新時代に入った日本

言葉だけでなく現実に中国に輸出石炭を突き返されてしまった金正恩は茫然としただろうが、ひさしぶりに良いニュースだった。
中国が金正恩政権の自壊を許容してもよいと考えるようになった、というサインだからで、金漢率を考えているのかどうなのか、「金正恩後」の北朝鮮の可能性を考える決心をしたのでしょう。
中国にとっては、アメリカ主導の統一朝鮮につながりかねない、外交上のおおきな危機をまねく可能性があって、悪くすれば習近平の失脚につながりかねない決意になってしまうが、中国が北朝鮮暴発の現実の危機に対して、実効性のある方途を取りだしたのは、やはり良いことであると思います。
アジアになど大した興味を持っていないトランプと実際にあってみて、習近平は、では東アジアの勢力地図を書き直すチャンスかもしれない、と考えたのかもしれません。

それでも日本周辺の東アジアが紛争地域として固定されてしまったという認識がどうして出来上がったか、そのうちに気が向いたら書こうと思っていますが、
その前に、いまの時点で、日本の人たちが知っていたほうがよさそうなことを書いておこうと思います。

言葉をちゃんとつくるのがめんどくさいので「戦域」という造語にしてしまったが、判りにくかったかもしれない。
つまりは「戦争状態に入った地域」で、それなら「戦場」といえばいいんじゃないの?と言われそうだが、戦場というとベトナム戦争くらいまでの、ひっきりなしに弾が飛び交う地域が思い浮かばれて、こちらが言いたいと思っていることは、「常に戦争の危険にさらされている地域」という意味で、日本から最も近い場所でいうと1960年くらいまでの朝鮮半島は、これに当たる。

あとで考えてみると「紛争地域」という日本語があって、それでよかったような気がするが、日本は、ガキわしの頃に住んでいた時期を別にしても、言語と文化が好きで11回も訪問した国で、しかもそのうちの数回は数ヶ月に及ぶ長期の滞在で、
ニュージーランドを第二の故郷だとすれば、もしかしたら第三くらいに思っているかも知れない国なので、「紛争地域」というボスニア・ヘルツェゴビナのような凄惨で激しい戦闘が頻発した地域に使われた言葉は、禍々しくて、使いたくなかったのかもしれません。

安倍政権を批判されたと感じると過敏に反応して悪罵を投げつけてくる人が桁違いに増えるので、そっちはどうでもいいや、お任せしますということにしたいが、現今の、北朝鮮を巡る緊張は、世界中が認めているように、もともと「力の外交」をやりたかった安倍政権の大願の成就なので、常時、戦時の緊張を社会に与えることによって、だらしがない若い世代の背筋を伸ばす、という安倍政権の政治テーマの一環でもあるので、たまたまということではなくて、論理的な帰結で、ふにゃふにゃで、一向に他の国に感謝もされない平和憲法下の「かっこわるい」日本から脱したいと願った、国民と政権が望んだ外交局面になった、というだけのことにしかすぎない。

いわば日本が求めた外交状況を、なにによらず、考えるという習慣をもたない軽はずみなトランプが、あっというまに現実化してしまったわけで、いざほんとうに現実になってみると、核ミサイルが飛んで来そうであったり、あちこちに出兵を迫られそうであったりして、これはこれで大変だとおもうが、考えてみれば、例えばオーストラリアもずっとそうやって出兵したりして国を運営してきたわけで、日本人が望んだとおりの「普通の国」になったというだけのことでしょう。

いまは明日にでもミサイルが飛んで来そうなことを恐れているが、歴史を振り返ると、人間は案外「戦争が始まりそうで始まらないストレス」のほうを強く感じるもので、日本の近しい歴史でいえば、屑鉄を売ってもらえなくなり、戦争になんかなるわけねーや、とタカをくくって、ヒットラーの戦果のおこぼれに預からないのはマヌケであるとばかり、インドシナをフランスから盗んでみれば、「そんなことやるわけない」と「ダイジョブか?」危惧するひとびとを鼻で嗤っていたのに、あっというまに石油の輸出が禁止されて、資産凍結までされて、いらいらがつのっていた日本人は、真珠湾奇襲の一報を聞いて、文字通り躍り上がって喜んだ。
日本の歴史を通じて欣喜雀躍という言葉が最もぴったりくるのは、日露戦争に勝ったときよりも、このときでした。
右翼だけが喜んだわけではなくて、左翼も、リベラルも、軍人も民間人も、ありとあらゆる政治傾向の、ありとあらゆる階層の人が均しく歓喜して、ただひとり政治人では昭和天皇が憮然とした顔で、皇居の椅子に座っていて、ほかは、ひねくれ者文学人の、永井荷風や金子光晴が、前者はニューヨークとパリ、後者はフランスを漂白した経験から、こんな戦争に勝てるものかと考えて「日本人って、やっぱりアホだな」と低く内心につぶやいただけだった。

もっとも、公正を期していうと、「戦争状態に入っているのに戦争が始まらない」ストレスのおおきさは、欧州のPhony Warの歴史を眺めればすぐに判ることで、人間性の、どういう機微によるのか、どんな文明のどんな民族も「こんなにどっちつかずのイライラを募らせるくらいなら、いっそパアーと砲火をひらいてくれ」と願うもののようで、いくつかの戦争は現実に、人間の、この不思議な精神的傾向によって激しい戦火で国土を焼き尽くすことになった。

いまは相変わらず情報を遮断されてスケート選手の引退や、大手企業の決算を最重要時と考えることを強いられているひとびとを除いては、日本語で伝えられる政府の様子からすら明瞭にわかるようになった北朝鮮との緊張に、毎日、例えば北朝鮮の行事を数えて、15日の金日成誕生日か、いまかいまかと手に汗を握っているが、くたびれて、そのうちには考えるのをやめることになるに決まっている。

ひどいことをいうと、関心はあっても、要するに遠く離れた国のことなので、ちゃんと調べてはなくて、ほっぽらかしにしてあったが、調べてみると、「小型核弾頭」という、その核爆弾は、対日本攻撃用に開発中のものは、スカッドの改良型に搭載するためのもので、そうであれば、たかだか10キロトンで、被害は広島よりも小さく、もっと言えば長崎よりも小さいはずで、普通に生活を送れば「対処すればなんとかなる」範囲のものであるようです。
あんまり核爆弾の知識がない人のために述べると、といって、そんなヘンなものに知識があるほうが怪しい人であるような気がしなくもないが、広島の原爆はたしか15キロトンで、長崎はもうちょっとおおきいだかなんだか、そんなものであったはずで、長崎に落ちたプルトニウム239型の原爆のほうが破壊力が大きいのに被害が少なかったのは、平坦な地形と丘が入り組んだ地形では極端に効果が異なるair burst (中空爆発)型の爆弾/弾頭の特徴で、核爆弾が落っこちてくる個人の側にたっていえば「爆弾と自分のあいだに、でっかい遮蔽物があるかどうか」に自分の運命はかかっている。

広島の爆心地に近いところにいた人でも、ほとんど無傷で生き延びた例がたくさんあるのは、このためで、ビルの地下にいた人、たまたま自分が立っていた所と爆心のあいだに分厚い石の壁があったひと、つまりは丈夫で、でかくて重いものが自分と爆発のあいだにあった人で、逆に、肥田舜太郞医師は、6キロ以上離れた、しかも低い丘のつらなりの向こう側にある村の屋内にいてさえ、爆風で、家の屋外にまで吹き飛ばされている。

イラン・イラク戦争はミサイル戦という点では興味深い戦争で、イラクが500発、イランが177発、八年間にわたって双方が自力で改造したスカッドミサイルを撃ち合った。

北朝鮮はこの戦争に興味をもって膨大な戦訓を集めていますが、例えば、例をあげると、飛翔距離を伸ばすために弾頭の爆弾を小さくしてミサイルを発射すると、スカッド系のミサイルは、進行方向を軸に円を描きながら、しかし正確に目標に向かって飛んでいくことが判っている。

ここで面白いのは、といって、あんまり面白がってはいけないが、この軽い弾頭の小円を描きながら飛んでくるスカッドは、改良型のパトリオットでも全く撃ち落とすことができなかった。

ニュースで市ヶ谷におかれている発射装置の画像が流れているらしいパトリオットは、もともと中低空で侵入してくる敵機を撃墜するためのミサイルシステムを改良して対ミサイル防衛に使われるようになった地対空ミサイルで、もともとミサイルの筐体だけを破壊して弾頭は目標物の近傍に落ちて爆発してしまう点で、実は、東京の市民にとっては傍迷惑なだけで、たいした効果が見込めないのは前にも書いたが、この「頭が軽い」改良スカッドに至っては、まったく命中させられなかった。

北朝鮮と日本のあいだには、日本の人にとっては、ありがたいことに日本海が広がっていて、ここに遊弋するイージス艦の対ミサイル迎撃システムは優秀なので、日本にまで到達するのは難しいが、成層圏から落とす中距離ミサイルに較べて圧倒的に安価なので、案外と低弾道のくるくるミサイルも、ミサイル戦が長引けば試してみる可能性があるのかも知れません。

その場合は、多分、1キロトンにも満たない核弾頭であるはずで、しかもground burst(地表に激突して爆発)である可能性が高いので、なんというか、だらだらと続くミサイル戦の「日常の風景の一部」のようになるのかも知れません。
考えてみると、イラン・イラク戦争は通常弾頭による、この手のダラダラ戦争で、なぜそうなったかというと双方オカネがない国だったからで、北朝鮮がアメリカによる空爆を避けてゲリラ的にミサイルを発射できる移動式ミサイル発射台を多数抱えていることも考えると、案外と現実性のある未来なのかも知れない。

このチョー弱小なブログも含めて、日本に関心を持つ世界じゅうのひとたちが、「なぜ日本人は、せっかく平和を享受して、この先の未来も戦争を避けうる幸運なポジションを占めているのに、わざわざ戦争に巻き込まれる国にしたいのか?」と疑問を述べるようになってから、もう何年も経っている。

怪訝な顔の世界の国ぐにを精力的に安倍首相が駆けずり回って、オカネをばらまきまでして説得して、憲法がすでに国民の合意によって改憲されたという真実とは異なる虚像をつくりだしてまで、全力でめざしたゴールに、やっとたどりついた。

同じロイター社のニュース記事を並べると、日本語版は

http://jp.reuters.com/article/sdf-korea-us-air-career-idJPKBN17D1VX

英語では、

http://www.reuters.com/article/us-northkorea-nuclear-japan-idUSKBN17E05Z

で、常にほんのちょっとしたニュアンスの置き換えでいわば「編集・検閲」作業ができてしまう日本語の本質的な特徴が、日本人の鈍感と呼んで笑うにはあまりに深刻な危機音痴の原因のひとつであることがよく判る。
ウソでも誤訳でもないのに、まるで、まったく違う様相がふたつの記事では語られている。

実態は、勇ましいことが好きな稲田防衛大臣の防衛省が、トランプの「力の外交」に日本も是非参加させてくれと要望しているらしくて、返ってアメリカのほうが、「いくらなんでも、それでは北朝鮮を刺激しすぎだろう」と困惑しているのだそうだが、海軍による示威・恫喝外交は戦前の日本の外交の伝統でも、傍からは、もう少し自国の国民の安全に気をつかったほうがいいんじゃないかなあー、と思わなくもない。

ナチのV2時代の、ひとびとの生活を見ても、ミサイル戦は生活の一部になりうることがよく判ります。
多分、核弾頭の小型化を完成していない北朝鮮は、なんとかして小型核弾頭の量産を終えるまで、あの手この手で実際の戦闘を先延ばししようとするに違いない。
一方のトランプ政権は、いまでは北朝鮮へのメッセージであると判っているシリアミサイル攻撃が国際社会に思ったよりも遙かに歓迎されて、先制攻撃をしたいのはやまやまでも、英語マスメディアにすでに「トランプの先制攻撃は同盟国である日韓の国民生命の犠牲によって行われることになる」と、さんざん書かれてしまっているので、なかなか思い切りがつかないよーです。

どちらにしろ、日本が戦域に入ってしまったことは、変更の可能性もない現実で、遠くからみていた英語人がうけとった教訓は、戦争は全力で避ける努力をしないでいれば簡単に生活に入り込んできてしまうのだということで、昨日もこのあいだまで威勢がよかった中国嫌いのメルボルンの友達が、妙に理性的になって、「やっぱりオーストラリアとニュージーランドは、地の利を活かして平和国家でいかないとダメだな」とスカイプで述べるので笑ってしまった。
この人はこの人なりに、安倍政権の行き方をみて、考えることがあったもののようでした。

マンハッタンの通りを歩いていると、下の画像のようなサインが町の至る所にある。

これが何であるかというと、冷戦時代、自国が「戦域」にあることを自覚していたアメリカ人たちが、自国の標的になりそうな都市の至るところにつくった対核攻撃シェルターのサインで、いったん核ミサイルが飛んでくれば、地下鉄の駅や、このシェルターのなかに逃げ込む手はずになっていた。
いま多くのアメリカ人たちが、日本人と韓国人の犠牲において、北朝鮮を逼塞させようというトランプの考えに、反トランプ人ですら傾いていることには、遠い昔に自分達の国が「戦域」にあると感じられた、その当時の息苦しさを社会としてまだ記憶しているからもあるでしょう。
バラクオバマは、それにロシアも中国も含めて、アメリカのどんな未来からも「戦域化」する可能性を駆逐しようとしたが果たせなかった。

いままた日本が、自ら望んだこととはいっても、紛争地域入りして、なんとも言えない気持ちになる。
バノンが去ったことのおおきな安堵も束の間、また別種の、バノンよりも遙かに軽はずみな、それでいて十分に危険な未来が、すぐそこに待っているような気がしなくもなくて、
どうやらその未来は日本・朝鮮半島・東北中国を舞台にする、あるいは西洋文明の意志によって遠く離れた自分達の文明とは無関係な地域に紛争舞台を設定してしまったように見えて、歴史を思い出すと、いやあーな感じになります。

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