深夜のオート静かな快走 飯塚で第1弾シリーズ
競輪ではおなじみになったミッドナイト開催が、本年度からオートレースでも本格的にスタート。17~19日に飯塚オート(福岡県飯塚市)で第1弾シリーズが争われた。競輪と同様にレース場には観客を入れず、車券はインターネットでのみ発売。3日間の売上額は1億7200万円余り(1日平均5733万円)と、目標額(1日5000万円)をクリアする上々の滑り出しだった。オートレースは昨年度、業界全体の売上額が10年ぶりに前年度比プラスを計上。ミッドナイトという新たな開催形態の導入によって、業界がさらに好転する期待に満ちている。
直線では「ブーン」と聞こえても、カーブでは「シューッ」と静か-。
ミッドナイトレースの飯塚のバンク。いつもなら「グオーン」「バリバリバリ」と爆音が響くが、市販バイク並みの穏やかなエンジン音だった。「普段とは違う消音性の高いマフラーを装着しているので、レース場内でも室内にいれば、レース中かどうかも分からないほどです」。飯塚の運営を請け負う「日本トーター」(本社東京)の飯塚オート事業所の菊地敦也所長が説明した。
爆音はオートの大きな魅力である一方、レースを行うのが午後8時半ごろから同11時半すぎのミッドナイトでは大きなネック。しかし、オート業界が開発した特製マフラーによって完璧に対処。周辺住民の夜中のひとときを妨げずに開催することを実現した。
■周辺住民に配慮
ミッドナイト導入のきっかけは、売上額の低迷が続く業界の苦境だ。各レース場の経営も苦しく、全国5場のうち3場は収益確保のため民間に運営委託。飯塚は2015年度から日本トーターに委託している。
同社は状況打破の一策として、既に競輪で成果を上げているミッドナイト開催を飯塚市側に提案。行政や周辺住民の賛意を得て、まず昨年11月に試行した。するとファンから「これまでは買う暇がなかった。深夜に開催してくれてありがとう」との声が寄せられた。売上額も目標比約3割増しの1億9016万円余り(3日間の合計)。手応えを得て、本年度からの正式な導入が決まった。
菊地所長は「生活様式が多様化する中、新規層の取り込みや、離れてしまった以前のファンの呼び戻しが狙い」と話す。その上で「昼間などの通常の開催日数は従来を維持。ミッドナイトはプラスアルファとして、ここで収益を確保し、通常開催に還元できれば」と、レース場のにぎわいを取り戻すための好循環の仕組みを目指す。
この“プラスアルファ”は選手にもプラス。オート界は開催日数を削ることで収支改善を図ってきたため、各選手の出場機会は激減。だが、これで出場機会は“純増”。選手サイドも「自分たちはレースを走ってこそなので歓迎」と、やっと訪れた拡大局面を喜ぶ。
本年度は計9節を開催予定。菊地所長は「年度最後に、ミッドナイトの全優勝者が集まる企画が組めたら…」と思い描く。競輪にはないミッドナイトの「ストーリー性」が実現すれば、オートのミッドナイトの魅力はさらに広がる。
◆競輪のミッドナイト
競輪のミッドナイト開催は2011年1月に北九州市の小倉競輪でスタート。無観客で行い、インターネットでのみ車券を発売する方式もここで初めて誕生した。無観客なので警備や発売の人員が不要なため、経費を大幅に圧縮できるのが特長。今や業界にとっては“ドル箱”だ。
小倉に続き前橋、青森、高知、佐世保、玉野、奈良も加わり、ミッドナイト実施場は7場。今後はさらに広がる予定。
■“スリッパ”から火花 夜は一層はっきりと
飯塚のレース中継で解説を務める元選手の釜本和茂さんがオートの魅力を解説した。「何といっても最高時速150キロのスピード感。それと、オートは強い選手が後ろからスタートするため、前を逃げる選手を強豪が次々と抜いていく様子は見応えがある」。夏場の熱い走路はタイヤが滑りやすく、後ろからスタートする強豪には不利なのだが、「ミッドナイトなら走路温度が下がって滑りは軽減し、“抜き”の迫力が増す」という。
もう一つ、釜本さんが挙げる見どころは「スリッパからの火花」だ。“スリッパ”とは、選手の左足の靴底に装着された金属。選手は足を地面に付けてカーブを曲がる。その際に靴底が摩耗するのを防ぐため、馬のひづめのように取り付けられたもので、接地面からは花火のような赤い火花が散る。「明るい昼より、夜ははっきり見えます」(釜本さん)。オートのさまざまな魅力が存分に味わえる一面もあるミッドナイト開催だ。
◆車券を買うには
インターネット銀行の「楽天銀行」か「ジャパンネット銀行」の口座があれば、「オートレースネットバンク会員」に登録するだけですぐに購入が可能。
口座がなくても、両銀行ともインターネット上だけで口座開設を申し込めるので、車券購入の環境は手軽に整う。
その他、ネット上の民間の投票サイト「オッズパーク」「ギャンブー」「チャリロト」を通じても車券が買える。
◆レースは無料で放送
レースの模様は、オートレース公式ページのインターネット中継のほか、CS放送「スカパー!」の「ベターライフチャンネル」でも無料で実況中継される。
■今後のミッドナイト日程
◆6月14日(火)~16日(木)
◆6月26日(日)~28日(火)
◆7月19日(火)~21日(木)
◆8月2日(火)~4日(木)
◆9月27日(火)~29日(木)
※10月以降も実施
=2016/05/24付 西日本スポーツ=