統領が米紙のインタビューでドル高をけん制し、通貨安誘導への警戒感が強まった。円高による企業収益の悪化懸念から日経平均株価は続落し、下げ幅は一時240円を超えた。
【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領は12日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)のインタビューで「ドルは強くなりすぎている。最終的には害をもたらす」と述べ、改めてドル高相場をけん制した。利上げを加速する米連邦準備理事会(FRB)には「低金利政策が好きだ」と異例の注文を付け、通貨高と金利上昇に相次ぎ警戒感を示した。
トランプ氏は1月の大統領就任前後にも「われわれの通貨は強すぎる」とドル高をけん制したことがあった。通貨高はトランプ氏の目指す輸出拡大の逆風となる。2月中旬にムニューシン財務長官が就任すると、トランプ氏は通貨高へのけん制を控えていたが、再び口先介入に動き出した。
トランプ氏は12日に「ドル高はとても良い面がいくつかあるが、最終的には害をもたらす」と主張。「ドルが強すぎて、他国が通貨安誘導をしていれば(米企業は)競争するのが極めて難しくなる」と述べた。
FRBの金融政策にも言及し「私は低金利政策がとても好きだ。正直にならなくてはならない」と言明した。政治からの独立が重要視される金融政策に、米大統領が注文を付けるのは極めて異例だ。FRBは利上げペースを加速しており、金利上昇がドル相場の押し上げ要因となってきた。
一方でイエレンFRB議長については「尊敬している」と述べ、来年2月の任期切れ後の続投を否定しなかった。トランプ氏は選挙戦中に「イエレン氏はおそらく再任しない」としていた。FRBは利上げペースを加速しているが、イエレン氏は引き締めに慎重な「ハト派」として知られる。
中国を「為替操作国」に指定して報復措置を科すとしてきた選挙公約は事実上撤回した。トランプ氏は「中国は何カ月も為替操作をしていない」と述べ、月内に米財務省が公表する「半期為替報告書」で操作国との認定を見送る考えを示した。為替問題で中国との摩擦が強まれば、北朝鮮政策を巡る米中協力に影響するとの認識もみせた。
主要国通貨に対するドル指数は今年1月初頭に14年ぶりの高値をつけた。その後はトランプ政権への政策期待の低下などでやや下落していたが、引き続き十数年ぶりの高値圏で推移している。
日米両政府は18日、都内で麻生太郎副総理・財務相とペンス米副大統領による初の経済対話を開く。経済対話では「為替問題は協議の枠外だ」(日本の財務省幹部)としているが、トランプ氏のドル安志向は鮮明だ。米国は貿易赤字の削減策を日本に求めており、円ドル相場にどこまで言及するかも焦点となる。
◇
13日の東京外国為替市場では、トランプ米大統領の発言が口先介入と受け止められ、円買い・ドル売りの流れに勢いがついた。円相場は先週末から2円強上昇。シリアや北朝鮮問題などの地政学リスクの台頭で投資家心理が悪化し、円高・ドル安に傾いていた。これにトランプ氏のドル高けん制発言が拍車をかけた。
日銀が3日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の2017年度の想定為替レートは108円43銭だった。円高・ドル安の流れが加速すれば、輸出企業の収益の重荷となる。
15日の北朝鮮での故金日成主席の生誕105周年や、18日の日米経済対話を控え、イベントリスクが意識されていることも、円高に歯止めがかかりにくい要因だ。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司氏は「105円まで円高が進むリスクがある」とみている。
国内債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時0.005%と、約5カ月ぶりの水準まで低下(価格は上昇)した。投資家のリスク回避姿勢が強まり、「安全資産」とされる国債への買いが強まった。