これまたややこしいので簡単にすると、法案の中身は、
犯罪が主目的の組織で、更にその組織にはきちんと指揮命令系統と役割の分担があって、何度も反復して既に犯罪をやっている組織での活動として、個人ではなく組織として犯罪をやることを計画した場合に、その計画した人のうちの一人でもお金を用意したり、物を用意したり、現場の下見をしたりといった準備をしたら、その計画した人たちは罰するよ。計画を実行に移す前に自首したら罪は軽くなるよ。どの犯罪が対象になるかは後ろの表で並べるね。
ということです。
これまで何度かいわゆる共謀罪法案という形で、同様の法案が国会に提出されて廃案(つまり成立せず。)となっていますが、今回出されてきたものは以前提出された法案よりも更に、罪になるかどうかの要件がかなり絞られています。
本法案での絞りこみや要件の縛りをぱっと列挙するだけでも、
「多数人、組織的」… つまり個人は当てはまらない
「指揮命令、任務の分担」… 指揮命令系統や役割分担がない組織は当てはまらない
「行為の反復」… 今まで何も犯罪をしていない組織の一度きりの話は当てはまらず
「結合関係の基礎としての共同目的が犯罪」… 組織の”主”目的が犯罪の場合のみ
「二人以上で計画」… そうした犯罪集団の構成員でも一人での計画は当てはまらず
「準備行為」… 計画しただけでは罪ではない、計画者の誰かが準備行為をしなきゃ
の縛りがあり、さらに対象の犯罪を絞り込むことで、何でもかんでも入らないようになっています。その対象犯罪については大きく分けると5分類、277罪まで絞り込まれています。
▼なお、5分類については以下の時事通信の記事を。
http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-houmushihou20170321j-01-w400
▼また全ての対象犯罪については法文別表をみれば書いてあるのですが、確かに分かりにくいので、以下の東京新聞のツイート画像が分かりやすいかと。
https://twitter.com/tokyoseijibu/status/844406610525073409
さてこれまで、内容をなるべく分かりやすく説明しようと思って書いてきましたが、長文過ぎて、また、説明が下手過ぎて分かりにくければすみません。その場合、かなり複雑だということだけでも分かっていただけたら、それだけでも書いた意味があるかと。
そして言いたいのはここからなのですが、
法案内容が知らない人から見ると複雑なのに加え、政治的思惑も加わり、デマも含めた情報が世の中に飛び交っています。例えば、以下、世の中に出回っている内容をいくつか列挙しつつ、それについての回答を書いてみました。
●居酒屋で上司の悪口や、安倍総理死ねといっただけで罪になる
答え:組織の行為でなければ罪になりません。さらにその組織も犯罪が主目的の組織でなければなりません。悪口を言ったり、死ねというだけでは計画ではないので罪になりません。加えて準備行為すらないので罪になりません。
●「賃金UP、ストライキだ、ブラックな勤務はダメ!うんと言うまで社長を返さないぞ」 ← え?こんな会話でタイホなの!?話し合うことが罪になる
答え:なりません。まず会話だけ、話し合うだけではならない。その一員の準備行為が必須ですよ。そもそも、犯罪を目的とし、何度も実行する集団の一員で、記載のような社長を監禁する(犯罪です。)ための下見や物品手配を計画準備するような人は一般人ではないですね。
●同人サークルで二次創作の同人誌を作ったら逮捕されるように変わる
答え:なりません。指揮命令系統がはっきりしていないサークルや一個人の場合はそもそも当てはまりませんし、万一会社組織などで指揮命令があるとみなされるものでも著作権者の告訴がなければ警察は動けません。(「親告罪」といいます。)これは今の法律でも同じで、現行法でも著作権者から訴えられたら罪になる可能性があります。
ただし、この例示だけは少々他のものと比べても特殊だと考えています。なぜなら、列挙されている罪をすべて確認しましたが今のところ、それらの罪を主目的に活動している集団で、今すでに存在し、活動がほとんど違法性・悪質性がないといえるものはこういった二次創作団体ぐらいしか思いつきませんでしたので。(他にあれば教えていただきたいです。確認すべきなので。)
逆に言えば、こうした二次創作活動が萎縮する可能性もないとは言えないので、政府に主意書などで確認。著作権法違反を含む現行法で親告罪のものは、この法案でも親告罪のままとの回答を得ました。また、海賊版製作販売などは暴力団やテロ集団の資金となり、犯罪集団の隠れ蓑になる場合もあるので著作権法違反は外せず、他との並びを考えても海賊版に限定する若しくは同人誌作成団体のみを外すといったことも難しいようですね。親告罪については、法務省は明文化しなくても法の構成上当然にそうなるという考えのようですが、明文化してもよい(すべき)とも考えられます。
▼主意書内容はこちら:
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a193139.htm
●「違憲の戦争で自衛隊員が殺される前に安倍総理を打倒しなければならない」と複数の国会議員が議論。議論の後に「宿舎で一杯やろう♪」とコンビニで食材と一緒に果物ナイフを購入。打倒を殺人、ナイフ購入を実行準備行為とこじつければ共謀罪で国会議員を逮捕できる。
答え:ありえません。国会議員が犯罪が主目的の組織に所属しているのでしょうか。そもそも具体的な計画がありませんし、逆に議員が総理をナイフで刺す具体的な計画をしていたらそれこそ犯罪計画ですね。また、打倒とナイフの因果関係すら証明できない外形だけの法適用は司法現場では通りません。
●戦前の治安維持法と同じだ、みな捕まるようになる
答え:人権に対する考えが現憲法と明治憲法では根本的に異なります。現憲法では人権は永久不可侵の権利として明記されており、現憲法下でかつての治安維持法のような結社の自由そのものを侵す法案をつくったり、実際に逮捕したり拷問したりしようものなら裁判で明らかに「違憲」となります。三権分立が機能し、国会や特にマスコミの監視も強い中で、不可能な話。今回の法案は上記の様に要件もかなり厳格化、治安維持法とは明らかに異なります。
まだまだ例を挙げるとキリがないのですが、まずはこれぐらいで。
なお、色々文句やいちゃもん付ける方もいるので明記しておきますが、上記はこれまでの法務省や外務省、警察庁、法制局、賛成反対両方の立場の学者や弁護士らとのやり取りを基に丸山個人の議員としての文責で記載したものですので、これらの点について不安があるのであれば、確かに一つ一つ国会で政府に確認していかなければならないでしょう。
しかし、少なくとも、挙げたような不安を煽るだけのものは、例示そのものがあまりにも酷すぎて苦笑せざるを得ません。
最後に、
本法案、確かにしっかりと議論しなければならない法案であることは異論はありません。また、おそらくほぼありえない状況ですが、万が一、一般の方が捕まっても警察によって自白を強制させられないようにするための取り調べの可視化や、9.11や地下鉄サリン事件などの過去例を見たときに本当にこの法案だけでテロを未然に防止できるのかということを考えると、GPS捜査や通信傍受などの捜査手法についての合憲の範囲内でのルール化を進めるなど、問題点をフォローするための政策がまだまだ必要だと考えます。しかし、どう考えても、上記のような例を上げて不安をいたずらに煽るのは適切ではない、ということを理解いただけたでしょうか。
以上です。ツイッター等で、あまりにも法案についてのご質問が多く、しかし、すべてに返信できないのでこちらに書かせていただきました。時間の限られた中にて記載したので、誤字等あればすみません。また、明確な間違いなどが万が一あれば訂正いたします。
後半国会でしっかりと議論してまいります。
▼本法案の全文や改正の新旧対照表は、以下の法務省HPをご覧ください。http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00142.html
▼国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(略称:国際組織犯罪防止条約)については以下の外務省HPを。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/soshiki/boshi.html
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