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「森友学園 籠池氏証人喚問」(時論公論)(時論公論)

増田 剛  解説委員

大阪の学校法人「森友学園」の籠池理事長の証人喚問が、きょう(23日)、衆参両院の予算委員会で行われました。籠池氏の証言は、関係者の名前や当時の状況などが詳細に示され、緊張感と臨場感のあるものでした。その一方で、国や大阪府、そして、安倍総理大臣のこれまでの説明と食い違いが目立ち、むしろ、疑問が膨らんだ印象も受けます。この問題について考えます。

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では、証人喚問のポイントを押さえておきましょう。

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森友学園に対する国有地の売却交渉にあたって、政治家の関与はあったのか。また、金額の異なる3つの契約書が作られたのはなぜか。
そして、安倍総理から寄付金があったとする籠池氏の発言の真偽についてです。

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まず、国有地が鑑定価格より大幅に低く売却された経緯について。
大阪・豊中市の、鑑定価格9億5600万円の国有地が、森友学園の小学校建設予定地として、1億3400万円で売却されました。交渉にあたった近畿財務局は、地下からゴミが見つかったという報告を受けたため、撤去処分費用としておよそ8億円を引いたと説明しています。こうした異例の土地取引が行われた背景に、政治家の関与はあったのでしょうか。

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籠池氏は「弁護士に土地取引に関する一切の交渉をお願いしたところ、最終的に想定外の大幅な値下げになり、その当時は、ちょっとびっくりした」と述べました。籠池氏は「政治的な関与はあったのだろうと認識している」と述べましたが、交渉の詳細や経緯は、自分にはわからないとしています。

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また、「小学校の設立に関する大阪府への申請では、亡くなった元の府議会議長に、松井知事や府に力添え頂けるようお願いしていた。そのおかげで、大阪府の当時の総務部長などにも説明させて頂き、特別な取り計らいを頂いたものだと感謝している」と証言しました。

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松井知事は、「籠池氏を知らないし、会ったこともない。『森友を優遇せぇ』という指示をしていたら、知事を辞める」と述べていて、小学校の用地取得や認可で、森友学園に便宜を図ったことはないとしていました。双方の認識に微妙な食い違いがあるようです。
さらに、籠池氏は、この問題が盛んに報道されるようになったころ、財務省の佐川理財局長の命として、部下のシマダさんから『10日間隠れていて』と弁護士を通じて言われたと、明らかにしました。
事実であれば、大変な問題ですが、財務省は「そのような事実はない」と否定しており、双方の主張は、ここでも食い違っています。

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こうした事態を受けて、与野党は、売却交渉が行われていた当時、財務省理財局長だった迫田国税庁長官と、近畿財務局長だった武内国際局長を、24日の参議院予算委員会に参考人として招致することで合意しました。当然の判断でしょう。価格が大幅に下げられた経緯は、もはや、交渉当事者にしかわかりません。籠池氏の証言との食い違いも含めて、徹底的な真相の解明を期待します。
また、今後の展開次第では、大阪府の幹部や、場合によっては、籠池氏が「はしごを外された」とする松井知事にも、国会で話を聞く必要が出てくるかもしれません。
次に、森友学園が、金額の異なる3つの工事の契約書を作成していたことについて。

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国には、23億8000万円、大阪府には、およそ7億5000万円と報告し、さらに、この2つとは別に、およそ15億5000万円とする契約書を作っていました。

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開校を認可するかどうかを決める大阪府には、最も低い金額を報告して財務状況をよく見せる一方、国には最も高い金額を報告して、より多くの補助金をもらおうとした疑いが持たれています。

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籠池氏は「刑事訴追の可能性があるので、答えを控えたい」と証言を拒否しました。大阪府の松井知事は、「提出された財政計画が偽造だったとなれば、我々が振り回されたことになる」として、業務妨害の疑いで刑事告訴を検討する考えを示しています。この問題が刑事事件に発展するかどうかも、焦点のひとつです。
そして、小学校の設立にあたって、安倍総理から100万円の寄付を受けたなどとする発言の真偽について。

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籠池氏は「おととしの9月5日、安倍総理の夫人の昭恵氏が当幼稚園で講演した際、控室だった園長室で、同行したお付きの方に席を外すよう言ったのち、私とふたりきりの状態で、『どうぞ安倍晋三からです』と言って、寄付金として封筒に入った100万円をくださった。大変、名誉な話なので、鮮明に覚えている」と述べました。
これについて、菅官房長官は「安倍総理も昭恵氏も寄付はしていない」と即座に否定しました。昭恵氏自身も、さきほど、フェイスブックにコメントし、この証言を否定しました。この中で、昭恵氏は、「私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたことも、ありません」としています。また、安倍総理も、これまでの国会審議で、昭恵氏を含めて寄付を行ったことはないと明確に否定しています。
ただ、万が一にでも、籠池氏の証言通り、寄付があったのならば、安倍総理は、国会で事実と異なる答弁をしたことになり、法的な責任はないとしても、道義的な責任が生じる可能性があります。

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さらに、籠池氏は、国有地の問題をめぐり、昭恵氏の助けを得ようと、携帯電話に電話し、留守番電話にメッセージを残したこと、その後、昭恵氏付きの職員から、財務省に問い合わせた結果を回答したファックスが送られてきたことを証言しました。さらに、昭恵氏の関与について、「財務省の方に多少の動きをかけていただいたということだった。ゴミが出たあと、急転直下、物事が動いたということは、そういう考え方もあろうかと思う」と述べています。
これに対し、菅官房長官は、ファックスは、籠池氏側から職員に書面が送られ、職員が要望に沿えないとする回答をしたものだと説明し、昭恵氏の関与を否定しました。

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昭恵氏は、籠池氏が開校を計画していた小学校の名誉校長に就任し、幼稚園で講演もしていました。名誉校長を辞任するまで、事実上、学園の広告塔を務めていたに等しいという指摘もあります。

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昭恵氏が、名誉校長を退任した後も、籠池氏の妻とメールのやり取りをしていたことも、明らかになっています。口止めだったのではないかという疑問を払拭するためにも、メールを公開することは、もはや不可欠でしょう。

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民進党の蓮舫代表は「籠池氏の証言は、一方的過ぎるので、双方向で確認させていただく意味でも、昭恵夫人に、国会に同じ条件で、フェアに証人喚問でお越し頂きたいと、政府に要求していく」と述べています。これに対し、自民党の竹下国会対策委員長は、「新たな問題は全く出てこず、明らかに一区切りついた」と述べ、国会招致は必要ないという認識を示し、与野党の主張は完全な平行線です。

今回の問題が図らずも浮き彫りにしたのは、安倍1強といわれる政治状況のもと、安倍総理のいわば威光を借りて、みずからの利得を図ろうとする社会的勢力が存在すること、そして、国民の多くは、そうした社会のあり様に、違和感を覚えていることです。
今回の証人喚問を通じて、多くの食い違いが明らかになり、疑問も残されました。国の許認可行政への不信を取り除き、政治への信頼を取り戻すためにも、国民の多くが納得する形で、真相究明に取り組むことが、国民の付託を受けた国会の責任ではないでしょうか。

(増田 剛 解説委員)

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