第3回 覚せい剤の乱用文化は日本起源だった
「神奈川県の小田原で育ちました。中学生時代は、1980年ぐらいなんですけど、とてもガラが悪い時期で、不良文化がはやっていました。クラスメイトの半分くらいがシンナーやってたし、校内暴力が吹き荒れてたし、暴走族がいたし、トイレには煙草の吸い殻とシンナーを使った後の袋が転がってるような状態でした。中学3年のときはほとんど授業がなかったんじゃないかな」
今の穏やかな中学校からは想像しがたいが、20世紀には全国的に校内暴力が吹き荒れた時期があった。最悪だったのは世代的に松本さんが中学生だった頃で、日本各地で中学校の窓ガラスが割られ、夜になると盗んだバイクで走り出したり、十五歳の夜の行き場のない怒りややるせなさを爆発させるティーンエイジャーがたくさんいた。同じころ、千葉で高校生だったぼくは、自分が出たばかりの中学校や近くの別の中学校がどんどん荒れていくのをやや遠巻きに見ていた。松本さんは、まさにその時の中学生だったのだ。
「正直言うと、中学卒業して高校に行ったときには、すごくほっとしたんですよ。でもその時、心にひっかかるものもあったんです。荒れている子たちは、実は両親が不安定な状況にあったり、虐待を受けたりとか、子どもながらにも知っていて。依存症の専門病院に赴任したときには、『ああ、中学時代のあの動物園状態に戻っちゃった』と思ったんだけれど、逸脱してしまった人たちへの関心はずっとあったんです。だからこそ、薬物依存症の臨床に惹かれたし、その後、頼まれてもいないのに、少年院や少年鑑別所とかに自分から入り込んで診療したりとかし始めるんです」
依存症と向き合うことは、松本さんにとって、少年期に残してきてしまった課題を解くことでもあった。
薬物依存症からの治療、回復のためのプログラム、SMARPPがここで登場する。
つづく
松本俊彦(まつもと としひこ)
1967年、神奈川県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年、佐賀医科大学医学部卒業。国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部などを経て、2004年、国立精神・神経センター精神保健研究所に入所。2015年より現職。『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)などの著書や、『SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム』『よくわかるSMARPP あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)『大学生のためのメンタルヘルスガイド 悩む人、助けたい人、知りたい人へ』(大月書店)『中高生のためのメンタル系サバイバルガイド』(日本評論社)などの共編著書多数。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇・秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。