日本の人口減少の速さや高齢化の進行度合いが、これまでの見通しより少し緩やかになる。

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が、そんな新たな人口推計を公表した。

 30~40歳代の女性が、5年前の前回推計時の予測より、実際には多く子どもを産んでいる実態を踏まえたという。

 だが、足元の出生率の改善を織り込んでも、日本の総人口は2015年の1億2709万人から50年後には8808万人に減る。総人口に占める65歳以上の割合も、26・6%から38・4%に上昇する。

 日本が深刻な人口減少、超高齢社会に直面している現実に変わりはない。

 厚労省は、30~40歳代の出産増加について、保育の受け皿の整備など子育て支援策の充実が下支えになったとみる。

 たしかにそうした側面はあるだろう。ただ、出生率の動きは景気の動向に連動する傾向がある。前回の推計後、景気がおおむね回復基調だったことを考えると、楽観はできない。

 むしろ、20歳代の出生率は前回推計を下回り、晩産化の傾向は続いている。結婚したくても出来ない若者も少なくなく、50歳まで一度も結婚しない人の割合は上昇が見込まれている。

 子育て支援にしても、働く女性の増加に保育所などの整備が追いつかず、待機児童ゼロの目標達成は先送りされた。

 若者の雇用の安定と、子どもを生み、育てやすい環境の整備は、引き続き喫緊の課題だ。

 もっとも、出生率が改善を続けても、効果が表れるのはずっと先だ。「団塊ジュニア」がすでに40歳代になり、親となる世代が今後は少なくなって、出生数自体も減る。人口減に合わせた社会の仕組みの見直しにも取り組まねばならない。

 現役世代によって支えられている年金制度は給付減が避けられない。一方で、高齢期には医療や介護の必要度が増す。サービスの確保、負担の分かち合いなど、制度を安定させるための議論は待ったなしだ。

 働き手を増やすには、女性や高齢者も働きやすい職場づくりをはじめ、働き方改革の検討と実行が大切だ。海外からの人材受け入れのあり方も大きな課題になるだろう。

 これからの政策と行動で、未来は変えることができる。だが人口減を目の前の危機ととらえず、対策を怠ってきた結果が、日本の現状でもある。

 将来の日本の姿から何を学び、どう生かすのか。新人口推計を有効に役立てたい。