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【社会】「横浜事件」の発端、富山の旅館 「共謀罪」戒めの地に
新潟県との県境にある富山県朝日町の老舗旅館「紋左(もんざ)」は戦争中、治安維持法による言論弾圧「横浜事件」の発端の地となった。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が国会で審議入りし、治安維持法の再来を懸念する声が強まる中、市民団体が訪れ、事件の教訓を学び取ろうとする動きが出ている。 (伊東浩一) 「これが危険を企てる秘密の会議に見えますか」 事件を研究している地元グループ代表の金沢敏子さん(65)=同県入善町=が、一枚の写真を見せながら問い掛けた。紋左の一室で耳を傾けるのは、金沢市の市民団体「石川県平和委員会」が募った「平和の旅」の一行二十八人。 写真の中で、朝日町出身の国際政治学者・細川嘉六(かろく)らが浴衣姿で穏やかな表情を浮かべる。だが、一九四二年に紋左で撮影されたこの集合写真を基に、神奈川県警特別高等課(特高)は細川らが共産党再建準備の会合を開いたとして、関係者を投獄していった。 「紋左に泊まった細川らは、船遊びをし、料亭に芸者を呼んで酒を飲んだ。そういう写真の中から警察は一枚の写真だけを問題にし、拷問で事件をでっち上げた」。金沢さんの言葉にも力がこもる。「治安維持法が拡大解釈され、少しでも戦争に批判的とみられる人たちが取り締まりの対象になった」と解説した。
石川県中能登町から参加した山下美子さん(70)は「仲間と政治の愚痴を言っただけで密告され、捕まる恐れがあるかと思うと寒けがする」。法政大名誉教授で同県白山市の須藤春夫さん(74)は「共謀罪も何が違反かを決めるのは捜査機関。逮捕されなくても、警察が調べに来るだけで市民は萎縮する。政府に批判的な動きを抑えるのが真の狙いでは」と警戒した。 紋左には八月に東京からツアーが見学に来る予定。経営者の柚木(ゆのき)哲秋さんは「近年、横浜事件を目的に訪れる人は途絶えていたが、再び関心が高まっている」と話している。 横浜事件 1942年、細川嘉六(1888〜1962年)が雑誌「改造」の掲載論文を「共産党の宣伝」と批判され、警視庁に治安維持法違反容疑で逮捕された。その後、神奈川県警特別高等課(特高)が押収した紋左の写真をもとに、細川らが共産党再建準備会を開いたとして、同容疑などで言論、出版関係者ら60人以上を投獄。拷問で4人獄死、30人余りが起訴される戦時下最大の言論弾圧事件となった。2010年2月、元被告5人の刑事補償を巡る横浜地裁決定は「共産党再建準備会の事実を認定する証拠はない」とし、「実質無罪」と認められた。 PR情報
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