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米国株の高速取引にレーザー技術導入へ―終わりなき「ゼロへのレース」

Claudio Papapietro for The Wall Street Journal

 米国株の超高速取引を行うトレーダーたちがさらに速い取引へと駆り立てられる中、米国の軍用ジェット機が飛行中の交信手段として使うテクノロジーを利用する動きが出てきた。レーザーだ。

 イリノイ州シカゴにある小さな通信会社は3月に、ニュージャージー州マファにあるニューヨーク証券取引所(NYSE)のデータセンターと、同じ州のカーテレットにあるナスダック市場のデータセンターを結ぶため、数多くのレーザー機器を設置・起動させる計画だ。

 マファとカーテレットは35マイル(約56キロ)離れており、高層マンションやオフィスビルの屋上、タワーの頂上などに設置するレーザー機器を介して、この2地点が結ばれることになる。これは米国のほぼすべての証券取引所をこうした方法で互いにリンクさせることを目的とした通信網の第一段階だ。

ニュージャージー州エリザベスにある高齢者施設の屋上に設置されたレーザー機器
ニュージャージー州エリザベスにある高齢者施設の屋上に設置されたレーザー機器 Claudio Papapietro for The Wall Street Journal

 これは売買注文が送信されるスピードを限りなく光速に近づけていくための取り組み、つまりトレーダー用語で言う「ゼロへのレース」の最新策だ。「ゼロ」とは光速との差がなくなることで、コンピューターで取引を行うトレーダーにとって究極的な目標のようなものだ。アルゴリズムを駆使した取引を行う彼らにとって、ナノセカンド――1秒の10億分の1――の差が勝者と敗者を分ける。

 いわゆる高頻度取引を行う企業はここ数年の間に、カスタマイズされた光ケーブル網を最初に導入したほか、その後はマイクロ波、そしてミリ波通信と新たな技術を導入してきた。現在はこれら3つのテクノロジーで全米の証券取引所が結ばれている。国際的には2つの海に敷設された光ケーブルが米国と欧州、アジアの各市場を結んでいる。高頻度取引は今、米国の株取引の約半分を占めている。

レーザーを使って証券取引所のデータセンター同士をリンクする計画を進めるアノーバ・テクノロジーズのマイケル・ペルシコCEO
レーザーを使って証券取引所のデータセンター同士をリンクする計画を進めるアノーバ・テクノロジーズのマイケル・ペルシコCEO Claudio Papapietro for The Wall Street Journal

 そして今度はレーザーの登場だ。

 ニュージャージー州にあるNYSEとナスダックのデータセンターをレーザーでリンクさせる計画を進めているアノーバ・テクノロジーズの創業者で最高経営責任者(CEO)のマイケル・ペルシコ氏は「これは決して終わることのないレースだ」と話す。

 事情に詳しい複数の関係者によると、アノーバはさらに、NYSEで売買取引を行っている顧客に対し、NYSEがこの技術を提供できるよう取引所と交渉中だという。ナスダックはすでに、マイクロ波による無線ネットワークを顧客に提供している。

 ただ、アノーバのレーザー技術が意味のある速度改善につながるのかどうか疑問視する向きもある。マイクロ波にしろ、ミリ波にしろ、すでに光速に近い速さで送受信できているからだ。カリフォルニア州オークランドの高速取引ネットワーク提供業者マッケイ・ブラザーズの共同創業者Stephane Tyc氏は「ネットワーク間の違いは都市部ではかなり小さくなってきている」と指摘する。それでもなおアノーバのような企業は、たとえ一瞬でも速く取引できるようスピードを追い求め続ける。

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