人間椅子・和嶋慎治の『イカ天』バンドブーム後の暗黒時代――売れない時代に経験したお金がない怖さ

サラリーマンはすごい。本当に尊敬している


――いまは、音楽活動だけで食えているわけですよね。

和嶋:はい、ようやく。とてもありがたいことだと思っています。とはいうものの、僕らは「音楽だけで食える」状況を目標にしてバンドを続けてきたわけでもないんですよね。要は、音楽を諦めたくなかった。だから、死ぬまでアルバイト生活なんだろうな、という覚悟もしていたんです。それでも、バンド活動は続けたかった。

――執念みたいなものでしょうか。

和嶋:創作活動以上にやりたいことが、他にないんですよ。

――本当にやりたいことを諦めずに続けることで、活路が開けてくる。

和嶋:そういうところはあると思います。ただ、続けるだけでも駄目で、やはりミュージシャンとかクリエイターとして生き残っていくには、運や本人の魅力も必要でしょう。というか、人間的な魅力がある人のところには、運も引き寄せられていくもので。周囲を見回してみると、ミュージシャンとして生き残っている人は、やはり魅力的なんですよね。

――運も実力のうち、みたいなことでしょうか。

和嶋:そうですね。演奏が上手い人は、アマチュアの方にもたくさんいます。楽器は練習すれば上手くなりますから。でも、プロとして人様からお金を頂戴するようになるには、他にはないような何かしらの魅力が求められてくる。そしてそれは、自分でも意識的に磨き続けていくものじゃないでしょうか。

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wajima4――やはり、生まれ持った魅力であるとか、才能も必要ですか?

和嶋:残念ながら、必要でしょうね。僕自身も「この人にはかなわない」「本当にすごいな」と魅力や才能の差に愕然となる経験を重ねてきましたから。演奏ひとつとってもそうです。技術が優れていて、上手なんだけど、魅力が感じられないことはいくらでもあります。文章だって同じでしょう。文字を知っていれば、誰でも文章を書くことができる。でも、お金を払ってまでその文章を読みたい、と思ってもらえる人は一握りです。それはつまり、そこに技術を超えた独特の視点なり、魅力なりがあるからなんですよね。

――やはり、会社員とは違う能力が求められてくると。

和嶋:ミュージシャンやクリエイターと、会社員との間に優劣を付けるつもりはないです。それぞれの仕事で求められる能力が違ってくるのは当然の話で、そこでプロとしてお金を稼いでいるというのは、いずれにせよ尊いことに違いありませんから。

――和嶋さんの目には、サラリーマンってどう映っているのですか?

和嶋:お世辞でも何でもなく、すごい人たちだなと尊敬していますよ。たぶん、いろいろなことを我慢したり、甘んじて受け入れたりしながら仕事をしているのだと思うんです。職業人として、立派だなと思います。僕にはできないことですから。いま振り返ってみると、暗黒時代のさまざまなアルバイト経験を通じて、まったく世界が違う方々と一緒に過ごす機会を得たことは、とてもよかったなと感じているんです。いろいろ教えられました。

――どんなことを学んだのですか?

和嶋:やはり「働くって尊いな」「お金を稼ぐって大変なことだな」ということですね。みんなが頑張って働いているから、自分も生かされているし、社会は回っているということを、実感を伴った形で知ることができた。僕たちが音楽を続けていられるのも、皆さんが頑張って働いてお金を稼いで、そのお金でCDを買ってくれたり、コンサートに足を運んだりしてくれるからなんですよ。それって、どれほどありがたいことか。どれだけ感謝をしても、したりないです。

【和嶋慎治】
1965年、12月25日生まれ。青森県弘前市出身。高校時代の同級生である鈴木研一(ベース)と人間椅子を結成。ギターとヴォーカル、作詞作曲を担当する。近年は、ももいろクローバーZの楽曲のギターとして参加したり、上坂すみれ(声優)、ひめキュンフルーツ缶などへの楽曲提供もする。初の自伝本『屈折くん』が発売中

<取材・文/漆原直行 撮影/渡辺秀之>

屈折くん

人間椅子の中心人物、和嶋慎治による初の自伝!! 幼少期からバンド結成、現在までを明かす!!

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