「海外有力ファッションブランドは、ほぼ全てが当社の素材を利用していますね。デザイナーも工場にもちろん来ますよ」。そう話すのは染色加工・小松精練の池田哲夫社長。上場企業の多くが東京に本社機能を持つ中、同社は創業の地である石川県に、本社機能から研究開発センターまで重要機能のほとんどを残す。ミラノやニューヨーク、東京などファッション中心地から遠く離れたこの地に、どんな秘密が隠されているのだろうか。
素材の質感が違うと真似されない
石川県能美市。小松空港から自動車で20分ほど。のどかな田園風景を通り抜ければ小松精練の本社工場が見えてくる。
正面受付を抜けると、同社が染色加工を手掛けたブランドの展示コーナーがある。ジョルジオ・アルマーニ、ルイ・ヴィトン、モンクレール……。誰もが知る有名ブランドのジャケットやコートがズラリと並ぶ。
顔を近づけ、ブランド服の生地をよく見てみる。表面がシワシワであったり、デコボコであったり。一般の衣料品のような、平面的な素材とは少し違う。恐る恐る触ってみる。ザラザラ、ゴワゴワ。手触りも独特だ。
「他にはできない質感を演出できるのが当社の特徴です」。そうやって出迎えてきたのは池田社長。生地を独特な風合いに染色加工する技術が同社の強みだ。生地の質感を通常と変えることで、高級感や独特な存在感のある衣料品を作り上げる。
アパレル業界ではファストファッションが席巻する時代。10数年前まではトップブランドのデザインが出ると、類似の商品が出るまで1年〜2年はかかった。それが今では、ほんの数週間で似たようなデザインの商品が店頭に出回る。
だからこそ、高級ブランドは他社には簡単に真似できない部分で独自性を出そうとする。それが生地の質感。特殊な素材を小松精練と開発段階から作り込む。衣類のフォルムや柄は似せられても、素材そのものが汎用品と違う場合は、ファストファッションでもすぐには追いつけない。トップブランドの経営者やデザイナーが石川県までわざわざ足を運ぶ理由となっている。