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【首都圏】

福島の今、思い交わす 原発事故 地域の現状巡り本社で対談 

原発事故被災地について対談を行った独協医科大の木村真三准教授(左)とミュージシャンの遠藤ミチロウさん=東京都千代田区内幸町で

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◆一気に限界集落にされた 独協医科大准教授・木村真三さん

◆住民分断 修復へ盆踊り ミュージシャン・遠藤ミチロウさん

 木村さん 志田名地区は、いわき市が安全宣言をしたために、汚染がひどいのに避難指示が出ず、住民が置き去りにされた。原発事故の二カ月後、私が初めて行ったときには、住民は汚染の中で暮らしていた。大変なことが起きていると思い、住民の健康権を守るために、汚染状況を調べ、明らかにしてきた。

 遠藤さん 事故直後、福島にゆかりのあるミュージシャンで「プロジェクトFUKUSHIMA!」を立ち上げ、福島で音楽フェスをやった。木村先生と知り合い、志田名の実態を知って、住んでいる人たちの気持ちを新しい形で表現できると感じた。それで「羊歯明神(しだみょうじん)」という盆踊り民謡パンクバンドをつくった。

 木村さん なぜ盆踊り?

 遠藤さん 福島県浪江町の人が避難した二本松市の仮設住宅で、音楽祭をやろうとしたら、住民から「盆踊りをやって」と言われたのがきっかけ。黙々と踊る住民の姿を見て、きっと、事故前の地元を思い出しているんだろうと感じた。胸を締め付けられ、思わず一緒に踊った。人の気持ちはこういうときに現れる。だから、志田名でもやろうと思った。パンクとは対極だけど、逆にそこに新しい文化をつくれないかと思った。

 木村さん 仮設住宅などに避難した住民は今後、帰還を巡って苦しむ。若者や子どもたちが移住し、高齢者ばかりの限界集落になる所が出てくるはず。チェルノブイリと福島の両方を見ていると、既視感に襲われる。福島で今後、チェルノブイリのように高齢者が置き去りにされないかどうかが心配だ。

 遠藤さん 全国に点在する限界集落の問題が、福島には典型的に現れている。

 木村さん 本当に、縮図。二十年、三十年、タイムマシンで一気に限界集落にされたという怖さがある。息子と初孫が避難している志田名の男性が「多かれ少なかれ、福島は早晩、どこもみな、高齢者ばかりが残った志田名と同じことになる。これが放射能の大きな問題だ」と言った。どきっとした。

 遠藤さん 限界集落ができるのは、経済が原因。だから、放射能は経済の毒そのものと言えるのでは?

 木村さん 避難した人は「自立しなきゃ」と思っている。一方で、家や山、田畑など財産がなかった人は、賠償額が少なく、自立が難しい。

 遠藤さん 賠償額の違いで住民が分断される。分断を解消するのは難しい。分断を修復するのは民謡、盆踊りしかないと思った。

 木村さん 東京で「汚染されている福島に住んでいいのか」と聞かれた。肥沃(ひよく)な土を除染で剥ぎ取られたのがつらい。大事な所を失われたということが伝わっていない。福島の人たちに罪はない。東京のための発電を受け止めていたことを、覚えておいてほしい。

 東京電力福島第一原発と旧ソ連ウクライナのチェルノブイリ原発の事故で、汚染状況の調査を続ける独協医科大の木村真三准教授(49)と、高齢者ばかりが残った福島県いわき市志田名(しだみょう)地区で盆踊りを復活させたミュージシャン遠藤ミチロウさん(66)が三月三十日、東京新聞本社(東京都千代田区)で対談しました。福島で避難指示の解除が相次ぐ中、地元の厳しい現実に思いをはせました。同時に、木村准教授が汚染地帯で暮らす人々を撮影した写真展を本社ロビーで開催。来場した七十七人の方々の感想や被災地の人たちへの言葉を、抜粋して紹介します。

◆木村さん被災地写真展 77人が言葉を寄せる 

◆ウクライナの友人は、母国を非常に心配している。世界で原発廃止に向かっていかなければならない。

◆放射能汚染から自分を守るのは限界がある。国民はどうしたらよいのか。

◆東京電力柏崎刈羽原発から30キロ内に実家がある。地震がいつ来てもおかしくない現実に、政府や国会は目を向けてほしい。

◆放射能が山野を汚染し、生活の基盤を奪い去ったことが、鮮明に分かった。

◆土の汚染は数年の単位で終わらず、生活の核を奪ってしまうのだと思った。

◆福島に帰省すると、穏やかで山河は変わらないが、空気や人の流れが違う。

◆大熊町から避難した方が作ったニット帽をかぶった、ガンナさんの妹の笑顔がすてき。

◆なぜ福島の人たちは犠牲にならなければいけないのか。東北なのに東京電力…悲しすぎる。

◆人はすぐ忘れるから、写真の記録、大事です。

◆必死に生きる姿が伝わってきた。今更ながら、原発の恐ろしさを知った。

◆津波で家を流され、妹、義弟は病に倒れた。底辺でこのような悲しみがたくさんあることを、政府は考えて欲しい。

◆避難するのも、故郷に残るのも、戻るのも、どれほどの悔しさ、怒り、大地への愛があることか。

◆「核」とは何か。最終的な始末まで考えないで、人間はなんと浅はかな存在だろう。

◆せめて、子どもたちが健やかにありますように。

◆まだまだ問題は重く長く続いていくと感じた。

 

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