インタビュー
独立から4年――ブラウニーズが“新たなレジェンド”を生む。スマホ向けRPG「EGGLIA 〜赤いぼうしの伝説〜」開発者インタビュー
2013年に掲載された記事を読んだ人ならばピンと来るであろうこの言葉。これは「MOTHER3」や「マジカルバケーション」の開発元として知られるブラウニー・ブラウン(現:1-UPスタジオ)から独立し,新会社ブラウニーズを設立した亀岡慎一氏のインタビューから抜粋した言葉だ。
氏の動向をチェックしていたファンならばご存じかもしれないが,ブラウニーズ設立からの4年間は,他社のオリジナルタイトルの立ち上げに貢献し,デベロッパとして開発に参加してきた。そして,2016年9月に開催された東京ゲームショウ2016にて,自社で企画・開発したスマホ向けRPG「EGGLIA 〜赤いぼうしの伝説〜」(iOS / Android。以下,EGGLIA)をDMM.com POWERCHORD STUDIOとのタッグによって開発中であると発表した。そのEGGLIAの配信が2017年4月13日にいよいよスタートするのだ。
亀岡氏が独立して作りたかった“心に残るようなタイトル”は,どのようにして開発されたのか。4Gamerでは,プロデューサーを務めるDMM.com POWERCHORD STUDIO室長・岡宮道生氏と制作総指揮を執るブラウニーズ代表取締役社長・亀岡慎一氏に話を聞いた。
「EGGLIA 〜赤いぼうしの伝説〜」公式サイト
EGGLIAのお話を……の前に
POWERCHORD STUDIOについて聞いてみた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。EGGLIAについてお聞きしたいのですが,亀岡さんがいらっしゃるまでにお時間がありますので,まずは岡宮さん自身のお話とDMM.com POWERCHORD STUDIO(以下,POWERCHORD STUDIO)の成り立ちについて聞いてもいいですか。
はい! お願いします。えー,今日はピンク色の派手なシャツですけど,POWERCHORD STUDIOは目立たないよう地道に運営しています。
4Gamer:
ステキなマスク柄のシャツですね。プロレスがお好きなんですか?
岡宮氏:
最近はなかなか機会を作れてないですが,試合は見に行きますね。あとはキラー・カーンさんのやっている居酒屋にちょろっと行ってみたり,川崎のプロレス関連ショップでこのシャツを購入してみたり……けっこう好きです(笑)。
4Gamer:
パーソナルな話から始まってしまいましたが,岡宮さんといえばPOWERCHORD STUDIOの室長であり,「艦隊これくしょん -艦これ-」(以下,艦これ)のエグゼクティブプロデューサーとして広く知られていますし,POWERCHORD STUDIO入社以前もさまざまなポジションで業界に関わってこられましたよね。
岡宮氏:
そうですね。宣伝がやりたくて1990年にスクウェアに入社したのが始まりです。入ったはいいものの,肝心の宣伝部が存在していなくて,最初にもらった名刺をよく見たら“営業部”と書かれていたのをよく覚えています。あとで聞いたのですが,募集広告の「コンセプトプランナー募集! ゲームの宣伝をしてみませんか?」という文言は,担当者が独断で入れていたみたいで,入社時は営業部だったんですよ。
4Gamer:
独断で入れていたって,かなり思い切ってますね。
岡宮氏:
スクウェア在籍時は坂口博信さんが手掛けるファイナルファンタジーシリーズや,河津秋敏さんのサガシリーズ,あとは時田貴司さんの「半熟英雄」とか「ライブ・ア・ライブ」,松野泰己さんの「ファイナルファンタジータクティクス」や「ベイグラントストーリー」も担当していました。在籍中の業務は宣伝だけにとどまらなくて,「ロマンシング サ・ガ3」の頃に河津さんからプロデューサーという肩書きをいただいていました。今思い返すと全然至らなくてプロデューサーなんて名乗るのはおこがましかったんですけどね。
4Gamer:
河津さんがターニングポイントとなり,宣伝業務の傍らゲーム開発にも携わるようになっていたと。
岡宮氏:
作るか売るかのどちらかではなく,作って売るという一連の流れを突き詰めたいと思い始めたんです。「ファイナルファンタジーVIII」以降は宣伝プロデューサーという肩書きで,宣伝とプロデューサーの中間みたいな立ち位置が多かったですね。
スクウェア合併後もしばらくは在籍していて,「ファイナルファンタジー XII」の発売直後に退社しました。その後は,元スクウェアの染野正道さんに誘われる形で,AQインタラクティブに移っています。
4Gamer:
AQインタラクティブといえば,ニンテンドーDS用音楽ツールソフト「KORG DS-10」を思い浮かべる方もいるんじゃないでしょうか。
岡宮氏:
AQインタラクティブ在籍時の唯一のヒット作ですね(笑)。その当時はかけられる予算も少なくてなかなか売れるオリジナルタイトルも作れず,実直にゲームを作っても芽が出ないかもしれない,だったらゲームではないツールソフトを手がけてみようと,サウンドチームの佐野信義さんと一緒に電子楽器の開発・製造を行っているKORGさんに打診してみたら面白がってくれまして。そうしてKORG DS-10は生まれました。
4Gamer:
「KORG M01」もそのシリーズですよね。
ええ。「KORG M01」はAQインタラクティブを退社後に設立したDETUNE(※)で手掛けたタイトルです。KORG DS-10がヒットしたのに気をよくして,独立して会社を興しました。
まぁ,ソフトの売れ行きは二匹目のドジョウを狙ってしまったせいか,そこそこになってしまいましたけど。
(※)岡宮道生氏,光田康典氏,佐野信義氏によって設立された音楽制作ソフトウェア制作/販売会社。岡宮氏は同社の初代・代表取締役社長を務めた。
4Gamer:
DETUNEの代表取締役社長を退任後は,DMM.com POWERCHORD STUDIOの室長に就任されますが,そこへ至るまでにはどういった経緯があったんでしょう。
岡宮氏:
社長になった人なら分かることなんですけど,代表取締役社長って会社から何の保障も得られないポジションで,退任すると本当の意味で“無職”になってしまうんです。だからDETUNEを辞めた当面の間は,陰ながらいろんな仕事をして食いつないでいました。アルバイト的に派遣会社の荷詰め仕事とか。
4Gamer:
え!?
岡宮氏:
新しい発見もあって個人的には意外と楽しくやっていましたよ。例えば,某アイドルの握手チケット詰めもやりましたけど,ファンの方って本当に1人頭10枚とか20枚のCDを平気で買われるみたいで,話には聞いていたけど「1人でこんなに買うの!?」って箱詰めしながら驚きました。そんな地べたを這う生活を1年ぐらい続けていました。
もちろん仕事はそれだけじゃなくて,植松伸夫さんとバンド活動をしつつ,ゲームの楽曲制作やアレンジの仕事もしたりとか。並行して飲み友達の野島一成さんとゲームの企画書を作ったり,業界関係者の方と話をしてみたりしましたけど,やっぱり今までの経験を活かした大きい仕事もしたいと思い立ったんです。
4Gamer:
そこで企業への入社を意識されたと。
岡宮氏:
だけど知り合いのつてを頼って入るのはフェアじゃない気がしていましたし,その時点で自分がどう評価されるのかも純粋に知りたくて,まったく関係のない会社を探そうと,某人材紹介会社のエージェントさんにお願いしたのがDMM.comとの出会いにつながります。
当時はちょうどDMM.comで亀山会長が新規事業を起こす人材を募集していたときで,いろいろな事業を手掛けていておもしろそうだし,エージェントさんに「会長の亀山敬司さんは事業を興す魅力的な人だから」と背中を押されて会いに行ったんです。
4Gamer:
今やDMM.comといえば,ブラウザゲームや独自のスマホ向けタイトルをリリースされているメーカーとして認知されていますけど,岡宮さんの入社以前はあまりゲームのイメージはありませんでしたよね。どちらかというと,動画配信やDVDのオンラインレンタル事業,FX事業といった幅広い事業展開のイメージが強かったといいますか。
岡宮氏:
入社前のタイミングは世間的にスマホ向けのソーシャルゲームが話題になっていた時期で,DMM.comは会員さんをたくさん抱えていますし,ゲーム事業はどうでしょうと提案しにいったんです。そうしたら「じゃあ,いつから来られる?」とその場で聞かれまして(笑)。
4Gamer:
DMM.comへの入社が決まった瞬間ですね。
岡宮氏:
入社というか会長と直で契約する,みたいな感じですね。そのあとは,いろんな知り合いや友人のクリエイターさんやデベロッパさんに声をかけていました。それまでのDMM.comの性質をある程度汲んだ女の子を主体にしたゲームと,コンシューマっぽいゲームを作る2つの路線でいくべきだと感じていて,コンシューマゲームの開発経験があるクリエイターさんにもコンタクトをとっていたんです。そこで企画を持ってきてくれたのが,後に艦これのプロデューサー兼ディレクターになる田中謙介さんでした。
4Gamer:
POWERCHORD STUDIO発の艦これは大ヒットを遂げ,ゲーム事業でのDMM.comの認知度を高めたタイトルでした。その後リリースされているタイトルは,ブランドという大きな括りで見た“艦これの会社から出ているゲーム”として認識されている印象がありますが,そもそもDMM.comのゲームブランドは,DMM GAMES/POWERCHORD STUDIOの2つに大別できますよね。
岡宮氏:
POWERCHORD STUDIOは会長直轄の部署としてゲームの開発を行っていますので,会長の指針に合うかどうかで企画を動かしているところもありますが,DMM.comの性質を汲まないゲーム性や一般的な話題性を重視したタイトルが多いです。DMM.comに今までとは違う新しいお客さんを連れてくるために,ほかにはないゲームを中心に開発しています。
4Gamer:
スマホ向けタイトルへの取り組みも2つの部署で異なっているように感じます。例えば,DMM GAMESはブラウザゲームありきの展開が主流ですが,POWERCHORD STUDIOはプラットフォームに縛られずネイティブアプリとしてリリースされることもありますよね。
岡宮氏:
DMM.com自体に「全て自前で」という方針があって,最初は自分たち以外のプラットフォームへの提供はNGだったんです。ですがスマホに関しては,App StoreとGoogle Playへのアプリ提供をしてみて,プラットフォーム内プラットフォームのような形も検討しようという方針になったのが大きいですね。その流れに伴って,じゃあゲームももう少し自由に考えてみようとなりました。
あとは,DMM GAMESというゲームのプラットフォームに縛られているか否かが大きいのと,POWERCHORD STUDIOの根底に“作り手が何を作りたいかを重視する”という考えがあるからかもしれません。もちろんDMM.comとして出すものなので,DMMプラットフォーム全体に利益が還元されるようにしなければならないのですが,まずは開発者達が作りたいものがどのゲームプラットフォームに合っているかを考えたほうが,エッジの効いた新しいものが生まれる可能性が高いと感じていて。作り手がブラウザでやりたいならブラウザで,アプリとしてリリースしたいならまずはアプリで出しましょうと,提供先に縛りを設けていないんです。
作り手ありきの考えですね。EGGLIAや「勇者ヤマダくん」が発表された際も感じたのですが,POWERCHORD STUDIOの名前ってあまり前面に出ていなくて,コピーライトを見たときに「あっ,このタイトルはPOWERCHORD STUDIOも関わっていたんだ……!」と気づくことが多かったりします。
岡宮氏:
いいんです,いいんですそれで。路傍にたたずむタンポポのように(笑)。ひっそり影から支えるのがちょうどいいんです。どちらかというと作っている人のカラーを大切にしたいといいますか。
4Gamer:
POWERCHORD STUDIO発のタイトルは,DMM.comらしさを感じさせないものが多いと感じていたんですが,それは作り手ありきの方針によって開発者のカラーが活かされていたからなんですね。
EGGLIAは,ブラウニーズで好きなものを作るというところからスタートしたタイトルなので,作り手ありきのPOWERCHORD STUDIOは非常にいいパートナーだったのではないでしょうか。
岡宮氏:
とくに,このプロジェクトのキモは作り手がやりたいことを実現させることですから,そういう形に見えているのであればうれしいですね。
(扉を開けて亀岡慎一氏が登場)
亀岡慎一氏(以下,亀岡氏):
すいませーん!
岡宮氏:
あ,きたきた。えーと……DMM.comからいらっしゃった亀岡さんです(笑)。
亀岡氏:
いやー,マジックに引っかかりまして。恵比寿で優雅に伊勢うどんを食べていました。
(※編注:こういった開発者インタビューはパブリッシャのオフィスで行われることが多いのだが,今回はDMM.comの引っ越し作業の関係でブラウニーズでの実施となった。しかし,亀岡氏はウッカリいつもの流れでDMM.comのオフィスへ向かっていた。恵比寿で伊勢うどんを食べてからオフィスへ向かったところ,異変に気付きダッシュで吉祥寺まで引き返してきたのだ。こんなプチハプニングが起きたが,インタビューは終始和やかに行われた。)
何事もなく到着されてなによりです。
亀岡氏:
DMM.comのオフィスに着いたら妙に殺風景で「あれ? おかしいな」と思ったんですよ。そしたら「亀岡さんこっちじゃないですよ!」と言われて,慌てて戻ってきました(笑)。
岡宮氏:
時間稼ぎで自分のヘンな話までしちゃってすみません(笑)。ここから本腰を入れてEGGLIAの話ができますね。
亀岡氏:
ちょっとすみません,走ってきて汗だくなんでタオル取ってきますね。
(亀岡氏,退席)
4Gamer:
あ……。話は戻りますが,POWERCHORD STUDIOの名前の由来って,ギターの二弦をおさえるコードからきているんですか。
岡宮氏:
ええ,基音と5度の音でできているパワーコードですね。一見シンプルですけど,2つの弦をおさえるだけでメジャーコードにもマイナーコードにもなれるものなので,そういったゲームを作っていきたいという想いを込めています。シンプルで力強い,そんなイメージです。
(亀岡氏,着席)
亀岡氏:
ね,すばらしいですよねPOWERCHORD STUDIOって。
岡宮氏:
そのとって付けた感はナニ(笑)。
(一同笑)
いやー,これだけ好きにやらせてもらって,作り手としては最高ですよ。
4Gamer:
ユーザー体験会の反響をTwitterで見てみると,遊んだ方からの好評ばかりですよね。
亀岡氏:
うれしいことですよね。社内で面白いと太鼓判を押せる出来だったし,みなさんの反応が思ったとおりで安心しました。体験会に来てくれたファンの人達は「買ってくれる」手応えを感じてますが,あとはEGGLIAを知らない人達がいかに手に取ってくれるかにかかっています。
岡宮氏:
EGGLIAを手に取ってくれた人が,ほかの人にすすめて輪が広がってくれたらうれしいんですけどね。
4Gamer:
ちなみに体験会の参加者は男性と女性,どちらが多かったんですか。
岡宮氏:
思っていたよりも女性が多かったですね。中には赤ちゃん連れのご夫婦もいらっしゃって,熱心に遊んでくれていました。
亀岡氏:
ああ,多かったねー。なんで女性が多いのかを考えてみたんだけど,恐らく作品の絵柄に女性を惹きつける何かがあるんじゃないかと。
4Gamer:
ブラウニーズのタイトルは独特な雰囲気を持ったキャラクターと,あたたかみがあって“おいしそう”な背景が特徴ですよね。
亀岡氏:
背景を描いている津田幸治とは「聖剣伝説3」からコンビを組んで,キャラクターデザインと背景を長いこと一緒に制作している仲なんですけど,彼は大のディズニー好きなんですよ。ディズニーランドのカフェやイクスピアリ内のレインフォレストカフェとか,いろんなレストランを取材してイメージを膨らませているみたいで。そのイメージをゲームに反映してくれるんです。
4Gamer:
ブラウニーズが手がける背景はどんな層でも受け入れやすいタッチや配色で,ディズニー作品に通ずる何かを感じます。ああいった柔らかい絵柄は,女性や子供の心をつかみやすいですよね。
亀岡氏:
じつは,ブラウニーズの求人募集も女性の応募がすごく多くて,8〜9割は女性なんですよ。前はグラフィックデザイナーの女性比率が多かっただけなんですけど,最近はプログラマーもプランナーも女性ばかりになってしまって。本音としてはもっと男性にも応募してほしいところなんですけどね。なぜか女性がたくさん集まる会社です。
亀岡氏が作りたかったのは
「ムーミン谷」のようなほのぼのしたゲーム
4Gamer:
亀岡さんがブラウニー・ブラウンから独立し,ブラウニーズを設立した経緯はこちらのインタビュー記事で語られていますが,いろんな事情を端折って説明すると「今やれること,やりたいこと」をしたかったということですよね。
亀岡氏:
要約すると,そうなります。やりたいことをやりたいってだけで独立するのは難しいので,そのほかにもあまり話せないような事情ももちろんありました。まぁ,普通にお話しすると,好きなことをやるなら出資を受けず,自分の責任でやるべきだと判断したからブラウニーズを設立したということです。
4Gamer:
では,ブラウニーズ設立後から現在に至るまでではいかがでしょう。前回のインタビューはちょうど設立のタイミングだったので,具体的に発表できるタイトルはまだありませんでしたよね。
亀岡氏:
独立のタイミングはどうだったかな……ちょうど「ファンタジーライフ LINK!」の作業が終わって次回作のお話をいただいたんですが,引き受けたい気持ちはあるものの,せっかく独立したので新たなオリジナル色の強いタイトルを作りたいとお断りしたころですかね。独立をきっかけに田中弘道さんからもオファーをいただいて,しばらく「セブンス・リバース」(iOS / Android)の開発に参加していました。並行して他社さんのほかのオリジナルタイトルの開発にも携わっています。
4Gamer:
これまでは他社が企画したタイトルを開発されていましたが,EGGLIAはブラウニーズが企画から開発まで行った初のオリジナルタイトルですよね。
亀岡氏:
そうですね,企画から開発まで自社で担当してます。独立時のインタビューで話した「好きなものを作りたい」を,こんなに早いタイミングで実現できるとは正直思いませんでした。
4Gamer:
作りたいものの漠然なイメージとして,スマホ向けタイトルでなおかつガチャの要素はあまり入れたくない,心に残るようなタイトルを作りたいとお話しされていました。
亀岡氏:
こう振り返ってみると,独立時から軸がぶれてないですね。若い子を前に出していきたいとか,インタビューを読み返してみて「よかった! 言っていることが変わってない」とホッとしています。
岡宮氏:
話を聞いて思い出したんだけど,僕と亀岡さんが植松さん主催の忘年会で久しぶりに会ったのは,ちょうどブラウニーズ設立のタイミングだよね。
4Gamer:
亀岡さんとはスクウェア時代からの交流ではないんですか?
岡宮氏:
在籍時はお酒の席で一緒になることはありましたが仕事上の接点はなかったですね。僕が坂口さんや河津さんのタイトルを担当することが多くて,田中さんの聖剣伝説チームとは関わりを持っていなかったんです。というのも当時のスクウェアはプロジェクトやプロデューサーごとの縦割り構造になっていて,仕事上では横の交流はあまりないんですよ。
ただ,亀岡さんのパッと見ただけで描き手が分かるアーティスティックな絵柄に惹かれていて,いつか仕事をお願いしたいとは常々思っていました。
4Gamer:
それで本格的に交流が始まったのは忘年会,ということなんですね。
岡宮氏:
そのあたりのタイミングで,亀岡さんからもブラウニー・ブラウンからブラウニーズになるという話を聞いて,ちょうどいい時期だしウチで何かやりましょうかと話したのが始まりですね。
亀岡氏:
その頃はオリジナルタイトルを作りたい,好きな人と好きなものを作るために立ち上げた会社なんだよって,会う人会う人に言ってました。独立して自社の責任でやるからには,自分が嫌だと思う仕事はできる限りやりたくない気持ちが大きくて。
岡宮氏:
そのあとしばらくして,ブラウニーズさんが土日を使って開発を進めていたEGGLIAのプロトタイプと構想を見せてもらい,本格的にタッグを組むことになったんですよね。
4Gamer:
そのときのEGGLIAはどれぐらい形になっていたんですか。
亀岡氏:
完成イメージ自体は僕の頭の中に出来ていて,大枠のシステムも決まっていました。片手で遊べるスマホの利点を活かすなら画面は縦にすべきだけど,それだとどうしても世界が狭い。コンセプトにある街作りを活かすなら横幅の広いほうが世界観が伝わりやすいとか,絵的な見せ方を試行錯誤しながらどんなキャラクターを登場させるかを考えていた段階でした。
4Gamer:
頭の中のイメージとはどのようなものだったのでしょう。
亀岡氏:
キャラクターが好き勝手に動いて物語が生まれる「ムーミン谷」のようなものですかね。ほのぼのとしたゲームを作りたかったんです。キノコやタケノコを採りに行ったおじぃちゃんとおばぁちゃんがイノシシや熊に襲われる事件があるじゃないですか,そんなリアルでも起こり得るようなバトルを考えていました。こうやって言葉で説明すると地味なもんで,それがウケるかどうか売れかどうか分からないし,これは自分達で作るしかないなと。
4Gamer:
アクションやバトルをウリにはせず,ほのぼのとしたゲームにしたかったんですね。岡宮さんはパブリッシャとしてどこに可能性を感じたんですか。
岡宮氏:
課金のシステムがいいとかマネタイズによさそうとか,そういったものではなくて「作りたいものを作っている」というのがものすごく伝わってきて,僕が思い描くブラウニーズさんの世界がそこに広がっている。この世界観がほしい,ほかにないものはきっとウケるはずだから,これはウチでやってみたいと強く感じたんです。
しかも細かい仕様を聞いてみたら,ガチャはやりたくない,なんならバトルすらいらないとかなり振り切った考えを持っていて,これは逆にエッジが効いてていいなと。
4Gamer:
作品のコンセプトは丸いですけど,スマホ向けのプロダクトとしてはかなり尖っていたんですね。
岡宮氏:
そう,そんなタイトルめったにないでしょう。だから逃がしたらいけないなと。
4Gamer:
ムーミン谷のようなほのぼのさをコンセプトにされていますが,実際に形になったEGGLIAはどのような世界観を持ったタイトルなんですか。
亀岡氏:
中世ファンタジーをベースに,ほかの作品には出てこないような設定が入っている世界をイメージしていて,絵柄はリアル路線にいかず,漫画っぽくデフォルメしています。
僕と津田のコンビでキャラクターと背景を描くと,絵柄的に「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」(以下,LOM)っぽさが出てしまうんですよね。けれどそういった絵柄は,ブラウニーズだからこそ描けるものだし,ファン達も望んでいるものだとも感じていて,ブラウニーズらしさを貫くことにしました。LOMっぽさを感じているファンの方もいるので,筋をとおすというと大げさですけど,スクウェア・エニックスさんにはこういったゲームを開発していますとお話しはさせていただきました。
4Gamer:
そうだったんですね。亀岡さんは本作の世界観構築のほかに,キャラクターデザインも担当され,制作総指揮として全体を見つつ社長業もこなされてるのって,かなりハードそうですが……。
亀岡氏:
人生最後にひと踊りする勢いで取り組んでいたとはいえ,正直大変でした。
岡宮氏:
キャラクターを全部描いてもらうのは,僕からのリクエストというか条件だったんですよ。好きなことをやってもいいけど,亀岡さんのキャラクターを見たいから全部描いてねと,バーターのお約束をしてました。
4Gamer:
そんなやりとりがあったんですか(笑)。亀岡さんがキャラクターをデザインされるときは,まず靴のデザインから考えるそうですね。この世界ではどんな靴が主流になっているんですか。
亀岡氏:
靴先を尖らせず丸めた靴ですね。この世界では皮を巻いたデザインが流行っていて,キャラクターの服装や髪にも“巻く”テイストを加え,統一感を出しています。
チャボ |
ロビン |
ブラウン |
4Gamer:
人によっては顔から,髪から,服からと,コンセプトを決める箇所は違うものだとは思いますけど,靴からデザインを始めるのって珍しいですよね。
亀岡氏:
ゲームの世界を歩くのにふさわしい靴を作ったうえで,それに合う服装はなんだろうと考えたいんです。服はファッションとしてバリエーションを付けるけど,靴はその土地を歩くものだから気候や地形に合ったものでなければ行動できないと思うんです。あと,極端な話をするとファンタジーの世界なのに,ガチガチのSFの靴を履いていたら浮いちゃうでしょう。
岡宮氏:
あ〜,エグリアの世界でサラリーマンみたいな革靴を履いていたらおかしいね。みんな会社勤めなのか……ってなる。
(一同笑)
亀岡氏:
この方法はデザインの指針としてはいいんですけど,ゲームの中では砂漠や雪山にも行くことがあるから,そういった土地にも適応できるような靴にしなければならないところは難しいんですよね。
4Gamer:
亀岡さんが携わったタイトルは世界観がきちんと作品の中に根付いていると感じていました。もしかしたら,靴を主軸としたキャラクターデザインがそれを支えているのかもしれません。
亀岡氏:
ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
システムの部分にも触れていきたいのですが,物語の舞台となるエグリアはニーベルエッグと呼ばれる卵の中に封じられていて,主人公のチャボが卵を割ることでその世界を開放できますよね。このシステムにはどういった想いが込められているのでしょう。
亀岡氏:
世界をプレイヤーの手で開放させたかったんです。あらかじめ決められているマップが徐々に広がっていくよりも,思うがままに世界のパーツを配置していくほうが自分の世界を創るっている感覚になるんじゃないかと。
4Gamer:
LOMのランドメイクシステムを連想する人もいると思いますが,EGGLIAはまた違った楽しさを持ったものですよね。例えば,隣に置いたフィールド同士が影響し合って隠しダンジョンが出現したり,卵の殻を使って配置し直せたりとか。
亀岡氏:
森の隣に湖を置くと,森のフィールドに水が流れて新しいダンジョンが生まれるシステムですね。
本当は,川のフィールドを隣同士にすると川がつながって1本になる,そんな見た目の変化も与えたかったんです。最初の頃はニーベルエッグの種類も森,岩壁,海といったシンプルなものばかりで,森のニーベルエッグを4つくっつけると大森林が出来て,2つくっつけると林になる,みたいな。
4Gamer:
実装はされませんでしたが,その仕様があったら自分で世界を創っている感覚がさらに強まりそうですね。
亀岡氏:
凝ったシステムを実装しようとすると往々にしてコストはかかるもので,構想としてはいろんなアイデアがあったんですけど,現状はフィールドの中に新たなダンジョンが生まれるシンプルなシステムに留めました。
4Gamer:
フィールドといえば,ニーベルエッグを開放したときに見られるアニメーションやグラフィックスがとても印象的でした。風に揺らぐ木々や,寄せては返す波,空を漂う雲……「自分の手の中で世界が息づいている」そんな感覚にすらなりました。
亀岡氏:
スタッフ的にはもうちょっと凝りたかったみたいですけどね。
岡宮氏:
最初はニーベルエッグが割れてフィールドがスッと表示されるだけだったのに,バージョンを重ねるごとにすごくなっていて,「おいおい鳥まで飛び始めたぞ」って,驚いたぐらいの作り込み具合に進化していました。
チャボは主に“木”を切る主人公
サイコロで探索して戦う冒険パート
4Gamer:
キノコやタケノコを採取するような世界をイメージされていたとのことですが,そのアイデアは,住民が石や木,魚などのアイテムを拾ってくるシステムとして活かされていますね。
亀岡氏:
ええ,冒険中に住民がアイテムを取ってきてくれるなら主人公に何をさせよう。あっ“木こり”でいいかという流れで,そのままチャボの立ち位置も決まりました。
岡宮氏:
剣を持って探索しているのに主に切るのは木だったという衝撃の事実が!
4Gamer:
たしかに……ダンジョンでモンスターとバトルすることもありますけど,大体木を切っています。そもそも敵を倒すことがマストではなくて,街を発展させるために必要な素材を集めるために探索しているんですもんね。
亀岡氏:
元は殺戮の道具だった剣で木を切り,誰かを傷つけるためではなくて,誰かを助けるために剣を使うんです。この設定はけっこう気に入っていて,物語の中でも「剣も喜んでいるわよ,きっと」という台詞を入れてあります。
4Gamer:
チャボが残虐で血塗られたレッドキャップ族だったというキャラクター設定を知っていると,その台詞の深みがさらに増しますね。
EGGLIAには,なんならバトルの要素はなくてもいいと亀岡さんは話されていましたが,今作のバトルやダンジョン探索のシステムはどのようにして生まれたんですか。
亀岡氏:
スマホ向けタイトルってシンプルで分かりやすくなければ受け入れられない側面があると感じていて,だったら世界規模でなじみのあるサイコロを使う遊びにしようと思ったんです。サイコロで出た目の数だけマスを進める,目の数が大きければ与えられるダメージが大きくなる仕組みがシンプルでいいんじゃないかと。
4Gamer:
ダンジョンのマップは,すごろくというよりもシミュレーションゲームの印象に近いですよね。
亀岡氏:
縦横の十字型にすると古めかしくシステマチックになってしまうんで,より探索の自由度を高くするためにヘックスマスを採用しています。おっしゃるとおりヘックスマスはシミュレーションゲームで見る機会が多いものなので,ぱっと見の印象で「難しそう」と思われやすい。だからこそ,バトルはできる限りシンプルに,スタッフ達にも複雑なシステムはいれないでねとお願いもしていて。
4Gamer:
ゲームに慣れ親しんでいる人ならば複雑なシステムが入っていても流れで理解してくれますけど,遊び慣れていない人が触ったときに,つっかかりを感じさせてしまうかもしれませんね。
亀岡氏:
あと,EGGLIAには武器や防具といった装備を付け替えるシステムがなくて,精霊をその代わりとして採用しています。
4Gamer:
探索に連れて行く3体の精霊によって,チャボのHPや攻撃力,防御力のステータスを上昇させるシステムですね。
岡宮氏:
このシステムがなかなか面白いんですよ。バトル自体はシンプルな仕組みなのに,精霊の使い方がプレイヤーによって違っているから,フィールド探索にバリエーションが出るんです。
4Gamer:
精霊の組み合わせによっては“リンクルーン”と呼ばれる特殊効果が発動し,チャボのステータスを上昇させるバフ効果が付与されますし,精霊によってルーンの効果も見た目も性格も異なっていて,どの子を連れて行くかとても迷います。
亀岡氏:
スピリトークで垣間見えるキャラクター性や裏設定,絵柄を見ながら冒険のお供を見つけてみてください。精霊はベースとなる進化前だけで70体ほどいて,その子達が進化した姿も含むと140体ほどいますんで。
4Gamer:
その精霊達を井戸(精霊のほこら)に置いた料理で呼び出すんですよね。
亀岡氏:
ええ。今はその形に落ち着きましたけど,もともとは精霊を捕まえる方法がいろいろあって,モンスターに食べられてしまった精霊を助けたり,部屋のコーディネートを気に入ったら現われるようになったりする案もあったんですよ。
4Gamer:
部屋のコーディネートといえば,本作は部屋作りも見所の1つですよね。最初に遊ばせていただいたときは,この要素だけで何時間遊べるんだろうって,驚きました。
亀岡氏:
僕は部屋作りにこだわらない人なもんで,部屋のコーディネートが好きなスタッフにすべて任せてました。そうしたら想定していた以上に物量が膨らんでいて,家具の数も軽く200は超えています。
家具1つ1つの仕上がりにも余念がなくて,外注会社と「デフォルメ感が違う」と何度もやりとりしてたみたいで。
岡宮氏:
デフォルメもそうだけど,亀岡さんと津田さんの独特なトーンに合わせないといけないから,その世界観に合わせる作業もきっと大変だよね。
亀岡氏:
どんなテイストの家具であっても,エグリアにマッチするものでなければならないから,相当大変だと思いますよ。
家具の中には海とか川とか船もあるしで,部屋の中に海を作ろうって発想がスゴイなって思いました。
4Gamer:
空,橋,木も家具として存在しているって,すごく懐の広いラインナップですよね(笑)。部屋作りの常識にとらわれない自由さがいいです。
亀岡氏:
これもスタッフのこだわりなんだけど,家具を設置する場所によって床置き/壁掛けの状態に自動で切り替わるものもあったりします。しかも触ると動く家具や効果音も追加されていて,プログラマーを巻き込みながらすごい仕様にしてきたなと思いました。今になって思うのは,好きなスタッフに任せたからこそ,ここまでのものができたんじゃないかなと。
岡宮氏:
ブラウニーズのスタッフの良さの1つはモチベーションの高さですよね。最初から最後までずっと高いままで。
亀岡氏:
やっぱり好きなことをやれていると違いますよ。やらせるのと,やりたいって自分で思うものは輝きが違うんです。
4Gamer:
ここまでのお話のほかに,印象に残っているエピソードはありますか。これは大変だったな,というものでもかまいません。
亀岡氏:
自分の中にあるEGGLIAのイメージを,きちんとスタッフに伝えるのが一番大変だったかもしれません。どうしても言葉だけではすべてのイメージを伝えきれなくて,今風なゲームに置き換えて話さないと理解してもらえないこともあったなと。
岡宮氏:
全部の要素がつながるまでも大変でしたね。東京ゲームショウ2016のときには,探索,街作り,部屋作りの1つ1つの要素は出来ていて,パートごとに遊ぶと楽しかったんですけど,それぞれの要素がプレイサイクルとして実機上ではまだつながっていなくてドキドキしていました。
亀岡氏:
ゲームショウ後のタイミングで,街に村人が来てお願いごとを聞くと新しいイベントが起きる,その一連のサイクルができたんです。個々のパートを充実させることばかり考えていたスタッフも,サイクルが見えたことで同じ方向へ進むようになってくれて。
4Gamer:
亀岡さんの中にあったイメージが伝わって,それが形になった瞬間ですね。岡宮さんは印象的だったエピソードはありますか?
うーん,曲が増えたことですね。
亀岡氏:
プロデューサーの立場からしたらでかいっすよね! って,またそこをイジメたいんですか(笑)。
岡宮氏:
要所要所で言っておかなきゃと思って(笑)。だって,開発が進んでいくと曲がどんどん追加になっていて……。
亀岡氏:
ああ,現場から「曲追加したいんですけど,いいっすかね?」ってちょいちょい聞かれるもんだから,ダメって言われないならいいんじゃなーいってとおしてた(笑)。
4Gamer:
作るシーンやシステムが増えれば,そのシーンに合わせたサウンドがほしくなるものですよね。
岡宮氏:
全部を下村陽子さんにお願いするのはスケジュール的に難しくて,助っ人として「シャドウハーツ」や「THEATRHYTHM FINAL FANTASY」の作曲/編曲担当で,僕と一緒にEARTHBOUND PAPAS(※)もやっている弘田佳孝さんにも手伝ってもらっています。
(※)植松伸夫氏をリーダーとしたロックバンド。
亀岡氏:
このシーンに合うのがないってなったら,ねぇ。ちょっとだけ追加したくなるんですよ。うん,ちょっとだけちょっとだけ。
岡宮氏:
いやいや,結構増えてるからね!(笑)。
4Gamer:
苦労話につながるところで1つお聞きしたいのですが,亀岡さんは現場仕事をしながら会社を支えられていますが,モチベーションを維持される秘訣はありますか。
亀岡氏:
秘訣じゃないですけど,弱音を吐くとヴァニラウェアの神谷盛治という男が火をつけてくるんですよ。そうなると「じゃあ,やってやるよ!」って気持ちになるんです。
4Gamer:
ヴァニラウェアも独特のグラフィックスや世界観のあるゲームを作る開発会社で,どことなくブラウニーズに似ていますよね。
亀岡氏:
そうなんです。スタッフ数や社長の会社での立ち位置もすごく似ているんです。
僕が「そろそろ引退しようか」と弱音を吐くと,「何言ってんすか,まだ甘いっすよ」って返してくるんです。うちは最近事務員を雇い始めたんですけど,神谷さんは事務員も入れずキャラデザもシナリオも事務も社長業も全部自分でこなしてて。だからあの人にだけは何も返せないんです。
岡宮氏:
自分以上のことをこなしていると思っている人に言われちゃうとね。
4Gamer:
どこでお知り合いになられたんですか。
亀岡氏:
神谷さんのことは,パンの耳を主食にじり貧生活をしながらゲームを作っていたっていうインタビューを4Gamerさんで読んで知りました。あれだけこだわりの強いゲームを作っているということは,さぞや良い環境で開発しているのかと思いきや,そうじゃなかった。少人数でギリギリのところで作りつづけていたことに衝撃を受けたんです。それで記事を読んだあとに,この人に関わってみたくてすかさずアポを取ったら,「僕もブラウニーズさんを注目していたんで,一度お話ししましょう」と東京まで会いにきてくれたんです。そこからずっと仲良くさせてもらってます。
買い切りアプリ1200円は安い? 高い?
背中を押したのは「スーパーマリオ ラン」
本作は価格1200円での販売となりますが,昨今のスマホ向け市場では買い切り型のアプリはめずらしいと感じています。
EGGLIAの開発状況をお聞きしたときにマネタイズの部分がフワッとしていると何度か耳にした記憶がありまして,もしや買い切り型のマネタイズ方式を採用されるまで,紆余曲折があったのではないかと……。
亀岡氏:
なんとなく決まっていたのはガチャを入れないことだけで,マネタイズに関して考え始めたのは開発中盤以降のタイミングでしたね。スマホ向け市場のトレンドは変わりやすいこともあって,最初から買い切り型にしようとは決めず,ゲーム内でアイテムを購入していただく微課金型のモデルも視野に入れてました。
岡宮氏:
それこそ去年の段階ではゲーム内にスタミナの概念があって,時短アイテムやスタミナ回復アイテムを販売する可能性もあったんです。けれど,EGGLIAを遊んでいると最近のスマホ向けゲームとはテンポが違い,せかされたり,止められたりすると面白さが半減してしまうと感じていて,どの方式がベストなのかを模索していましたね。
4Gamer:
買い切り型を採用する後押しはなんだったのでしょう。
岡宮氏:
理由はいくつかあって,1つ目は東京ゲームショウの映像をYouTubeにアップしたら,海外の人も見てくれたようで,そこに「ガチャとスタミナはGo to Hell」とコメントがあって(笑)。やっぱりガチャやスタミナの要素を最初から嫌がる人もいるんだなと感じたのと,EGGLIAの情報を追っているファンの方からも,買い切りがいいというご意見がぼちぼちきていたんです。2つ目は2016年12月に「スーパーマリオ ラン」(iOS / Android)が配信されて,この波に乗るしかないとなったことですかね。
4Gamer:
スーパーマリオ ランはダウンロード無料で,おためしコース以降は1200円でフルアンロックすると最後まで遊べる形式でしたね。その後リリースされるアプリに大きな影響を与えていて,例えば「カルチョビットA」(iOS / Android)も同じ価格/方式をとっています。
岡宮氏:
やっぱり,影響は大きいですよね。ただ,よくよく情報を追ってみたら最初のダウンロードは無料だったので,買い切りスタイルで1200円の波に乗ろうとしていた側からすると「猪木にUWFへ誘われた前田日明」(※)の気持ちになりました。けれどもう後には引けないタイミングですし,やるしかないと決断したわけです。
(※)アントニオ猪木氏は新団体UWF立ち上げ時,前田日明氏に入団を打診していたが,声をかけた本人は諸事情により新日本プロレスの社長に返り咲いてしまい団体に加わることはなかったというエピソード。
4Gamer:
ああ,EGGLIAはダウンロード無料ではなく,ダウンロード時に1200円で購入する形式ですもんね。この価格設定はスーパーマリオ ランを基準にしてるんですか。
岡宮氏:
そのまま同じにしてみたというより,人にオススメしやすい価格にしたかったんです。例えば価格をコンシューマゲームと同じ3000〜4000円ぐらいにすると,熱烈なファンの方には買っていただけるかもしれないけど,それを友達にオススメできるかというと,価格がボトルネックになってオススメしづらくなってしまいますよね。だから,ストアのラインナップに並んだときも突出しすぎない価格感がベストといいますか。
亀岡氏:
海外の方に買い切り型アプリの値段の基準を聞いてみると大体10ドルだよと言ってましたし,ワールドワイドで見ても1200円って悪くない価格なんじゃないかなと。
4Gamer:
遊ぶ人のプレイスタイルによるところではあると思うんですけど,ガチャを前提としたゲームだと,月に3000〜4000円支払う人も多いと感じていて,同じタイトルに継続して課金していくよりも,買い切り型のスタイルでゲームのすべてを楽しむ形のほうがプレイヤーは幸せなんじゃないかと思うところがあります。
岡宮氏:
今の基本プレイ無料のゲームは,遊んでいる人の意識が払う,払わないで二分化していますよね。Free-to-Play形式って,裏を返せば遊ぶ人によってゲームの値段を決められるシステムなので,僕としては可能性を感じていたんです。けれど最近は,その可能性がプレイヤーと開発者の双方にとって,あまり良くない形で狭くなってきているなと。そんなときだからこそ,昔のスタイルともいえる買い切り型でゲームを出すのは,ビジネス的にチャレンジしていい選択肢の1つだと思っています。
4Gamer:
マネタイズって難しいですよね。お金を出さない人は120円であっても1000円であっても,価格に関係なく出さないもので,お金を出す人は120円であっても1000円であっても出してくれる傾向がある気がします。
岡宮氏:
基本プレイ無料にしておけば,コンテンツはなんでもよくて,課金システムの工夫次第でなんとなくの流れで課金してもらえると幻想を抱いている人がたまにいますけど,そういった思惑にのせられて課金してくれる人ってじつはもうあまりいない。
実際に課金をしているのはコンテンツを気に入って最初からお金を出すつもりで遊んでいる人達であって,彼らが継続してお金を払ってくれているだけなんです。
4Gamer:
話がパブリッシャ目線に寄ってしまいましたが,デベロッパとしてもマネタイズの部分は悩まれたんじゃないでしょうか。
亀岡氏:
仮に微課金方式をとった場合,どれぐらいのゲームバランスにするとみんながアイテムを買いたくなるのかとか,有料販売しているのにアイテム購入を前提にした仕組みにすると遊び手がかわいそうだよな……とかグルグル考えてました。
マネタイズを買い切り型にしたあとは作り手として余計なことを考えずに済んでスッキリしましたね。
4Gamer:
今後の展開として気になっているのですが,EGGLIAはエピソードの追加販売はされますか?
岡宮氏:
亀岡さんにはまだアイデアがいろいろとあるみたいなので,続編のような感じで同じ世界を舞台とした新しい物語などを追加コンテンツで出す可能性はあります。ただこればかりは売れ行き次第なのでお約束はできなかったりしますが(笑)。ゲームの本編は1200円で購入していただければ,物語の最後まで隅から隅まで遊ぶことができますので,そこは安心してください。
親から子へ受け継がれるタイトルでありたい
4Gamer:
質問がちょっと漠然としているのですが,お2人が考えるブラウニーズらしさって何だと思いますか?
亀岡氏:
僕本人はドSですし,エロいんですが(笑)。ブラウニーズで作るものにはエロや残酷なシーンを入れるのはやめようなって,日頃からスタッフに言っています。らしさというよりも信条に近いかもしれません。
4Gamer:
前にお話しされた“後ろめたさ”と関係がありそうですね。
亀岡氏:
僕はゲームって良くも悪くも遊び手に影響を与えてしまうものだと思っているんですよね。かつて制作したゲームに「多大な影響を受けました!」というファンの方からのありがたい言葉ももらいますし。ならば,自分たちは少しでも良い影響を与えられるようなゲームを作っていくべきじゃないかと。
4Gamer:
それは,いいものだと胸を張って言える作品を作りたいという想いでもありますね。
若い頃って“自分主体”で物事を判断しますけど,歳をとってくると“子供に与えるなら”という目線で見てしまうようで,良い影響/悪い影響を考えてしまうんです。
以前,松野泰己さんから「自分にはまだ子供がいないけど,今まで自分が作ってきたゲームは子供にすすめづらい。ブラウニーズさんみたいな子供に自信を持ってすすめられるゲームを作りたい」って話を聞いたこともあって,ある年齢を超えると親目線の物作りになっていくんだなと思いました。
岡宮氏:
松野さんの心の闇の部分をゴリゴリ抉るようなダークファンタジーも,すごくいいと思うんだけどなぁ。僕だったら自分の子供にすすめちゃうけどね。
4Gamer:
MOTHER3,マジカルバケーション,LOMといった,亀岡さんの携わってきたタイトルは,メッセージ性に溢れていて,遊び手の心に温かい気持ちを残すタイトルだと個人的に感じています。今もなおファンに愛され,親から子へ受け継がれるタイトルの良い例なのではないでしょうか。
亀岡氏:
ありがとうございます(笑)。
そういう作品をブラウニーズでは作り続けていきたいですね。何十万もお金を使って忘れられないタイトルはあるかもしれないけど,良い意味で遊び手の記憶に残るスマホ向けのゲームってまだないんじゃないかと。なら,ブラウニーズが「みんなのココロにいつまでも残るスマホ向けタイトル第一号を創ってやろう!」って。
岡宮氏:
遊んだ人の心にプラスを上乗せしていける“心の糧になるようなゲーム”になって欲しいです。
亀岡氏:
こんな真面目な話をしてますけど,そんな僕達は大人なコンテンツも扱うDMM.comと組んでゲームを出すんですけどね!
岡宮氏:
エロも美少女もパンチラもない,そんなEGGLIAをDMMから出すって,ちょっとした挑戦ですよね。人によっては,えっそこから出すの? って思う人もいそうで(笑)。
4Gamer:
それを実現できたのは,POWERCHORD STUDIOだったからというのも感慨深いものです。それでは締めの質問として……EGGLIAはプレイヤーにとってどんなタイトルになってほしいですか。
亀岡氏:
日常の癒やしであり,生きづらい世の中の逃げ場になれるタイトルですかね。日常がつらくて純粋に楽しめている人は,今のご時世では少ないと感じています。
僕らの力で楽しませるなんておこがましい考えではないんですけど,せめてそういった人達の逃げ場になりたい。嫌なことがあっても,家で「アロエちゃんもつらいのか,そうか,そうか」とEGGLIAの世界に浸って,少しでもココロが癒やされてもらえるような場所になってもらえたらうれしいですね。
岡宮氏:
10年,20年経っても遊び手の心に残る作品,プレイされた方がお子さんにもすすめられる作品になってくれたらうれしいですね。EGGLIAは時間に縛られないゆったりとしたゲームなので,手に入れたらジックリ,まったり遊んでいただいてゲームの面白さを噛みしめてほしいです。
ブラウニーズという小さな会社が好きなように作ったタイトルというのみならず,今のご時世とてもチャレンジャブルな“漢気1200円”という売り切りタイプのアプリです。売れ行きはファンのみなさんの口コミ力にかかっていると言っても過言ではありません! もし遊んでいただいて少しでもココロに響くものがありましたら,ぜひぜひお友達にすすめていただけるとうれしいです。
4Gamer:
配信を楽しみにしています。ありがとうございました。
――2017年3月6日収録。
「EGGLIA 〜赤いぼうしの伝説〜」公式サイト
- 関連タイトル:
EGGLIA 〜赤いぼうしの伝説〜
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EGGLIA 〜赤いぼうしの伝説〜
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(C)DMM.com POWERCHORD STUDIO/BROWNIES
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