ベネズエラの現在の危機の深刻さを伝えるのは難しい。経済は昨年、10%縮小し、国際通貨基金(IMF)によると今年末には2013年比で23%縮小する。インフレ率は今年、1600%を突破するかもしれない。食料不足のために過去1年で国民の約4分の3が痩せ、1人当たりの体重が平均8.7キロ減った。戦争や内戦が起きたわけではない。政策がもたらした結果だ。マドゥロ大統領の現政権が独裁色を強める中、苦境は悪化している。50年前のベネズエラは中南米諸国の模範であり、比較的安定した民主主義国で、英国と比べてもさほど貧しくなかった。一体なぜ、こんな悲劇が起きたのか。
■石油暴落でドル収入が急減
ベネズエラの経済基盤は石油にある(指導者らは世界最大の埋蔵量だと誇る)。そのため今の窮状を石油価格のせいにしたがる。確かに石油が輸出の9割以上を占め、政府予算を支え、消費財を輸入するための外貨を稼ぎ出す。トイレットペーパーからズボンまで重要なモノはほぼ海外から輸入されている。
00年代の原油価格高騰でベネズエラは莫大な資金を手にした。だが14年に石油ブームが終わると、ドル収入が急減。チャベス大統領の死に伴い後を継いだマドゥロ新政権に厳しい選択肢を突きつけた。マドゥロ氏は通貨ボリバルの価値下落を容認することもできたが、その場合、輸入品価格は高騰しただろう。物価が高騰すれば、需要は抑えられるが、社会主義的な考えのボリバル主義を掲げるベネズエラ政府にとっては平等の精神に反することになる。
それ以上に問題は、物価高騰は新大統領の不人気を招く点だ。そこでマドゥロ氏は激しく過大評価された公式為替レートを維持し、信頼性の高い外貨の入手を厳しくし、輸入を制限した。チャベス時代から政府は、価値のあるものを輸入するのだと証明しない限りボリバルをドルに交換させないなど、石油業界が稼ぐドルの流れを管理してきた。この統制をマドゥロ氏はさらに強化した。
その結果、輸入品が減るに従い、物価が上昇するという意図せざる事態を招いた。そこでマドゥロ氏は物価統制に出た。すると物資の供給は激減するか闇市場に向かった。逼迫する政府の財政も事態の悪化に拍車をかけた。石油収入が半減し、財政赤字が膨らむ中、支出を削り、課税対象を広げる道もあったが、新大統領はそれでは自分の政治生命が終わるとみたのだろう。支払い義務を果たすべく代わりに紙幣を増刷した。それは壊滅的ともいえる高いインフレ率を招き、経済をさらに弱体化させた。
つまり原油価格の乱高下が現在の経済的苦境の原因ではない。確かに原油に依存した経済のかじ取りは難しい。価格が高騰すると、産油国の通貨は上昇し、その国の非石油産業の競争力をそぐ。それが石油輸出国の石油依存を一段と高め、原油価格が下落した際の苦痛を悪化させる。この危険性を知っている石油輸出国は、好況期の外貨流入で外貨準備を増やすなど、リスク軽減を図っている。後々の外貨建ての支払い義務と輸入費用をまかなう資金となるからだ。サウジアラビアは5000億ドル(約55兆7000億円)以上の外貨準備を抱える。一方、石油の利益で石油依存という長期的リスクを減らすべく多角的な投資をする政府系ファンドを設ける国もある。公的年金の給付原資に貢献することを目指すノルウェーの政府系ファンドは9000億ドル近い資産価値を持つ。
■将来の資金を無駄遣い
チャベス氏は、20年にわたる原油価格低迷期の終盤に大統領に就任し、その後の価格高騰を謳歌した。00年から13年の政府支出の国内総生産(GDP)比は28%から40%に上昇するほど、同氏は原油輸出で得た資金を使いまくった。00年当時、ベネズエラの外貨準備は7カ月分以上の輸入をまかなえるだけあったが、13年には3カ月分弱に減った(同期間、ロシアの外貨準備は同5カ月分から10カ月に、サウジも同4カ月分から37カ月に増えた)。