Base Ball Bear小出が語る、脱退劇も武器に変えたバンドの「今」
Base Ball Bear『光源』- インタビュー・テキスト
- 三宅正一
- 撮影:中村ナリコ 編集:山元翔一
Base Ball Bearというバンドは「ギターロック」というフォーマットに誰よりも愛憎を持ち、自らの音楽性を多角的に検証すると同時に、作品ごとにニューウェイブやブラックミュージックなどさまざまな意匠を取り入れながら、その核心を研ぎ澄ませてきた。結成15周年、メジャーデビュー10周年のメモリアルイヤーとなった2016年、彼らはギターの湯浅将平の脱退というバンド史上最大の危機に直面する。しかし、小出祐介、堀之内大介、関根史織は3ピースバンドとして活動を止めないことを決意し、多彩な顔ぶれのサポートギタリストを迎えてイベント出演やツアーを敢行。さらに彼らはライブ活動と平行して間断なく制作を続けた。
ニューアルバム『光源』は、その結晶といえる全8曲からなる。テーマは「2周目の青春」。サウンド面では、シンセやエレピ、ブラスなどを導入し新たなサウンドプロダクションを提示しているが、それでもなお際立っているのは、三人のしなやかで過不足ないアンサンブルであり鉄壁のグルーヴである。そのうえ、どの曲もグッドメロディーをまとっており、歌としての求心力も申し分ない。近年のインディーシーンと共振するようなアーバンポップな曲や滋味あふれるAORのような曲もあるし、これぞ王道をいくBase Ball Bearのギターロックだと思わせてくれる曲もある。
Base Ball Bearというバンドの理念と、湯浅脱退後から本作が完成するまでの道のりを、小出が余すところなく語ってくれた。
音楽はすげえ好きなんだけど、深く信仰はしてないし、超最高だと思っているけど、心酔はしてない。かといって手段にするほど奢ってもなくて。
―Base Ball Bearはギターロックというフォーマットに対して、誰よりも愛憎を持ち、主観と客観を戦わせながらその音楽性や立ち位置を相対化して、バンドのアイデンティティーを明確にしてきたと思うんですね。そのうえで作品でもライブでも同期は使わずに、四人の生音だけで構築するという絶対的なルールも生まれて。でも昨年、湯浅くんが脱退して、ニューアルバム『光源』でその禁じ手を解いた。だからこそ、あらためてこれまでのBase Ball Bearというバンドについて小出くんに語ってもらいたくて。
小出:感覚的にはずっと違うことをやってきたバンドなんですよ。『夕方ジェネレーション』(2003年)から『C2』(2015年)まで、作品ごとにテーマも目指していることも違って。サウンドも歌っている内容も違う。
メジャーデビューミニアルバム『GIRL FRIEND』(2006年)収録曲小出:別のインタビューでも話したんですけど、ミュージシャンのなかにはまず「音楽の神様」を信じている人たちがいるじゃないですか? 一方で音楽が手段というか、よく言えばコミュニケーションツールで、悪い言い方をすれば単なる商売として音楽を使っている人たちもいる。それもエンターテイメントの一側面だし決して間違ってはいないんですけど、僕らは音楽を「神様」と捉えている側と、「ツール」と捉えている側の両方と距離を取ってきたバンドだと思うんですよね。
―そのスタンス、詳しく教えてもらっていいですか?
小出:音楽はすげえ好きなんだけど、深く信仰はしてないし、超最高だと思っているけど、心酔はしてない。かといって手段にするほど奢ってもなくて。だけど、どちらの面白さも理解しながら、どちらとも適度な距離を取っているから、客観的に見ても他のバンドと比較しにくいところがあると思っているんですよね。
―なるほど。国内でシンパシーを覚えるバンドはほとんどいないですか?
小出:日本のバンドではあまり思いつかないんですよね。チャットモンチーとはかなり近いけど、絶妙に違う気がするし。バンドではないけど、松任谷由実さんは究極ですよね。
―同じくバンドではないけど、RHYMESTERは?
『THE CUT』(2013年)収録曲。RHYMESTERをフィーチャーしている小出:マインドはもちろん近いと思います。ただ、ヒップホップはジャンル自体の属性が強いからハッキリと言いきれないかも。
―ビートが打ち込みであれ、生であれ絶対にラップはするわけですからね。
小出:そう。僕らは、「ギターロックバンド」だとずっと言っているけど、「これってギターロックの範疇なのかな?」という怪しいところまでいってるから(笑)。
『CYPRESS GIRLS』(2010年)収録曲『新呼吸』(2011年)収録曲
近年の同期を使うバンドって、ほとんど同じ雰囲気に感じるんですよ。
―『光源』もまさにそういうアルバムですよね。
小出:うん。言ってしまえば、ずっとそうなんですけどね。「え、これはその範疇なの?」っていう。そのうえで「ギターロックバンドです」って言い続けてきたので。海外でいうと、自分が一番影響を受けたのはXTCですし。
―本質的なオルタナティブを地でいく感じね(笑)。
小出:彼らも毎作やってることが違うんだけど、どれもXTCだと言えるんです。途中でアンディ(・パートリッジ)がライブ恐怖症になってライブをするのをやめちゃうんだけど、ライブをやめてからの作品もすごい。それってバンドとしては、やっぱり変なんですよ。すごく変なんだけど、アンディはそのとき興味のあることだけをずっと表現しているっていう。そうしたら必然的に音楽性も推移していくわけで。
―そのときどきの興味が第一っていう志向の裏には、XTCの存在がある。一方で、小出くんは「バンド」というフォーマットにこだわっているし、ライブでは今後も同期を導入するつもりはないんですよね?
小出:そうですね。
2012年に開催された武道館公演より―譲れない美学の領域がある。
小出:そこは最初に憧れた日本のバンドが、NUMBER GIRLだったというのも大きいと思う。肉体的でカッコいい音を出すバンドが好きなんです。そういう意味で、日本のバンドで一番カッコいいと思ったのはNUMBER GIRLだったし、少なくとも僕が聴いてきた音楽は肉体的なものが多かった。
あと、僕のルーツはハードロックで、「ギターのテクニックだけで押しきるってカッコいい!」という感覚が原点にあるんじゃないかな(笑)。でも、演奏の凄味で魅せきるっていうのは本来的だとも思うんですよね。だから、自分が音楽をやるときも、バンドサウンド以外の音が鳴っているのは想像してなかった。―ただ、Base Ball Bearがメジャーデビューした2006年前後って日本でも同期を使って、いわゆるダンスロックを鳴らすバンドがどんどん増えてきたじゃないですか。以降、フロアライクなサウンドにかぎらずロックバンドでもエレクトロニックな音を導入するのが当たり前になっていて。でも、Base Ball Bearは頑なにそこにはアクセスしなかったですよね。
小出:単純に、自分はそこにマジックを感じなかったからでしょうね。特に近年の同期を使うバンドって、ほとんど同じ雰囲気に感じるんですよ。音楽の作りが同じというか、手法が同じというか。
リリース情報
- Base Ball Bear
『光源』初回限定盤(CD+DVD) -
2017年4月12日(水)発売
価格:3,780円(税込)
UPCH-29252[CD]
1. すべては君のせいで
2. 逆バタフライ・エフェクト
3. Low way
4. (LIKE A)TRANSFER GIRL
5. 寛解
6. SHINE
7. リアリティーズ
8. Darling
[DVD]
『COUNTDOWN JAPAN 16/17』 at GALAXY STAGE 2016.12.31&Tour「バンドBのすべて 2016-2017」ドキュメント
- Base Ball Bear
『光源』通常盤(CD) -
2017年4月12日(水)発売
価格:3,000円(税込)
UPCH-204481. すべては君のせいで
2. 逆バタフライ・エフェクト
3. Low way
4. (LIKE A)TRANSFER GIRL
5. 寛解
6. SHINE
7. リアリティーズ
8. Darling
プロフィール
- Base Ball Bear(べーす ぼーる べあー)
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2001年、同じ高校に通っていたメンバーが、学園祭に出演するためにバンドを結成したことがきっかけとなり、高校在学中から都内のライブハウスに出演。その高い音楽性と演奏力が大きな話題を呼び、東芝EMI(現UNIVERSAL MUSIC)より、ミニアルバム『GIRLFRIEND』でメジャーデビュー。これまで2度に渡り、日本武道館でのワンマン公演を成功させる。2016年3月、結成当初からのメンバーであった湯浅将平(Gt)が脱退。同年同月から、サポートギターにフルカワユタカ(ex.DOPING PANDA)を迎え、ツアー『LIVE BY THE C2』を開催。ファイナルの『日比谷ノンフィクションV』では、フルカワユタカの他に石毛輝(lovefilm、thetelephones)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers、toddle、LAMA)、ハヤシ(POLYSICS)という豪華ギタリストを迎え、3人体制となって初のシリーズライブを成功に終える。サポートギターに弓木英梨乃(KIRINJI)を迎え、全36公演に及ぶツアー『バンドBのすべて2016-2017』を敢行。2017年4月12日、新体制後初となる7thフルアルバム『光源』をリリースする。